真夜中のクッキーと、イケメン幼稚園状態
真夜中に天音ちゃんが愛情を込めて(そして少しのスケベ心を隠して)焼き上げた手作りクッキー!
出社するなり、下田くんの至近距離アタックにアセトアミノフェンを欲しがり、ツンデレ全開で素直に喜ぶ神楽坂エリア長、大型犬のように夢中で頬張る橘くんに、クッキーがないと勘違いして号泣寸前になる一ノ瀬くんが参戦!?
すっかり「イケメン幼稚園」と化したカオスな店内で、翻弄されながらも幸せいっぱいの天音ちゃんのドタバタ日常をお楽しみください!
結局昨日はあまり眠れなかったけれど——なんとか、気合と根性で美味しいクッキーは焼き上げることができたぞ!
……さすがに昨日の今日で急に気合いの入ったメイクをしていくのは恥ずかしいから、今日のところはすっぴん風のナチュラルメイクで!
だけど、心の中では「ムフーっ♪」と盛大にドヤ顔をキメながら、私はルンルン気分で所沢駅前店の自動ドアをくぐった。
朝から、大型犬こと橘くんが期待に満ちたキラキラの眼差しで待ち構えている。
でも、こういうのは全員が揃ってから配りたい。なんせ私……案外欲張りで意地汚いんだから! 昨日の今日で、みんな「食べたい」って言ってくれたんだもの、リップサービスだとしても嬉しいものは嬉しいわよ!
なんて思っているうちに、水晶のように透き通った下田くんがひょっこりやってきた。今日も今日とて、マイペースで余裕そうな顔をしている。
「おはようございます……お姉さん」
「お、おはよう、下田くん……!」
ちっ……! 近い! 相変わらず距離がおかしいよ! 尊すぎるってば……!
「なんか、朝からすごく香ばしい良い匂いがする……。もしかして、昨日言ってたクッキー、焼いてくれたの?」
「うっ、うん……! 昨日、自分で言っちゃったし、エアプ(口だけ)じゃなくてちゃんと本物だからね!」
すると、その会話を聞きつけた大型犬が、まるで「早く餌をくれ!」と言わんばかりにパタパタと尻尾を振るように近づいてくる。
どうしてこの人たちは、こうも自然に人のパーソナルスペースを侵してくるのかしら……! 私の虚弱でか弱い体が、ものすごい熱を持って沸騰しそうになっちゃうじゃない!
誰か……頭痛薬と一緒に『アセトアミノフェン』を処方してください……!!
「ふっ、ふたりとも! ちゃんとあげるから、あげるから少し離れて! メッ!」
「「……っ!」」
なぜか私の「メッ!」という謎の注意に、ふたりともパッと顔を赤らめてフリーズし、素直に一歩後ろへ下がった。
ふっ……ふう、危なかった……。朝からイケメンの圧が強すぎルッキズムよ……!
そんな騒ぎの最中、少しだけ期待したような、でも隠しきれないそわそわした面持ちで、神楽坂エリア長が事務所からやってきた。
それを横目で見ながら、受付の田中井さんはすでにニヤニヤが止まらない様子だ。
「おはようございます♪ エリア長も、もしかして私のクッキー、楽しみにしてくださってたんですか〜?」
「なっ……! 私は別に、そんな子供みたいな甘い菓子など……!」
「へぇ〜、じゃあ要らないんですか?」
「そんなことはない!!」
「……ふふっ、本当に素直じゃないんだから。なんでお仕事であんなに若くして出世して偉くなれるのに、こういうところは小学生男子みたいに不器用なのかしらね〜」
ムスッと不機嫌そうに頬を膨らませながら調剤室に入ってくるエリア長。
……うん、なんか今日のエリア長、いつもの「鉄の神楽坂」じゃなくて、ただの可愛いツンデレ少年に見えちゃうんですけど……!
(あ、一ノ瀬薬局長の分は、ちゃんと割れないように特別にとっておいてからみんなに配ろうっと♪)
「う……うめぇ……!! 口に入れた瞬間、バターの香りがふわっと広がって……なんだこれ、命がよみがえるようだ……!」
——って、橘くん! 感想が大げすぎだよ、ただのプレーンクッキーだからね!?
「わぁっ、もう一個いいですかっ!」
もう、容器の下を覗き込んでも、あっという間にラスイチまで消え去っているじゃない! 本当に大型犬みたいにすごい勢いで食べちゃって……でも、美味しそうに頬張る顔はめちゃくちゃ可愛いから許しちゃう!
その隣では、下田くんがまるでリスのように小さな口で、でも上品にサクサクとクッキーを味わっていた。
その透き通るような美しい顔で、じーっとこちらを見つめながらモグモグしている……!
めっ、目が痛い……眩しすぎて私の視力が削られていくわ……。誰か『ジフェニドール(めまい止め)』をください……!!
少し離れたところでは、エリア長も誰にも見られないようにこっそりと口に運び、満足そうに目を細めている。
いつもピリピリとした緊張感を持って仕事のプレッシャーを一身に背負っている彼にとって、こういう糖分とリラックスは本当に必要なんだなぁ……なんだか、見ているこっちまで胸が温かくなってくる。
みんながほかほかに満たされて、大満足の笑顔を浮かべているのを見て、私は心の中で小さくガッツポーズをした。
(ふっ……私のお菓子作りも、まだまだ捨てたもんじゃないわね……♪)
——って、んん……?
何やら、自動ドアの向こうから、ものすごく慌ただしく騒がしい足音が聞こえてきたぞ……?
「あ、天音ちゃーーーーんっ!! 俺のは!? 俺の分のクッキーはどこだーーっ!!?」
あ、忘れてた。
一ノ瀬蓮薬局長、あなた専用の特別枠はちゃんと残してあるから、そんな床に崩れ落ちて号泣しないでちょうだい!
「大丈夫よ♪ ちゃんととってあるから、はい、一ノ瀬薬局長!」
「ヒャッハーーーーッ!!!!」
クッキーを受け取った瞬間、一ノ瀬くんはまるで子供のように飛び上がって大喜びした。
こうして、所沢駅前店の調剤室は完全に「イケメンまみれの幼稚園状態」と化し、その光景をカウンターの特等席で見守る田中井さんは、あまりのシュールさと尊さに、ただただ慄きながらプルプルと震えているのだった。
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