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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第三部

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11 暗転

 美しい星の河が夜空を照らす。

 森の中で娘が薬草を摘んでいた。


「大量!、大量!」


 娘はヴィヴィアと同じ赤い髪をしていた。瞳もくすんだ苔のような緑の瞳。

 籠いっぱいの薬草をみて満足げに笑った。


 空を見上げると満点の星空。河のようにみえる星は美しく娘はほうっとため息をついた。


「綺麗……そっか、村の方ではお祭りかぁ」


 いつから始まったかわからない星河祭。村は星空を讃えダンスをしていた。森の中でもかすかに音楽が流れてくる。


「ふん、いつも私を毒だ何だと毛嫌いしているくせにいい気なもんだい」


 奴らが楽しんでいる間もこうして夜しか採れない薬草摘みに精を出しているというのに。


「また毒におかされても今度は助けてやるもんかい」


「やぁ、君が毒の魔女かい?」


 後ろからにゅっと現れた黒いローブの男に、娘はひっと悲鳴をあげた。


「何よ、あんた」

「おやおや、驚かしたようだね。実は君を退治するように王に直訴がきて偵察に来たのだよ」


 退治、王、直訴。

 単語を聞いて娘は皮肉気に笑った。


「ついに私が邪魔になったのね」


 森の中、彷徨う人間をみかけて助けようにも毒の魔女と忌み嫌われて逃げられて石を投げつけられる始末。

 私は何かしただろうか。

 むやみに毒を盛ったりなどしていない。

 むしろ奴らが毒におかされれば助けたというのに。


「いいよ、来なよ。人間の魔術師ごときが私に敵う訳ない」


 女神に昇格した姉たちに比べれば魔力は驚くほど少ない。だが、妖精でもあり人間よりは魔力は持っているつもりだ。いざとなれば護身術で撃退してやる。


「いやいや、私は別に退治に来たわけじゃない」

「でも退治するように直訴を……」

「直訴があっても実際は悪女かはわからないだろう? 前退治した魔女も実は人々が魔物の被害を受けないように結界を張り続けていたというし、最近は王も慎重でね」


 ローブのフード部分を外して男は顔をみせた。綺麗な金色の髪、虹色に輝く紫水晶の瞳に思わず娘は見とれた。


「王の賢者……」


 その特徴をみて娘はすぐに男が何者かわかった。

 男の名はエムリス。

 アルバニウム王国のアルトス王を導いて建国させた賢者であった。

 人間と妖精のハーフで、類稀な才能と膨大な魔力を持っている。


 何てずるい男なのかしら。

 人間との混ざり者なのに私よりも魔力があるなんて。


 彼の魔力を感じ取り娘は歯がゆく感じた。エムリスは手を伸ばして娘の髪に触れる。


「な、なによ!」


 突然髪に触れるなど無礼なことだ。


「ごめんごめん……とても綺麗な髪の色でついつい見とれてね。きっと日の明かりに照らされたらもっときれいだろう」


 そう思ったら無意識に手が伸びた。


「勝手に触らないで! それと私とやり合う気がないのなら帰って頂戴!!」

「そうだね。今日は君に無礼を働きすぎた。後日改めてお詫びに来るよ」

「来なくていい」


 娘が言うよりも早くエムリスは姿を消した。


「何よ無礼な奴、勝手に髪に触れて……綺麗なんて」


 そんなことを言った者などいなかった。土の女神の姉以外娘の髪を容姿を褒めるものなんていない。

 人々は毒と結びついて娘の髪を気味悪がった。忌まわしいものと断じた。

 それなのにあの男は娘の髪を綺麗だというなど。

 娘の頬が朱に染まり、そこには不機嫌さは消えていた。――


「と、いう感じに毒の魔女は恋に落ちたのだよ」


 ふぅっと娘の姿が消えて、湖の岩で座り込む男はヴィヴィアに語り続けた。


「その、エムリスというのはあなた?」


 ヴィヴィアがそういうと男はほほ笑んだ。


「とても綺麗な髪だった。ヴィヴィアと同じく……」


 エムリスはヴィヴィアの髪に手を伸ばした。


「先ほどの話では毒の魔女は怒っていたでしょ。勝手に触るのは無礼と」

「ああ、そうだったね。触ってもいいかい?」

「今更でしょう」


 勝手に髪を触れられるのは良い気分ではない。だが、男の、エムリスの手は優しいもので触れられると気分が和らいだ。


 ◆◆◆


 メドラウトに魔術の修練をみてもらいながら数か月が経過しようとしていた。

 大分ブレスレットの扱いに慣れていくように感じられた。


「うぅ、さすがにブレスレットを使いすぎた」


 さすがにやりすぎるとめまいが強くなる。ヴィヴィアは庭園の花を眺めながら頭を抱えた。

 今はノエルのお昼寝中で、気晴らしにとノエル=アンジェに伴われて散歩中であった。

 マリーゴールドの咲く花壇を眺めながら、ヴィヴィアは今の季節の花を思い浮かべた。


 夏と言えばひまわりよね。

 日に日に暑くなる頃合い、ゴーヴァン公爵領へ戻る話が出始めていた。

 そろそろノエルも馬車に乗せても泣きじゃくることはなくなっていると思うし。


――「夏に咲くひまわりをヴィヴィアに見せたいです」


 昨夜にクリスが言っていた言葉を思い出した。

 クリスが手掛けたヒマワリのことだろう。

 きっとノエルも気に入るだろうな。

 思わず笑みがこぼれた。


「奥様」


 声を聞きヴィヴィアは警戒した。自分の腕のブレスレットを確認する。


 久方ぶりのベザリーであった。


「お久しぶりです。お元気でしょうか」

「え……ええ」

「実は心配していました。あの馬鹿王女のやらかしは私も警戒していました」


 屈託のない笑顔とともに出た言葉にヴィヴィアは目を見開いた。


「今、何て?」


 馬鹿王女というとイボンヌ王女のことだろう。

 ベザリーが手を焼いたというのはどういうことだろうか。

 今のベザリーは彼女との接点はないはずだ。


「ねぇ、奥様……奥様もでしょう?」

「私もというのは何?」


 ヴィヴィアは後ずさりながら周りの様子を伺った。

 すぐ近くにはノエル=アンジェが、護衛騎士のケヴィン卿がいるはずだ。


 花壇の向こう側で倒れる二人をみてヴィヴィアは立ち上がった。

 まさか、ベザリーに何かされたのっ!?


 そう思っても近づくことができない。足元に何かを掴まれたように。


「っひ!」


 下の方へ視線を落としてヴィヴィアは悲鳴をあげた。

 自分の影が歪んで、そこから黒い手がいくつもでてヴィヴィアの右の足首を握っていた。

 手が握るとじわっと焼ける感触がして足首が痛くなった。


「あは! ダメですよ。奥様。急に走ったら転んでしまいます」


 ベザリーはゆっくりとヴィヴィアの側まで近づいた。


「近づかないで……」


 ブレスレットを作動させてみる。足首に絡みつく手が何か確認するとそれは呪いのものだと理解した。複雑な何重にも絡み合った構成にめまいが起きそうである。


「うぅ……」


 ブレスレットの副作用も相まってヴィヴィアはその場に崩れそうになるのをベザリーが支えた。


「無理はダメです。奥様の貧弱な魔力ではすぐに副作用が起きてつらいでしょう?」


 ブレスレットの副作用のこともしっているかのような口ぶりである。

 数か月前に出会ったベザリーとは別の不気味さを覚えた。


「あなたは一体……」

「奥様と、公爵様と同じです。私も回帰しました」


 何のこともないとベザリーは自分のことを語った。

 ベザリーが回帰をした? どういうこと。

 今までのベザリーは回帰者の様子はなく、事前に準備していたクリスに翻弄されていたはず。


「大丈夫です。殺したりしません。今度は……」


 含みのある言い方である。


「奥様は随分と公爵様に愛されているので別の方法を提案してみました。見事に採用されましたのでお連れしますね。あ、使い魔の雷獣を呼ぼうとしても無駄です。あらかじめ結界を張っておきましたので」

「提案……採用って」


 ベザリーの上のものからの指示であろう。


「あの方も回帰者なのです。何度も、何度も……ああっ! 回帰させるならもっと前にしてくれればいいものをっ!」


 ぶつぶつと呟くベザリーの言葉にヴィヴィアは理解できなかった。


 何度も回帰ということはどういうことだろう。

 少なくともクリスにとってこれは二回目の世界のはず。


 めまいが一層強くなる。ベザリーに触れられた手で体の中にまわってくるものを感じた。

 それが呪いだと理解するのはあまりに遅すぎて、気づいたとしてもヴィヴィアの魔力ではどうすることもできない。


 ベザリーの魔力はこんなに強いの?


 とても太刀打ちできない。

 そのまま意識が朦朧としてベザリーの腕の中で意識を手放していった。

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