悶々とする夜と、真夜中のクッキー作り
本屋での一件を引きずり、「自分なんかエリア長には釣り合わない……」とメソメソしつつも、次の瞬間には一ノ瀬くんとの嵐山デートの妄想や、橘くんとの母校訪問に思いを馳せてしまう忙しい天音ちゃん!
イケメン達のことで頭がいっぱいになりすぎて眠れなくなり、真夜中に「みんなが喜ぶかも♪」と手作りクッキーを焼き始める、ちょっぴりスケベで最高にキュートな暴走回をお楽しみください!
本屋の一件であんなに動揺しておきながら、結局私はその足で推しグループ『Milk』の新曲CDを買って帰ってきてしまった……。
うーん、私ってなんて意志が弱いのよ……!
でも、スマホの画面の中で激しく、そして美しく踊る彼らは今日も今日とて尊すぎるのよ……。
「みんな、どうしてそんなにカッコいいのよ……」
画面の向こうのイケメン達に癒やされつつ、ふとさっきの神楽坂エリア長の妹さん・楓さんの言葉を思い出す。
——『お兄ちゃん、家でいつも薬師寺さんの話ばかりしてるんだもん♪』
エリア長が……私のことばかり……?
って、いやいやいや! そんなの絶対、妹さんのリップサービスか、私の勘違いに決まってるじゃない!
……だいたい、あんなにスマートで完璧なエリア長の横に、もしも私が並んでいる姿なんて想像できる……?
……。
……うん、無理っ!! 地味すぎる!!
もし仮に、テレビで見る女優の美月ちゃんみたいな華やかな人だったら、きっと横に並んでもバッチリ絵になるんだろうなぁ……。
わっ、私なんか身長も全然足りないわよ! ヒールを履くにしても、シークレットブーツレベルの高さじゃないとあの長身のエリア長には並べないわ!
それに、今日はたまたま妹さんと一緒だっただけで、普通に素敵な彼女さんがどこかにいないとは限らないんだから……!
うぅ……と考えれば考えるほど胸が締め付けられて、つ〜っと一筋の涙が頬を伝って流れてしまった。
……私、最近なんだか情緒不安定すぎやしないかしら……?
「はっ……そうだ! 気分転換に、あの勉強会の時にプロパーさんと橘君に教えてもらったメイクをもう一度自分でやってみよう……!」
さっそく鏡の前に座り、見よう見まねでオータム系のベージュとコッパーラメを重ねてみる。
……よし、確かにいつもの地味な私とは違って、すごく綺麗にはなった。なったけれど……。
「なんだか、私じゃないみたい……。それに、今の私のテクニックじゃレパートリーがこれ一色しかないよぅ……!」
でも、もし明日このメイクをして仕事に行ったら、みんなはどんな顔をするだろう……?
いや、また橘くんに「今日も可愛いですね!」なんて真っ直ぐ言われたら、私の心臓がもたないわ。でも、ちょっと気になっちゃう……かも。
それに、次の学会のときには、一ノ瀬薬局長の隣に立つんだから、彼が思わず「可愛い」って零しちゃうような、大人の魅力があるメイクの研究もしておかなきゃいけないし……。
あっ、そういえば一ノ瀬くんとは、今度一緒に京都の嵐山あたりに出張ついでにデート(?)なんかしたりして……! いやいや仕事だから! でも嵐山、すごく楽しみだな……♪
かと思えば、橘くんとは今度ふたりで『母校訪問』のイベントもあるんだった!
後輩たちの前でカッコいい先輩風を吹かせたいけど、また橘くんにメイクしてもらうわけにもいかないしなぁ……どうしよう!
「はぁっ……! 気づけばさっきから、イケメンたちのことと妄想ばかりしてるじゃない……!」
ベッドの上にバタンと倒れ込み、枕をギュッと抱きしめる。
……あれ?
この枕、なんだかほんのりと……さっきまで考えていた人のものみたいな、甘くて爽やかな香りがする気がする……って、わぁぁぁ私、いよいよ重度の変態になっちゃったのかしら……!?
頭の中で次から次へとハイスペックなイケメンたちの顔が浮かんでは消え、どうしても眠れなくなってしまった私は、ガバッと勢いよく起き上がった。
「こうなったら、じっとしてても悶々とするだけだわ……! 明日のために、みんなに差し入れのクッキーでも焼いてみるか……!」
夜中のキッチンで、トントンと小麦粉をこねる音を響かせる。
「明日、これを食べたみんなは、どんな顔をしてくれるかな……♪」
——夜な夜なお菓子を焼きながら、相変わらず自分のなかのスケベ心と乙女心に全力で振り回されている、ちょっとおバカで愛しい天音ちゃんなのだった。
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