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共産主義者が魔法をいじってみた  作者: akaboshi_yuu


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ヴーク 其の三

「君にこの試験を受けさせるのは、これで六回目だ。我々を馬鹿にしているのか? なぜ君一人のために、これ以上我々が忍耐強くあるべきだと思っているんだ?」ペリンは言った。


「私の記憶が正しければ、あなたのお気に入りの教え子は七回受けていたはずだが」老人は答えた。


身なりの良い男は口を閉ざし、スーツの襟を正した。老人は一瞬だけ微笑んだが、目の前の青年へ視線を戻すと、その笑みは消えた。



青年は疲れ果てていた。髪は乱れ、読書のしすぎで目は赤く充血している。


最初の二回、老人——ネクタリオスは彼に親切だった。才能の有無にかかわらず、誰もが至高の術を志す権利があると信じていたからだ。彼自身、それを習得するのに何年も苦労した経験があり、努力する者には敬意を払っていた。



だが三度目の試練の際、彼はあることに気づき始めた。


この青年には、本質的な「直感」が欠けている。彼はページに書かれたことしか理解できない。だが、彼らの術は本だけで学べるものではなかった。


それなのに、青年が何よりも愛しているのは読書だった。


ネクタリオスは思わずにはいられなかった。これほど無益なことがあるだろうか?



時折、青年はささやかな成果を上げることもあった。例えば、真鍮の鏡の中に弱小な魔物を閉じ込め、理解もできないような「四辺の風」の名で脅して「喋る鏡」に仕立て上げたことがある。しかし、結局それを使って彼が話すことと言えば、本の内容ばかりだった。


精霊の声を呼び出してギリシャ語やアラマイ語を教えさせたこともあったが、それを実用的な目的に使うことは一度もなかった。



今、皆の前に立つ青年は鏡をじっと見つめ、奇妙な言語で一文を紡ごうとしていた。それはネクタリオスだけが判別できる言語であり、微塵も学ぶ価値がないと判断した言語でもあった。


そんなものは、評価の対象にはならない。


試験で求められるのは現実で観測できる結果だ。物質を変容させ、無から有を創り出し、観測者を欺く。真の魔術とは、現実世界に影響を及ぼすことを指す。



最大の功績とされるのは、異界の存在を実体として召喚することだが、ここ数年、そんな危険を冒す者は誰もいなかった。一歩間違えれば命を落とす。成功したとしても、代償として病や衰弱が待っている。


共同体が弱くなったという嘆きは、あちこちで聞かれた。先祖たちは海を割り、城を築き、悪魔を支配したというのに。


今や、ちょっとした手品を見せるのが精一杯だ。



ネクタリオスも、もはや多くは期待していなかった。水をワインに変え、数本のロウソクを灯す。それだけで十分だった。


だが、ミハエルにはそれすらできなかった。


それでも彼は、失敗など何でもないと言わんばかりに微笑んでいる。



数列後ろからその様子を見ていたヴークは、そんな彼を羨んでいる自分に気づいた。


部屋の空気は重く、人々は疲れ、静かに咳き込んでいた。五人の教授のうち、ミハエルを支持しているように見えたのは、厚化粧に義眼の女一人だけだった。



「ネクタリオス、君は甘すぎる」別の男が言った。「明白だ。落とすべきだろう」


採決が行われた。


三対二。ミハエルの不合格が決まった。


教授の一人、ペリンが満足げに義足を床に打ち鳴らした。数年前、危険な術の行使中に本物の足を失った男だ。その代償として大きなな力を手に入れたが。



「ラヘルはまた君に投票してくれたぞ」ヴークが声をかけた。


「もちろんさ」ミハエルはかすかな笑みを浮かべた。「彼女は僕のことがお気に入りなんだ」


「三度目の正直ならぬ、六度目の正直、か」ニチャが言うと、


「いい加減、諦めなよ」と、双子のルチャが言った。



ミハエルは鏡を指で軽く叩いた。


「ああ……君たちの言う通りかもしれないな」彼は淡々と言った。「母さんでさえ、なぜ続けるのかって聞いてくる。働かなくたっていいんだ。新しい鉱山も開かれたし、僕の名前なら、普通の人間の中に混じってもうまくやっていけるだろうしね」


「そんな名前じゃ、お母さんは何かに食べられちゃうのを期待してたんじゃない?」ニチャが茶化した。


ルチャが彼をたしなめるような視線を送ったが、ミハエルは気にする様子もなかった。



「生まれてもう二十年以上経つんだよね」ミハエルは言った。「名前もすり減ってしまった。そろそろ変え時かもしれないな」


ルチャとニチャはまだ元の名前を使っていた。彼らはまだ名前を「摩耗」させるほどのことは何も成し遂げていなかった。


「まあ、ヴークだって普通の名前だし——」ミハエルは言いかけて、気まずそうに口を閉ざした。


ヴークは気にしていないと手を振った。



彼は時々、自分の名前について考えた。「ヴーク」——狼。平凡で、どこか時代遅れに聞こえる。今時、狼を怖がる者などいるだろうか?


なぜ両親がその名を選んだのかは知らない。


そして彼らは、ヴークの正体を知らない。


……あるいは、知っていて、気づかない振りをしているだけなのかもしれない。



自分は監視されている、という確信に近い予感があった。


捕食の後、殺害現場の近くで、これまでに何度か見知らぬ者と目が合ったことがある。彼らは目立たない暗い色の服を着ていて、顔を思い出そうとしても霧がかかったように消えてしまう。


共同体のエージェントなのか?なぜ、彼らは自分を止めないのか?



その疑問をまともに考えられるのは、捕食を終え、顎の痛みが引いて頭が冴えている時だけだった。だが、その明晰さがもたらすのは安堵ではなく恐怖だった。


自分がルールを破ったことは分かっている。そして、その報いがいつか来ることも。



最初の犠牲者は誰だったか?


これはいつから続いているのか?


時折、あの痛みさえ愛おしくなることがあった。痛みの中にいる間は、何も考えなくて済む。もっと単純な、人間ではない何かに……。


ただの、飢えた狼になれるからだ。



「……ああ、大規模な手入れだったらしいぜ」近くで誰かが話していた。「武器が見つかったって。五人逮捕されたそうだ」


ヴークの身体が強張った。だが、彼らが別の話をしていることにすぐ気づいた。


「大げさなんだよ」ミハエルが言った。「彼らはいつも話を盛る。武装した『赤』が五人だって? 革命でも起こす気かよ。今時、共産主義なんて誰も信じちゃいない。怪しい本を持って隠れていただけの連中を捕まえただけだろうさ」


「どんな本だ?」ヴークが尋ねた。


「マルクスとかエンゲルスとかじゃないかな」ミハエルが推測する。



ヴークはミダの本を思い浮かべた。


あれも、その類に入るのだろうか。


何が起きているのか、本当のところは誰も知らなかった。逮捕、武器の略奪、失踪——共同体ではそんな噂だけが飛び交っている。


「共同体の情報局で働いたらどうだ?」ニチャが冗談めかして言った。


ミハエルは躊躇った。「まあ……エージェントと直接関わらなくていいなら。作り話を書くだけなら得意だよ」


確かに、ミハエルには魔術よりも、一般人を騙し、共同体の存在を隠すためのプロパガンダ作りが向いているのかもしれない――ヴークはそう思った。



「おい、あそこの獣」


鋭くかすかな香水の香りと共に、その声は響いた。


ヴークの背筋が凍りついた。


「聞こえないのか?お前のことだよ、ヴーク」



声の主はヤコブだった。


彼はいつも彼らを嘲笑っていた。理由は分からない。ただ、自分の存在を証明するために、誰かの関心を引かずにはいられないようだった。


彼は、自分と同等に高貴な血を引くルチャとニチャをライバル視し、家が裕福なだけの凡種にすぎないミハエルにいたっては、存在すら認めていなかった。


だがヴークに対してだけは、執拗に絡んできた。


彼の背後には、長身で無口なリヒターが、申し訳なさそうな顔で立っていた。



部屋が静まり返った。


「親父がちょうどイランに行ってきたんだ」ヤコブが傲慢に言い放った。「そこで強力な魔具を見つけてきた。この街に潜んでいる獣を殺すには、うってつけの代物だと思わないか?」


ヴークは寒気を覚えた。


なぜ、こいつが知っている?


「そろそろ『狩り』の時間だろ」ヤコブが続ける。「で——いつ殺してやろうか?」



ヴークの心臓が激しく脈打った。顎の奥が痛む。怒り、恐怖、そして羞恥が同時に押し寄せた。


今すぐ、この場でこいつを食いちぎってやりたい。


だがヤコブは止まらなかった。


「決着をつけよう。明日の夜、埠頭だ。誰も来ない場所でな。新しい魔具を試させてくれ。お前にとっちゃ光栄なことだろ?この俺に殺されるのは」



ルチャが怒りを滲ませて一歩前に出た。


リヒターがヤコブの肩を掴み、彼を制した。


この古い建物は、これまでに幾度となくこうした諍いを見てきた。中には破壊や、死に至る結末を迎えたものもあっただろう。


だが、今回は違った。


何も起きなかった。


彼らはただ、互いを睨みつけた。



やがて、ヴークは背を向け、その場を立ち去った。

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