本屋の遭遇と、神楽坂エリア長の秘密
資格の勉強から逃げ出した本屋で、なんと神楽坂エリア長と美女に遭遇してしまった天音ちゃん!
「彼女さんだわ……羨ましすぎる!」と勝手に勘違いして涙ぐむ天音ちゃんでしたが、その美女の正体はエリア長の妹・楓さんで……!?
エリア長が家でどれだけ天音ちゃんのことをベタ褒めしていたのかが全部暴露されてしまう、キュンキュン必至の神楽坂回をお楽しみください!
みんなの眩しすぎる資格の数々にすっかり打ちのめされてしまった私は、その足で気晴らしに近くの本屋へと立ち寄っていた。
うーん……資格、資格、かぁ……。
何か私でも取れそうな簡単なものは……と、棚に並ぶ分厚い参考書の膨大な数字と文字の暴力に、一瞬で気が滅入ってしまう。
「はぁ……私はやっぱり、あんな頭の良い人たちとは違うんだわ……。全然頭に入ってこないや……」
ため息をつきながら、ふと視線を上げると——。
なんと、すぐ近くの通路に、見慣れた端正なスーツ姿と、ため息が出るほどめちゃくちゃ綺麗な女性が一緒に歩いている姿が目に入った。
「なっ……!?」
えっ、あれって……神楽坂エリア長!?
はわわわっ、やばい、隠れなきゃ……! と焦った拍子に、手に持っていた専門書をガチャンと派手に落としてしまった。
「っと……」
「……薬師寺先生?」
あぁ、見つかっちゃった……!
わっ、どうしようどうしよう……! アフターの夜デートの邪魔をしちゃったなんて思われたらどうしよう……!
ビクビクと震える私に、エリア長は優しく微笑みながら近づいてきて、落とした本を拾い上げてくれた。
「こんなところでどうしたんだ? 随分と難しそうな本ばかり手に取って……」
「あ、あの……さっきみんなの資格の話を聞いて、私も何か頑張らなきゃって思ったんですけど……何の本が自分に向いているのか、全然分からなくて……」
少しシュンとうなだれる私に、エリア長は困ったような、でも愛おしむような優しい目を向けた。
「……無理をしなくていい。私たちにはない良さが、君にはちゃんとあるじゃないか。無理にそんな難しい資格を取らなくても……君の日々の仕事への姿勢、態度、そして誰に対しても誠実なところ……どれも本当に素晴らしい、君だけの魅力だ」
はわわわわ……っ!
こんな真面目で真っ直ぐなトーンで褒められたら、私の頭は一気に沸騰しちゃうよぅ……!
って、違う違う! 今は目の前にいる女性よ、女性!
エリア長のすぐ後ろで、その綺麗な女性はクスッと楽しそうに私たちを見守っている。
「こんばんは、薬師寺さん♪」
「……っ!?」
えっ……!?
今、この綺麗な人……私の名前を呼んだ……よね!? 初対面のはずなのに、どうして私の名前を知っているの……!?
うっ……またしてもキャパオーバーで、目から涙がじわりと滲んでくる。
今日はなんだか、驚かされてばかりで涙腺が緩みっぱなしだわ……。
「どっ、どうしたんだ薬師寺さん!? 急に泣きそうな顔をして……!」
「うっ……うぅ……だ、だって……こんなに美しくて素敵な彼女さんがいらっしゃるのに、私ったら、こんなところでエリア長に優しい言葉をかけてもらって……勝手に胸をときめかせちゃったりして……うぅ、私ってなんておこがましいんだろ……っ!」
ブワッとあふれそうになる涙を必死に拭おうとすると、隣で聞いていた綺麗な女性が、声を出してケラケラと笑い出した。
「アハハッ! お兄ちゃん、聞いた!? 脈あるかもしれないよ、頑張りなよ!(笑)」
「……お、お兄ちゃん……?」
きょとんとまばたきをする私の前で、神楽坂エリア長は、今まで見たこともないほど真っ赤に顔を染め上げていた。
「なっ……! よ、余計なことを言うな、楓!!」
「だってお兄ちゃん、たまに実家に来ると薬師寺さんの話ばかりしてるんだもん♪ 『今日の薬師寺先生はこんな細かい所に気づいて素晴らしかった』とか、『他の薬局長みたいに俺を怖がらない』とか、『今日の化粧品の勉強会ですごく可愛かった』とか……あ、そうそう、この前は飲みに行ったんだよね♪『パスタを食べてる時の頬張る姿がめっちゃ可愛……』」
「やっ……やめろぉーーっ!! 楓、それ以上喋ったら許さないぞ!!」
そこに立っていたのは、いつもの冷徹で「鉄の神楽坂」と呼ばれているエリートエリア長の姿ではなく、ただタジタジになって妹に弱みを握られている、ただの赤面した若い男性だった。
「その……っ! 勘違いするな薬師寺先生! こいつは私の妹の『楓』だ! ……ほら、こいつも同じ薬剤師だからな……普段は病院で働いているが……」
「なによ、せっかくお兄ちゃんの可愛い恋心をアシストしてあげてるのに! だって、家でお兄ちゃんが話すネタ、薬師寺さんのことしか無いんだもん!」
「わーっ、喋るな! 薬師寺先生、良いな、無理はしなくていいから!」
顔を真っ赤に染め上げたまま、エリア長は妹の楓さんを引っ張るようにして、慌ててその場から足早に去っていってしまった。
取り残された私の頭の中には、さっき楓さんが暴露していった言葉が、何度も何度もリフレインしていた。
(私のこと……ばかり……話してたの……?)
トクン……と、胸の奥がこれまでにないほど大きく跳ねる。
あまりのドキドキに、もう目の前の専門書どころではなくなってしまった。
―――薬師寺天音、今日の夜も眠れそうにありません。
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