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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第三部

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6 王宮での軟禁生活


 それにしても鼠の死骸を混入するとか。


 昔そんな話の後宮物語を読んだことがあるなぁ。


 ヴィヴィアは前世のことを懐かしんだ。前世では図書館にある色んな少女小説を読んでいた。リクエストした生徒の趣味なのか、色んな少女小説があって女同士の複雑な感情が入り乱れた後宮物語もあった。

 

 確かあの小説ではライバル妃に鼠を混入した贈り物を贈って精神的に追い詰めるのよね。

 他の小説では実は贈った妃は無実で、その妃を陥れる別の妃の策略だったとか。


 一体犯人は誰かしら。

 私には王宮の情報を仕入れるつてはないし今は軟禁中だし。


 ヴィヴィアはお茶を飲んでため息をついた。軟禁中でも一応食事、お茶を提供してもらえていた。

 まぁ、品質は落ちる。

 下男下女が食べる品のものが多いが食べられるならいい方だ。

 国王もかなり激怒しており、ヴィヴィアに対する飲食類はこれで十分だろうといっているのだろう。

 ヴィヴィアとしては今は気にしていない。

 温かい飲み物が出るだけありがたい。

 春とはいえ、まだ朝方夜は冷えるので。


「はぁ、奥様がこんな粗末なものを食べるなど閣下が知ったら王宮に火をつけるかもしれません」


 ヴィクター卿はさめざめと呟いた。

 さすがにクリスに限ってそれはないだろう。

 ヴィヴィアは苦笑いした。


「ないよね……」


 改めて聞くが、安心した応えが返ってこない。

 心配なのはノエルである。今頃母親がおらず泣いているだろう。ケイトもノエル=アンジェもいるとはいえ、心配でたまらなかった。寂しいのもある。


「それより私につき合わせてごめんなさいね。ヴィクター卿」

「いいえ、奥様をお守りするのが俺の役目なので……次は給仕しているメイドを脅して柔らかいふんわり白パンと、子牛のステーキ、極上コーンスープを出させてやりますよ」

「それは可哀そうだからやめてあげて」


 給仕のメイドもそこまでは管轄にはないだろう。

 ただ上にいわれたものを運んでいるに過ぎない。

 実際、初日よりお肉はいいものに変わっているのでこれが精いっぱいだろう。


「実際、ヴィクター卿は前世の記憶はないのよね」

「ええ」


 彼にはクリスのように回帰前の、前世の記憶はない。

 ケイトのようにヴィヴィアが過去に救いだした記憶はない。

 あるとすれば狩猟祭で死にかけるクリスを一緒に励まし、ヴィヴィアが解毒魔法を繰り返した程度だ。


 彼にここまで心酔される程のことはあったのかな。


「でも、はじめて奥様に出会った時、こうビビッときました。今度はちゃんとお守りしなければと」


 記憶はないがそう思ったという。


「きっと雷獣の能力があの時の感情だけでも俺に送り込んだのでしょう」

「そうなの……あなたには色々感謝しないとね」


 ヴィヴィア自身は小説のヴィヴィアではないのだが、それでも彼は小説の中――回帰前、ヴィヴィアを必死に守ろうとした。洗脳されたクリスに何とか正気を取り戻させようと必死に呼びかけていた。

 そして死ぬ間際までヴィヴィアのことを案じて、雷獣に願った。


 おかげでヴィヴィアは何とかここまで生きていけている。

 予想外のことは起きたけど。


 イボンヌ王女のことを思い出す。

 小説には何と出てきたか。いや、ベザリーが王都へ来たときには既に出てきていなかった。

 クリスから聞いた話では、ベザリーとクリスの結婚の後、政略の為に他国へと嫁がされたと聞いた。

 

 小説内のチャリティーパーティーに登場することはなかった。

 何故彼女はここで現れたのか。

 まるで誰かに唆されたように動いている。


 部屋の外が騒がしかった。鈍い音、騎士たちの苦悶の声にヴィヴィアは不安になり立ち上がった。


「ヴィヴィア!」


 扉が壊されてそこから現れたのはクリスであった。

 3日前に来ていた衣類がぼろぼろになっている。髪も乱れている様子だった。


「あなた、どうしたの……」

「どうしたもこうしたもありません。何故館で籠城していなかったのです。王宮騎士が来ようが、私の騎士たちならあなたをおめおめと連行させたりしなかったのに」


 クリスはじろっとケヴィン卿を睨みつけた。

 それにケヴィン卿はひやっと青ざめた。


 お前がいながらなんだこれは?


 そう言っている視線にケヴィン卿はただ許しを請うた。


「待って。私が言ったのよ。あなたが心配で王宮に行くと無理を言ったの。騒動を大きくしたくないから王宮騎士たちに従ったまで。私が酷い目に遭わずに済んだのはケヴィン卿が目を光らせてくれたおかげよ」

「私の為に……そんな心配をされるなど私もまだまだ未熟ですね」


 実際クリスのことを心配したわけではなく、クリスが何かをしでかさないか心配だったのだが。

 今は黙っておいた方がいい。ヴィヴィアは思った。


「それよりあなたは今までどこにいたの?」

「ちょっと王宮地下に潜っていました」


 王宮地下という単語に何だか嫌な予感がした。地下には罪人を投獄するための牢獄があったし、拷問部屋もあったと小説内で書かれていたような。


「それより行きましょう。国王陛下に謁見です」

「そ、そのままで……」


 いくら何でも不敬である。

 今のクリスの衣類は薄汚れていてとても国王に謁見できるよう姿ではない。


「構いません。こうなったのも、馬鹿王女と彼女を可愛がる王のせいなのだから……既にリチャード王太子の許可は得ています」


 何が何だかわからない。ヴィヴィアはクリスに引っ張られる形で国王の謁見の間へと移動させられた。

 

 そういえば私のドレスも3日前のもので大丈夫だろうか。

 お風呂入っていないから匂いも心配なのだけど。


 国王の謁見の間へとたどり着いた。

 途中騎士たちが止めに入るが、クリスの声で怯んで前に出る様子はない。

 さすがに長らく戦場を駆けあがった英雄である。そこいらの騎士とは覇気が違う。


 謁見の間が開かれて、そこにいたのは不機嫌な国王の姿であった。

 星河祭パーティーで出会った少しお茶目な姿とは一変、ヴィヴィアを険しく睨みつけていた。


「こんな騒ぎを起こすとは……ヴィヴィア・ゴーヴァンよ。お前は自分のしでかしたことを理解しているのか?」


 既に娘に色々と言われてすっかりと情報を鵜呑みにしているようだった。


「今回の件でヴィヴィアは無関係です」


 ヴィヴィアの無実を晴らそうとクリスが説明に入ろうとするが中断させる悲鳴があがった。

 

「クリスお兄様は騙されています!」


 イボンヌ王女が息を切らして現れた。


「私はこの方から酷いことをいっぱいされたのよ。お礼の手紙といってこのように嫌味の手紙を送られて……果てはあの贈り物、うぅ……」


 涙を流すイボンヌ王女を慰める形でメイドが肩を添える。


「おお、イボンヌよ。このような場所に来なくても後は私に任せなさい」

「いいえ、私の問題です。どうか私も同席を」


 そういいイボンヌ王女はメイドの手を握って国王の傍らへと近づいた。


 この展開にヴィヴィアは頭を痛めた。

 ちょっと前のシシリア劇場を思い出す。ヴィヴィアを悪者にしようとする劇場が別人によっても起こされるなど。

 シシリア、ベザリー以外にも登場するなんて。


 一体私は何人の劇場に付き合わなければならないのかしら。


「ヴィヴィア、大丈夫です。私を信じて」


 手を握るクリスは声をかける。その優しい言葉にヴィヴィアはほっと安心した。


 大丈夫だ。

 クリスに任せて早く帰ろう。

 もう3日になってしまう。館にいるノエルのことも心配だから早く帰らなければ。

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