桔梗まつりの開幕と、イケメンたちの暴走
ついに天音ちゃんの母校・夏草学園の学園祭『桔梗まつり』が開幕!
男子校出身の橘くんとキザな一ノ瀬薬局長の小競り合いから始まり、校内はイケメンたちの登場で早くも大騒ぎに……!?
「橘よぉ……お前、男子校出身だろ? 大学も男子部と女子部に分かれて育ったわけだし、こんなお嬢様だらけの女子高に足を踏み入れたら、嬉しさのあまり暴走しちまうんじゃねーのか?」
一ノ瀬蓮薬局長が、不敵で意地悪な笑みを浮かべながら橘くんに絡む。
「なっ……このミスター東薬に向かってなんですか、その失礼な言い草は! 俺は天音さん一筋なんで、お嬢様学校だからって女子高生を見てデレデレスケベなことを考えるような、一ノ瀬薬局長みたいな不純な大人とは違うんですっ!」
「なっ……なんだと……!? 俺がいつ、そんなスケベ心を出したというんだ!」
「お嬢様校に来て興奮するだろうとかいう発想が、そもそもやましいんですよ!!」
「なにぃーーっ!!」
そんなしょうもない小競り合いをしているだけなのだが……いかんせん、まわりを取り囲むのは「圧倒的に整いすぎたハイスペックイケメン二人」だ。歩いているだけで、校内のあちこちから黄色い歓声と視線が容赦なく突き刺さる。
「あのっ! よかったら、うちのクラスの出し物見に来ませんか?」
「ウチの模擬店のワッフル、めちゃくちゃ美味しいので食べてみてください!」
「わーわーっ!」
次々と声をかけられる中、一ノ瀬くんはフッと余裕の笑みを浮かべてこう返す。
「ふっ……すまないね、今日は大事な待ち合わせがあってね。その人たちと合流したら、みんなの頑張っている姿……じっくり見せてもらうよ」
「キャーーッ!! 素敵……!!」
「やっぱ、めちゃくちゃスケベなこと考えてモテようとしてますよね、あの薬局長!」
「うっ……うるさい! ……って、おっ、来たぞ、天音ちゃんだ!!」
* * *
——その頃、待ち合わせ場所で合流した私、薬師寺天音は、すれ違う人々の視線を感じながら激しく後悔していた。
くっ……なぜ、当日になるまで…こんな大勢のイケメンを引き連れて歩くことがどんなに大惨事になるか、事前に予測できなかったんだ私は……!
みんなであの美味しい手作りクッキーで盛り上がって、すっかり浮かれていたツケがここで回ってきた!!
だって、周りを見渡せば、お肌がツヤツヤで瑞々しい可愛い女子高生たちがそこかしこにキャッキャと溢れている。
はわわわ……どうしよう、こんなキラキラした若い子たちの真ん中で、アラサーの私になんて勝てるわけがないじゃない! 私、いったい何をやっているのよーーっ!!
隣で、親友の日野美香ちゃんがジト〜ッとした冷ややかな目を私に向ける。
「いや……予想できたよね…普通に(笑)」
「はうっ……美香ちゃん……あなたの言う通りだわ……」
でも、せっかくの母校の学園祭だし、気合を入れて——あの勉強会の時に誉めてもらった「オータム系・コッパーラメの特別メイク」を今日もバッチリ再現してきた私。……どうしよう、変に浮かれて見えてないよね……!?
「あー、天音さん! それって、この前の勉強会の時のメイクじゃないですか!! 超絶可愛いんですけど……っ!」
「なっ……橘…アレをお前が……!」
「そっすよ! 俺もメイクやコスメは研究してるんで!」
「よくやったぞ、橘ぁ……!!」
なぜか二人でガッチリと力強く腕を組んで感動し始めるイケメンたち。
褒められて気恥ずかしさと嬉しさが同時に押し寄せ、私の頬はぱぁぁっと明るいピンク色に染まる。
「どっ……どうかな……?」
ふんわりとした清楚な普段着のワンピースに合わせてみたのだ。露出は少ないけれど、大人の落ち着いた清楚なお姉さん感は出ているはず……と、心の中で盛大に自画自賛してみる。
「「可愛い! 最高です!!」」
……うん、まわりの女子高生たちの「あの人たち誰……?」という視線は地味に痛いけれど、大好きなイケメン達に大真面目に褒められて、私のテンションは早くも有頂天よ!!
隣で美香ちゃんが完全に開いた口が塞がらないみたいになっているけれど、もういいわ、今日は最後まで楽しんだもん勝ちよ!
「うっ、うん……! ウチの母校、昔からブラスバンドがすっごく強いんだよ! 実は私も、高校の時は入ってたんだ〜!」
「うわっ……天音ちゃん、ブラスバンドかぁ、可愛い〜……って、やっぱりフルートとか担当してたお嬢様系でしょ!」
「ブブー、ハズレでーす♪」
「なに言ってるんすか薬局長! そんなの……天音さんは王道のサックスでしょ!!」
「ふふっ、二人とも大ハズレ♪ 私が担当していたのは、クラリネットなのです〜♪」
「「かっ……可愛すぎる……っ!」」
そんな風にワイワイと盛り上がっていると、なんだか前方からすごい勢いで人だかりがこちらへと移動してくるのが見えた。
……なんだろう?
「キャーキャー……!」
「ねえ、見てあの人たち……モデルさんみたいじゃない……?」
人混みをかき分けてやってきたのは、絵に描いたような——超絶イケメンと、ため息が出るほど美しい高身長の美人カップル……ではなく、神楽坂エリア長と、その妹の楓さんだった!
「やぁ……薬師寺先生」
「やっほー♪ 薬師寺さん、待たせたね!」
うっ……ただでさえ目立っているのに、エリア長まで合流しちゃったら、さらにまわりの視線が痛くなっちゃう〜!
静かに、しかしスッと私のすぐ隣にまで歩み寄ってきたエリア長が、ふっと目を細めて呟いた。
「そのメイク……よく似合ってて、すごく可愛いね」
至近距離での不意打ちの言葉に、私の心臓と胃は完全に暴走を開始し、その場で崩れ落ちそうになった。
「お兄ちゃん……外でもそんな直球でデレデレな顔するんだね……」
「はわわ……っ!」
隣で見ていた美香ちゃんが、私の腕をツンツンとつつきながら耳打ちしてきた。
「良かったね、天音ちゃん! 一体いつからこんなハイスペックなイケメン達を何人も侍らせるような女になっちゃったのかなぁ〜。でも、せっかくの母校のお祭りだし、思い切り楽しんじゃわないと損だよ!」
「なっ……そんな侍らせているなんてとんでもない……!」
「いいの、いいの♪ にしても、今日彼氏を連れてこなくて本当に良かった〜。もし連れてきてたら、まわりの女子高生に浮かれている姿を見せつけられたり、こんな大量のイケメン達に囲まれてショックを受けたりしてたら、それこそ大パニックになっていただろうしね!」
「うぐっ……美香ちゃんは相変わらず可愛いんだから、学生時代から彼氏くらい普通にいただろうし……」
「あらぁ〜、今の天音ちゃんの方が、よほど周囲の女子全員から羨ましがられている状態だと思うけどねぇ〜?」
その時、私を取り囲んでいたイケメン達が、申し合わせたように一斉に口を開いた。
「「「俺(私)と一緒に校内を回ろう!!」」」
「もー、みんなと一緒に行きますっ!!」
あまりの尊さと、全方向からの甘い視線に、開始早々私のHPは綺麗にゼロになりかける。
——こうして、前途多難でドキドキが止まらない、波乱万丈の夏草学園祭が盛大に幕を開けたのだった!
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