日野美香の慄きと、エリア長の調査能力
母校・夏草学園のブラスバンド部の凄さを熱く語る美香ちゃんでしたが、イケメン達の視線はやっぱり天音ちゃんに釘付け!
さらに、神楽坂エリア長が「薬師寺先生の代は横浜大会で審査員長賞を貰っているはずだ!」と、高校時代の細かい受賞歴まで完璧に把握している変態的(?)なリサーチ力を炸裂させて……!?
私は日野美香、二十八歳。
今、私は盛大に慄いている。
軽い気持ちで母校の学園祭にでも誘って、懐かしい思い出話に花を咲かせようと思っていただけなのに……蓋を開けてみれば、謎の超ハイスペック・イケメン集団に、なぜかその妹の超美人(しかも同じ夏草学園OG!)まで釣り上げてしまうという、予想斜め上の大所帯になってしまった。
「おほんっ……! 皆さん、聞いてくださいね。我が夏草学園のブラスバンド部は、ただの部活動となめてもらっては困ります。当校のブラスバンドは、マジでえげつないレベルなんですから! 全国区の常連で、毎年1月の定期演奏会はチケットが即完売するほどの超盛況! おまけにダンス部だって全国レベルですごいんです! 学校生活の規律がしっかりしているからこそ、部活の生徒も集中して思う存分楽器が吹ける環境なんですよっ!」
バーーーン!! と胸を張って母校の魅力を熱弁してやった。
……が、私の熱い母校愛の解説なんて、目の前の男たちには一ミリも届いていなかった。
なぜなら彼らは、トロリと緩みきった目で見つめながら、天音ちゃんの顔や唇のあたりをじっとガン見していたからだ……!
「いやぁ、天音ちゃん可愛すぎか……!」(一ノ瀬)
「さすがです、天音さぁん!」(橘)
そして、その中心にいる神楽坂エリア長までが、静かに、しかし誇らしげに深く頷いてこう言い放ったのだ。
「確か、薬師寺先生が在籍していた年のブラスバンドは、横浜大会で『審査員長賞』を特選で受賞しているはずだ!!」
「「なっ……!!?」」
驚愕する一ノ瀬くんと橘くん。
「すげぇ……! 天音ちゃん、そんな凄いの!?」
「やったぁ〜〜、さすが俺たちの天音さぁん!!」
「そんな……えへへっ、それほどでも……って、うん、実際凄いんだからね!」
キリッと誇らしげに胸を張る天音ちゃん。
わぁ〜っと盛大に盛り上がるイケメン達と、その横で「さすがうちの先輩ですね♪」と美人な妹・楓さんも一緒になって嬉しそうに拍手を送っている。
「ま、まだ開演までまだ時間あるし! 校内にすごく可愛い人気のコスプレカフェとかもあるみたいだからさ、みんなで飲み物でも買いに行こっ♪」
「やったー! 天音ちゃんの学生時代の思い出の地を巡りつつ、演奏会も絶対絶対見逃さねぇー!!」
「クラリネットを吹いてる天音ちゃんとか、想像しただけでやべぇ……!!」
わーわーと大騒ぎしながら歩き出す一行を眺めながら、私の頭の中は「?」マークと違和感でいっぱいに満たされていた。
——ちょっと待って。
妹の楓さんが同じ高校だったからって、普通の男が、彼女の高校時代の『ブラスバンド部の大会の受賞歴』まで正確に把握しているものなのだろうか……?
どれだけ好きすぎるのよ……ていうか、あのクールそうな上司(神楽坂)、裏でどんだけ天音ちゃんのプロフィールをリサーチしてるのよ……! デキる男すぎるでしょ、怖いわ!!
そして、そんな周囲の圧倒的な執着と熱量に全く気づかないまま、イケメン達に囲まれてヘラヘラと嬉しそうに微笑んでいる天音ちゃん……。
――ヤバすぎるわ、この子。本人は完全無自覚なつもりだろうけど、一歩間違えたら大惨事よ……!?
でもまぁ、これだけ面白くて極上の人間観察ができる題材なんて、人生そうそう転がっていない。
——ふふっ、これはこれで、当日最後までたっぷりと見届けてやろうじゃないの!
心の中でひそかに悪だくみ(?)をしながら、私は波乱の学園祭ツアーの列へとついていくのだった。
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