こんなのが運命なんて信じない! 5
180cm超えの身長と逞しい筋肉、成績も優秀で品行方正。
さらにイケメンとまではいかなくても精悍な顔立ちという驚きのハイスペック。
ちょっと表情が硬いけど、武骨な雰囲気に合ってるから問題ない程度だ。
まぁ少し卑屈になるというか、あまりの優秀っぷりにへこむこともあるけれど、とにかく俺にとっては優しくて素敵な先輩で、高値の…もとい高嶺の花みたいな。
男に対して使う表現じゃない気がするけど。
きっと女の子も選り取り見取りなのだろうが、先輩なら不実な事をしないだろうという確信めいたものがある。
そう、決してあの薬局のようなチャラいことはしないと…。
「うぐぅ…っ!」
思い出して自動でダメージを負う俺はアホだと思う。
でもでもだって、折角の初カノで浮かれた俺の脳を冷やすための神様からの試練だったとしても、ちょっと酷過ぎると思うんだ。
逆にトラウマで彼女と顔合わせられなくなったらどうしてくれるんだ神様!
「佐々原君? 大丈夫ですか?」
「ううう…、大丈夫じゃないです…っ」
「……何かあったんですか?」
「うぐぁっ!!」
「佐々原君っ??!」
ちょっとした寸劇である。
それから場所を変えて近所の、よく部活帰りにたむろった公園で、自動販売機のコーヒー片手に事情説明をした。
彼女が出来た事に、少し驚いたような顔をしていた先輩も「よかったですね」と笑ってくれたのだが、薬局での出来事を話し終える頃にはまるで般若を背負っているような雰囲気だった。
正直に言って超怖い。
でも顔はあんまり変わらない。
ちょっと眉間に皺が寄ってるかなって程度だけど、
こんなに怖い様子の先輩を俺は初めて見たので、最早薬局での出来事よりも衝撃度が高いのだけど。
「それはどこの薬局です?」
「はぇ!?」
「君に無作法を働いた輩の勤務している薬局は、どこにあると言うんです?」
剣呑な様子を隠さずに問い質してくる先輩はかなり怖くて、思わず薬局の所在地を言ってしまいそうになった。
が、流石に分かる。
うっかりにでも言ってしまったら、この優しい先輩が犯罪紛いの事を仕出かしてでも、件の店員に制裁を加えるんだろうと。
「え、あの…、紳二先輩落ち着いて…」
「佐々原君」
「うひゃい!」
がっと両肩を力強く掴まれてガチでびびった俺は仕方がないと思う。
「君は事の重大さを分かってない」
「い、いえいえ、先輩こそ大事件にしすぎなんですって、俺はちょっと驚いただけで、怪我したとかじゃないんですし」
「…心の傷は、体の傷よりも治りが遅いんですよ」
「!」
どきりと心臓が跳ねたのは、先輩があまりに真剣な顔をしていたから。
高校時代からそうだったけど、なぜか先輩は俺をすごく気に入ってくれていて、不思議に思う事もあれどとても嬉しかったのだ。
きりりと凛々しい先輩の目が、己の事以上に真剣に考えてくれていると物語っていて、感動の涙が出そうになる。
そうだ、こんなに素敵な先輩がフォローしてくれるんだ、心の傷なんてぱぱっと治ってしまうに違いない。
少し笑いが込み上げた。
「先輩みたいな最高の相談役が居るから、俺は大丈夫ですよ」