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『嵌められた元王太子は、古の塔で自由に生きる 〜2000年前の魔導具師が遺した不思議な遺産〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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第65話 開けなくていいと言われた扉を、安心させるためという理由で開けることはできませんでした

 名前の分からない子供が「あけなくていい」と口にしてから、旧保養施設では何も開けなかった。


 子供が見ていた室内扉も、床下中継部へつながっていた可能性のある点検口候補も、用途不明室も、古い送風路も、そのままだった。そもそも本人が何を指して「あけなくていい」と言ったのか分からない以上、すべてを本人の拒否対象として扱うこともできないが、だからといって都合よく対象を狭める理由もなかった。


 俺は塔の寝台に腰掛けたまま、エルから届く報告を聞いていた。


「今、あの子は?」


『普段から接している職員と同室です。本人が職員の滞在を希望しています』


「扉は?」


『閉じています』


「鍵は?」


『かけていません』


「本人が決めた?」


『職員が「閉めておく? 少し開ける?」と尋ねたところ、「しめる」と回答しました。その後、施錠については本人から希望がなく、職員も提案していません』


「分かった」


 閉める。


 でも、鍵をかけるとは言っていない。


 そこも勝手に足さない。


「怖さは数字で聞いた?」


『聞いていません』


「それでいい」


 あの子は三〇八号室の少年とは違う。


 数字で状態を伝える方法を共有しているわけでもないし、そもそも同じ方法を使わせる必要もない。


「身体は?」


『目視範囲で負傷なし。呼吸は先ほどより落ち着いています。水を少量飲みました』


「朝ご飯は?」


『まだです』


「本人が欲しがったら普通に出して」


『はい』


「音は?」


『最初の小さな打音以降、同種の音は記録されていません』


「旧送風路や細管の振動も?」


『ありません』


「廊下に誰かいたかは?」


『確認が終わりました』


 俺は少し姿勢を正した。


「誰かいた?」


『音が記録された時刻の前後一分間に、生活区画廊下を通行した者はいません』


「隣の部屋は?」


『一室は空室。もう一室では職員一名が物品整理中でした』


「何か落とした?」


『本人へ確認済みです。該当時刻に物品落下、家具移動、扉開閉は行っていないとのことです』


「窓?」


『閉鎖状態です』


「外?」


『風は弱く、外壁への枝の接触は確認されていません』


「じゃあ原因不明」


『現時点では』


 また一つ。


 原因不明。


 でも、昨日まで追っていた設備側の微弱振動とは同時ではなかった。


 その違いは大きい。


「ガルムは何て?」


『生活区画の安全確認を優先。ただし、本人の室内扉を開けて廊下を見せるような確認はしないとのことです』


「どうやって確認する?」


『生活区画の別経路から、廊下、隣室、外壁、天井裏へ通じる既存点検部を確認します。子供の部屋そのものには入りません』


「天井裏は開ける?」


『すでに日常保守で使用している点検口のみです。新規開口は行いません』


「それなら」


 少しだけ肩の力が抜ける。


 安心させるために、本人の前で扉を開けて「ほら、何もいない」と見せる。


 そんな方法も考えられる。


 でも、それで安心するとは限らない。


 むしろ「あけなくていい」と言った直後に大人が開ければ、言葉が無視されたという経験だけが残るかもしれない。


「俺は朝食食べてから白鴉へ行く」


『旧保養施設ではなく?』


「行きたいけど、今は行かない」


『理由を伺っても?』


「俺が行ったら人が増える」


『はい』


「ガルムもいる。リディアもいる。いつもの職員もいる。安全確認は回ってる」


『はい』


「それに、あの子は俺を呼んでない」


『承知しました』


「何か変わったら教えて」


『はい』


 立ち上がる。


 食堂へ向かうと、セリーはすでに朝食を用意していた。


 俺を見る。


「旧保養施設へ行かれますか?」


「行かない」


「承知しました」


「理由聞かない?」


「主様のお顔を拝見する限り、すでに十分お考えになったようですので」


「顔で分かる?」


「ある程度は」


「怖いな」


「長くお仕えしておりますので」


 席へ座り、水を飲む。


 今日は何も言われない。


「今のは?」


「水分摂取です」


「評価は?」


「必要ありません」


「厳しい」


 パンをちぎる。


 食欲はある。


 でも、頭の一部は旧保養施設に残っている。


「セリー」


「はい」


「安心させるために見せるって、どう思う?」


「何をでしょう」


「例えば、子供が扉の向こうを怖がってる。大人が扉を開けて、何もいないって見せる」


「本人が確認を望んでいるのであれば、一つの方法にはなるかと思います」


「望んでないなら?」


「少なくとも、安心させるという目的だけで本人の拒否を越える理由にはなりにくいでしょう」


「だよな」


「ただし、扉の向こうから火や煙が出ているなど、安全上確認が不可欠な状況であれば別です」


「うん」


「今回、そのような兆候はありますか?」


「今のところない」


「では、開けないことにも合理的な理由があります」


 スープを飲む。


「昔の俺なら開けたかな」


「可能性はございます」


「ほら、何もいないって」


「そして、本当に何もいなければ安心されたとお考えになったかもしれません」


「きついな」


「主様が尋ねられましたので」


「そうだけど」


 少し笑う。


 でも、否定できない。


 結果がよければ方法も正しかったと思ってしまう。


 何もいなかった。


 だから開けてよかった。


 本人もあとで落ち着いた。


 だから嫌がっていても正しかった。


 そうやって後から理由はいくらでも作れる。


「でも、開けなかったせいで危険を見落とすこともある」


「はい」


「だから絶対開けないでもない」


「その通りです」


「面倒だな」


「人の安全と意思を同時に扱う以上、単純ではありません」


「もっと簡単な決まりない?」


「ございましたら、私も知りたいところです」


 セリーが真顔で答えた。


 俺は笑った。


 朝食を終え、白鴉療養所へ向かう。


 晴れた空の下、中庭の石畳は完全に乾いていた。


 水たまりはない。


 それでも三〇八号室の少年は窓の外を見ていた。


「おはよう」


「アル」


「今日は完全になくなったな」


「うん」


「水たまり」


「分かってる」


「寂しい?」


「ちょっと」


 少年は窓から離れた。


「でもまた雨降る」


「そうだな」


「今日じゃない?」


「多分」


「じゃあ待つ」


「雨を?」


「水たまり」


「同じようなものじゃない?」


「雨降っても水たまりできないかもしれない」


「確かに」


 少年が少し得意そうな顔をする。


 卓の上には昨日の絵。


 二本目の短い線には、小さな印が残っている。


 消していない。


「身体は?」


「重さ一」


「頭痛ない」


 俺が聞く前に答える。


「気持ち悪くない。怖さ一」


「先に全部言ったな」


「毎日聞くから」


「嫌だった?」


「違う。早く終わる」


「それなら助かる」


 セリーも状態を確認する。


 白い薬を少し減らしてから、目立った悪化はない。


 少年は薬の容器を見る。


「今日は……」


 少し長く考えた。


「同じ」


「維持する?」


「うん」


「減らしたくない?」


「今日は」


「分かった」


 理由は聞かない。


 少年が自分から続ける。


「地下の子、どうなった?」


「聞きたい?」


「うん」


 俺は必要な範囲だけ説明した。


 朝早く、小さな打音が記録されたこと。


 旧設備側の振動とは同時ではなかったこと。


 その少しあと、子供が「きた」「こんどは、こっち」「あけなくていい」と言ったこと。


 何を指しているかは分からないこと。


「開けた?」


「開けてない」


「どこも?」


「本人の部屋の扉も、地下の点検口も、今のところ新しく何かを開けてはいない」


「何で?」


「開ける必要がまだないから」


「『あけなくていい』って言ったから?」


「それも理由の一つ。でも、何を指したか分からないから、それだけじゃない」


「危なかったら?」


「必要なら開ける」


「嫌って言っても?」


「命に関わるなら」


 少年は少し黙った。


 前にも話したことだ。


 それでも、今日聞けば今日の答えになる。


「じゃあ、今は危なくない?」


「確認できてる範囲では、急いで開けないと危ない状態じゃない」


「だから開けない」


「うん」


「でも調べる?」


「開けなくてもできるところから」


「……昨日の音とか?」


「そう」


 少年が自分の絵を見る。


「俺の線も?」


「何が?」


「消さなくても見れる」


「見れるな」


「消したら見れない」


「うん」


 少年は指先で、二本目の線の少し横を触った。


「違うやつもいる」


「いる?」


「残ってる」


「そっちか」


「人みたいに言った?」


「ちょっと」


「線なのに」


「線だな」


 少年は笑う。


 薬を飲む。


 蜂蜜水を飲む。


 今日も苦いと言った。


 記録にはそのまま残す。


 しばらくして、少年が父からの手紙が置かれた場所を見た。


 赤い布に包まれた残りの手紙。


 二通目は途中までしか読んでいない。


 俺は何も言わない。


 少年もすぐには言わなかった。


「アル」


「何?」


「手紙」


「うん」


「今日は……」


 言葉が止まる。


 俺は待つ。


「見たいけど、読みたくない」


「両方?」


「うん」


「じゃあどうする?」


「見るだけ」


「封筒を?」


「二通目」


「分かった」


 少年が自分で赤い布へ近づく。


 布そのものは調べていない。


 本人が調査を許可していないからだ。


 職員も触らない。


 少年は二通目の手紙だけを取り出した。


 途中まで開かれている。


 以前読んだところまで。


 父を名乗る文面。


 治療を信じろ。


 教師を信じろ。


 薬を飲め。


 恐れや怒りを自分の判断材料にするな。


 迷いが生じたら、自分で判断せず教師へ申し出ろ。


 そこから先はまだ読んでいない。


「開く?」


「うん。でも続きは読まない」


「分かった」


 少年は紙を開いた。


 以前読んだ部分だけを見る。


 声には出さない。


 視線がゆっくり文字を追う。


 途中で止まる。


「ここ」


「どこ?」


「『自分で判断しない』」


「うん」


「嫌」


「うん」


「前も嫌だった」


「覚えてる」


「今も嫌」


「分かった」


「変わってない?」


「今のところは」


「記録する?」


「してほしい?」


「うん」


 俺はエルへ頼む。


 今日、本人が二通目の既読部分を見直し、「自分で判断しない」に相当する箇所を今も嫌だと表明した。


 それだけ。


 なぜ嫌なのかを勝手に足さない。


「続きは?」


 俺は聞かない。


 少年自身が紙の未読部分を見る。


 視線だけ。


「……読まない」


「分かった」


「今日は」


「うん」


「でも戻す前に、もう一回ここ見る」


「うん」


 同じ一文を見る。


 それから紙を畳む。


 赤い布のところへ戻す。


「読まなかった」


「うん」


「でも見た」


「うん」


「これも進んだ?」


「進んだって言ってほしい?」


「分かんない」


「じゃあ、今日は見た。それだけでいいんじゃない?」


「そっか」


 少年は椅子へ戻った。


「談話室行く?」


「あとで」


「外は?」


「行かない」


「絵は?」


「描く」


 炭筆を持つ。


 一本目の道の先はまだ白い。


 二本目の線も短い。


 少年はどちらも伸ばさなかった。


 代わりに、六本脚の椅子の近くへ小さな四角を一つ描く。


「何?」


「箱」


「何の?」


「まだ決めてない」


「空?」


「うん」


「ミナの袋みたいだな」


「違う」


「何が?」


「これは箱」


「そこ?」


「うん」


 俺は笑った。


 昼前、旧保養施設から追加報告が届いた。


 俺は三〇八号室の少年に聞く。


「地下の報告来た。聞く?」


「うん」


「ここで?」


「うん」


「エル、お願い」


『はい。生活区画の安全確認について報告します』


 少年も静かに聞く。


『室内扉を開けずに確認可能な範囲について、異常はありませんでした』


「廊下?」


『別経路から確認済み。侵入者なし。床、壁、天井に新たな損傷なし』


「隣室?」


『異常なし』


「外壁?」


『異常なし』


「天井裏?」


『既存点検口から確認できる範囲で、小動物等の侵入痕跡なし』


「音の発生源は?」


『未特定です』


「同じ音は?」


『朝の一回以降、記録されていません』


「子供は?」


『朝食を摂取しました。その後、職員と紙を折って遊んでいます』


「扉は?」


『本人が朝食後に「もういい」と発言しました』


「何が?」


『職員も意味を特定できなかったため、「扉?」と一度だけ確認しました』


「本人は?」


『頷きました』


「それで?」


『職員が「開ける? 閉めておく?」と尋ねたところ、「あける」と回答しています』


 三〇八号室の少年が俺を見る。


「開けた?」


「エル?」


『本人が自分で扉の取っ手へ触れました』


「自分で?」


『はい。職員は横にいましたが、扉には触れていません』


「それで?」


『本人が少しだけ開けました』


「怖がった?」


『一度停止しました。その後、廊下を見て、「いない」と発言しています』


 胸が少しざわつく。


「何がいないか聞いた?」


『聞いていません』


「続きは?」


『本人は扉をさらに開き、廊下へは出ず、そのまま室内で朝食後の遊びを続けています』


「今も開いてる?」


『半開きです』


「本人が決めた?」


『はい』


「じゃあそのまま」


『共有済みです』


 三〇八号室の少年が少し考える。


「朝は開けなくていいって言ったのに」


「うん」


「あとで開けた」


「うん」


「変わった」


「変わったな」


「朝、無理に開けなくてよかった?」


「俺はそう思ってる」


「でも、どうせあとで開けた」


「あとで本人が開けたのと、朝に俺たちが開けるのは違うだろ」


「……誰が決めたか?」


「それもある」


「時間も?」


「あると思う」


「怖さも変わったかも」


「それも」


 少年は自分の絵を見る。


「朝の『あけなくていい』は消す?」


「消さない」


「あとで開けたのに?」


「朝は開けなくていいって言った。あとで開けるって決めた。両方残す」


「やっぱり」


「何が?」


「俺の線と同じ」


「そうかもな」


 少年が少し嬉しそうに笑った。


「でも『いない』って何?」


「分からない」


「聞きたい?」


「聞きたい」


「聞かない?」


「今は」


「また?」


「また」


 少年は笑った。


「アル、ずっと我慢してる」


「本当にね」


 でも、今は聞く必要がない。


 本人は落ち着いている。


 扉を自分で開けた。


 廊下を見た。


 「いない」と言った。


 それ以上は本人から出てくるのを待てる。


 昼食へ向かう途中、ブラットと会った。


「旧保養施設へ行かないのか?」


「今日は行かない」


「珍しく賢い二日目」


「ガルムの真似するな」


「便利だからな」


「俺そんなに信用なかった?」


「自分で何でも見に行く癖についてはな」


「最近行かなくなっただろ」


「だから珍しい」


「褒めてないな」


「褒めてる」


 三〇八号室の少年が俺たちを見て笑う。


「アル、褒められてる」


「そうらしい」


「よかったね」


「何でお前まで上からなんだ」


 食堂へ入る。


 老人が今日もスープを見ている。


「豆は?」


 少年が聞く。


「四つ」


「もう数えた?」


「今日は先に数えた」


「何で?」


「昨日より少ない気がしたからだ」


「昨日何個?」


「忘れた」


「比べられないじゃん」


 老人が黙る。


 ブラットが吹き出した。


「強いな」


「何が?」


「いや」


 昼食の間、地下の話はしなかった。


 豆。


 パン。


 ミナの空の袋。


 幼いアルフォンスが赤いジャムをパンの端まで塗ろうとして、ヨアヒムに「皿の上でお願いします」と頼まれていること。


 そんな話だけ。


 幼いアルフォンスは俺に気づくと、赤いジャムのついたパンを少し持ち上げた。


「アル」


「何?」


「きょう、食べる?」


「ジャム?」


「うん」


「今日はちょっと食べようかな」


 幼い顔が明るくなる。


「おいしい」


「知ってる」


「じゃあいっぱい」


「少しでいい」


「おいしいのに?」


「美味しくても量は自分で決める」


「……そっか」


 前にも似た会話をした。


 今日は俺が食べたい。


 だから少しだけもらう。


 セリーがパンを用意してくれ、赤いジャムを薄く塗る。


 幼いアルフォンスは自分のパンを見る。


 俺のパンを見る。


「少ない」


「俺はこれでいい」


「もっとおいしい」


「お前は多い方が好き?」


「うん」


「じゃあお前はそれでいい」


「アルは少ない?」


「うん」


「違う」


「違うな」


 幼いアルフォンスはそれで納得し、自分のパンを食べ始めた。


 同じジャム。


 同じ名前。


 同じ量にする必要はない。


 午後、俺はアンナマリーと帰還管理所の記録を確認した。


 昨日見つけた初期の管理代行例。


 高熱と意識混濁で本人意思を確認できず、一部の処置準備だけを代行し、処置確認者が「本人意思未確認のため移送保留」とした記録。


 その周辺年代をさらに追う。


「今日は何件?」


「三件までにしますか?」


「何でアンナマリーが決めるの」


「昨日、一冊追加されましたので」


「今日は体調いい」


「ではアルフォンス様がお決めください」


「……三件」


「承知しました」


「最初からそのつもりだった?」


「いいえ」


「本当?」


「はい」


 少し疑いながら一件目を見る。


 本人は負傷で発語困難。


 意識あり。


 筆談可能。


 帰還について「今は答えない」と記録。


 処置確認者は内区移送保留。


 身体治療のみ実施。


「筆談できたから、意思確認不能にはしてない」


「はい」


「話せないことと、決められないことを分けてる」


「この記録では」


「後の時代は?」


「発語なしを意思確認困難としてまとめた例があります」


「また変わってる」


「はい」


 二件目。


 本人は帰還を拒否。


 理由欄には「説明内容への不信」。


 処置確認者は移送保留。


 翌日も再確認せず。


 三日後、本人から説明担当者の変更を希望。


 別の担当者が説明。


 それでも拒否。


 外区保護継続。


「この人、帰らなかった?」


「この帳簿の範囲では」


「拒否が症状になってない」


「はい」


「説明する人を変えてって言える」


「はい」


「それでも拒否してる」


「はい」


「処置確認者は?」


「毎回、移送保留です」


「……この頃はかなり止める役だったように見えるな」


「複数例ではそう見えます。ただし、職務規定全体が残っていません」


「決めない」


「はい」


 三件目。


 本人は帰還希望。


 身体負荷許容。


 説明完了。


 ところが処置確認者が止めている。


「何で?」


「帰還資格欄の確認印が欠けています」


「本人は帰りたいのに?」


「はい」


「それでも止めた」


「記録上は」


「翌日は?」


「資格確認が完了し、その後に内区移送されています」


 俺は帳簿を見た。


「本人意思だけ優先でもない」


「はい」


「帰りたいって言ったから何でも通すわけじゃない」


「安全や資格確認も必要だったのでしょう」


「選択を尊重するって、本人が言ったこと全部そのままやるって意味じゃない」


「そうですね」


「……最近ずっと同じところに戻ってくるな」


「重要なことなのでは?」


「多分」


 本人が帰りたい。


 でも、身体が耐えられない。


 本人が拒否する。


 でも、命が危ない。


 本人が話せない。


 でも、別の方法なら意思を示せる。


 本人が昨日選んだ。


 でも、今日は違うかもしれない。


 単純な決まりにすれば、どこかで誰かの言葉が消える。


「三件終わり」


「はい」


「今日は追加しない」


「素晴らしいです」


「やっと褒めた」


「自己管理についてです」


「何でもいい」


 帳簿を閉じる。


 その直後、エルが声をかけた。


『主様。旧保養施設から報告があります』


「緊急?」


『いいえ』


「聞く」


『朝に記録された小さな打音について、発生位置の候補が一つ見つかりました』


「どこ?」


『生活区画廊下の壁内部です』


「壁?」


『はい。ただし、空洞を新たに開けて確認したわけではありません』


「どうやって?」


『既存の建築図と、廊下両端の記録器に残った音の到達差を比較しました』


「壁の中に何がある?」


『古い呼び出し線が通っていた可能性があります』


「呼び出し線?」


『各療養室から職員詰所へ合図を送るための設備です』


 俺は少し黙った。


「導き路とは別?」


『現時点では別系統として扱っています』


「地下の伝達設備とも?」


『直接の接続記録はありません』


「今も使える?」


『現在の施設運用では使用していません』


「線そのものは残ってる?」


『一部残存している可能性があります』


「どういう仕組み?」


『古い形式では、室内の呼び出し具を操作すると細い金属線へ張力がかかり、職員詰所側の小さな打鈴を鳴らす構造だったようです』


「魔法じゃない?」


『基本部分は機械式です。一部に状態表示用の簡易術式が追加された時代もあります』


「じゃあ朝の音は、その線?」


『候補です』


「誰も操作してない」


『現在確認できている範囲では』


「子供の部屋にも呼び出し具がある?」


『見える位置にはありません』


「壁の中?」


『改修で撤去された可能性があります』


「勝手に開けて探さない」


『はい』


「詰所側は?」


『旧呼び出し盤の痕跡が残っています』


「そこは普段使ってる場所?」


『現在の職員詰所の壁際です』


「触った人は?」


『該当時刻にはいません』


「じゃあ古い線が温度変化とかで動いた?」


『候補の一つです』


「昨日の発生源不明打音も?」


『波形が近いため、同系統の可能性があります』


「低い共鳴は?」


『別です』


「地下の微弱振動も?」


『別として扱います』


 また分かれた。


 でも、今回は悪くない。


 一つにまとめていたものを分ける材料が増えた。


「ガルムは?」


『旧呼び出し線を刺激せず、図面と露出している旧盤だけで経路を確認する方針です』


「それで」


『子供への説明は?』


 少し考える。


「本人が朝の音についてまた聞いたら、分かった範囲だけ伝える」


『こちらからは?』


「……いや」


 そこで一度止まる。


「待って」


『はい』


「本人、朝に『きた』って言ってる」


『はい』


「『こんどは、こっち』とも」


『はい』


「そのあと自分で扉を開けて『いない』って言った」


『はい』


「音が古い呼び出し線かもしれないって分かったなら、本人の安全に関係する説明になるか?」


『危険性が低い可能性を伝えるという意味では、安心材料になる可能性があります』


「でも、本人があの音を呼び出し線の音として怖がってたか分からない」


『はい』


「なら『朝聞こえた音について少し分かったことがある。聞きたい?』までなら?」


『本人へ選択肢を提示する形になります』


「ガルムに相談して」


『すでに同様の案が出ています』


「早いな」


『ガルム隊長からは、「説明できることが増えたなら、隠す理由もない。ただし聞かせる理由も勝手に作るな」と』


「同意」


 しばらくして返事が来た。


 いつもの職員が子供へ尋ねた。


『朝の音について、少し分かったことがある。聞く?』


 子供は少し考えた。


 そして。


『きく』


 説明は短くした。


 壁の中に、昔、部屋から職員を呼ぶための仕組みがあったらしい。


 朝の音は、その古い仕組みから出た可能性がある。


 誰かが部屋の外にいたことは確認されていない。


 でも、まだ確定ではない。


 それだけ。


「反応は?」


『本人は壁を見ています』


「怖がってる?」


『大きな変化なし』


「何か言った?」


『はい』


「そのまま」


『「よぶやつ?」』


「職員は?」


『「昔はそうだったみたい」と回答しています』


「それで?」


『本人は少し考えたあと、「ちがう」と発言しました』


 俺は目を閉じた。


「何が違うか聞いてない?」


『はい』


「続きは?」


『壁ではなく、自分の布鞄を見ました』


「木片?」


『取り出していません』


「何て?」


『「これは、よばない」』


 アンナマリーも黙っている。


 俺はゆっくり息を吐く。


「木片のことだと決めない」


『はい』


「鞄を見ただけ」


『はい』


「でも記録はそのまま」


『はい』


「他には?」


『本人はその後、紙遊びへ戻りました』


 通信が終わる。


 アンナマリーが静かに言った。


「また分かれましたね」


「うん」


「呼ぶための線」


「かもしれない」


「子供は違うと言った」


「何と違うかは分からない」


「そして『これは、よばない』」


「何を指してるかも分からない」


「ですが、記録は残る」


「うん」


 少しだけ笑う。


「最近、分からないまま残すのが上手くなった気がする」


「以前よりは」


「もっと褒めて」


「まだ途中です」


「厳しい」


 午後遅く、三〇八号室へ戻る。


 少年は絵を描いていた。


 空の箱。


 道。


 休む場所。


 短い別の線。


「地下の音、少し分かった」


 俺から言う前に、少年が顔を上げる。


「聞く」


「壁の中に昔の呼び出し線があったかもしれない」


「呼ぶやつ?」


「部屋から職員を呼ぶための仕組み」


「朝の音?」


「可能性がある」


「子供は?」


「説明を聞くって選んだ」


「何て?」


「『よぶやつ?』って。そのあと『違う』って言った」


「違う?」


「うん」


「何が?」


「聞いてない」


「やっぱり」


「やっぱりって何だよ」


「アルだから」


「俺、そんな人になった?」


「聞きたいのに聞かない人」


「すごく面倒な人みたいだな」


「違う?」


「……あんまり違わない」


 少年が笑う。


「あと、『これは、よばない』って言った」


「何が?」


「分からない。鞄を見てたけど、木のやつを出したわけじゃない」


「木のやつは呼ばない?」


「そうかもしれない。でも、まだそう書かない」


「何て書く?」


「鞄を見て『これは、よばない』って言った」


「そのまま?」


「そのまま」


 少年は自分の絵を見る。


「これも」


 二本目の線を指す。


「道じゃないって書かない」


「何で?」


「まだ分かんないから」


「うん」


「でも一本目と違うって思った印はある」


「うん」


「それは本当」


「そうだな」


 少年が炭筆を動かす。


 今日は二本目の線ではない。


 空の箱の中へ、小さな丸を一つ描いた。


「空じゃなくなった」


「うん」


「何入れた?」


「音」


「音?」


「丸だけど」


「音って丸なの?」


「俺の絵では」


「便利だな」


「うん」


「何の音?」


「まだ決めてない」


「音なのは決まってる?」


「うん」


「箱に音を入れる?」


「絵だから」


「それで全部通すなよ」


 少年が楽しそうに笑った。


 夕方。


 旧保養施設では、呼び出し線候補の調査を開けずに続けた。


 旧職員詰所の壁に残っていた小さな金属板。


 そこには部屋番号と思われる刻印が並んでいた。


 多くは錆び、何枚かは外されている。


 現在、名前の分からない子供が使っている部屋に対応する番号は残っていなかった。


 外されたのか。


 最初からなかったのか。


 改修で番号が変わったのか。


 分からない。


 そして、露出している一本の古い金属線が、温度変化だけでもわずかに張力を変えることが確認された。


 ただし。


「音は出た?」


『いいえ』


「触ってない?」


『はい。自然な室温変化を観測しただけです』


「じゃあ朝の打音を説明できるところまではいかない」


『はい』


「でも機械的に鳴る可能性はある」


『あります』


「地下振動との接続は?」


『確認されていません』


「分けたまま」


『はい』


「低い共鳴は?」


『本日は記録なしです』


「子供は?」


『午後は関連発言なし。木片は鞄内です』


「部屋の扉は?」


『本人が昼過ぎに閉めました』


「何で?」


『「ねる」と』


「普通だな」


『はい』


「起きたあと?」


『自分で開けています』


「それも普通」


『はい』


 その普通さに少し救われる。


 朝の「あけなくていい」が、その子の一日全部を支配していない。


 怖かったのかもしれない。


 警戒したのかもしれない。


 別の意味だったのかもしれない。


 でも、あとで本人は自分で扉を開けた。


 昼寝するから閉めた。


 起きたから開けた。


 扉は、怖いものだけではなくなっている。


 あるいは最初から、俺たちが思うほど単純な意味ではなかった。


 塔へ戻ると、セリーが夕食を用意していた。


「今日は旧保養施設へ行かなかった」


「はい」


「褒める?」


「行かないこと自体が目的ではございません」


「正論」


「必要な場所へ必要な時に向かわれるのであれば、それでよろしいかと」


「じゃあ今日は?」


「主様がおられなくても現地は適切に機能しておりました」


「それ、結構嬉しいな」


「はい」


 王太子だった頃。


 俺がいなければ回らない場所を作ることが、必要とされることだと思っていた時期があった。


 俺が決める。


 俺が責任を負う。


 俺が最後に確認する。


 俺がいれば大丈夫。


 それは頼られているようで、周りから選ぶ余地を奪っていたのかもしれない。


「ガルムたち、俺いなくても普通にやるな」


「当然かと」


「少し寂しい」


「主様」


「冗談半分」


「残る半分は?」


「少し本当」


 セリーが俺を見る。


「必要とされたいですか?」


「……多分」


「それ自体は悪いことではないと思います」


「でも、必要とされるために何でも自分でやるのは違う」


「はい」


「難しいな」


「本日何度目でしょう」


「数えてない」


 食事を始める。


 しばらくして、エルから最後の報告が届いた。


『主様。旧保養施設から、本日の観測終了前報告です』


「聞く」


『微弱振動は午後に一回。旧送風路、細い金属管双方で記録。方向差は誤差内です』


「呼び出し線の打音は?」


『ありません』


「低い共鳴?」


『ありません』


「三つ、別々に動いてる感じが強くなってきたな」


『少なくとも、すべてを一つの原因で説明する根拠は弱くなっています』


「明日は?」


『無刺激観測を継続しつつ、旧呼び出し設備については記録調査を優先。非接触の残留魔力測定について、リディアとフェリクスが条件案をまとめています』


「まだ実施しない?」


『はい。主様とガルム隊長の確認後です』


「分かった」


『名前の分からない子供について、就寝前に一つ自発発言があります』


「何?」


『布鞄を枕元へ置き、「ここ」と発言しました』


「職員は?」


『「そこに置く?」と確認しました』


「本人は?」


『頷きました』


「それだけ?」


『その後、布団へ入っています』


「じゃあそれだけ」


『はい』


「木片を調べない」


『はい』


「鞄も」


『はい』


「おやすみって伝えて」


『すでに職員から伝えています』


「そっか」


 通信を終える。


 夕食を食べ終え、風呂に入り、自室へ戻る。


 今日は静かに終わる。


 そう思っていた。


 寝台へ入る少し前。


 エルが声をかけた。


『主様』


「緊急?」


『生命に関わる緊急事態ではありません』


「旧保養施設?」


『はい』


 椅子へ座り直す。


「何があった?」


『名前の分からない子供は、すでに眠っています』


「じゃあ設備?」


『旧職員詰所の記録器が、小さな打音を一回記録しました』


「朝のと似てる?」


『近似しています』


「子供の部屋側は?」


『生活区画廊下の記録器にも、弱く記録されています』


「旧送風路?」


『同時刻に振動なし』


「細管?」


『なし』


「低い共鳴?」


『なし』


「呼び出し線だけの可能性が上がった?」


『可能性はあります』


「誰も触ってない?」


『はい』


「温度変化?」


『室温が緩やかに低下している時間帯ですが、打音直前に急な変化はありません』


「じゃあまだ原因不明」


『はい』


「子供は起きた?」


『いいえ』


 そこで少し安心する。


「なら今夜はそのまま観測」


『ガルム隊長も同意しています』


「分かった」


『ただし、打音の直後に旧呼び出し盤で一つ変化が確認されました』


 また身体が少し硬くなる。


「何?」


『錆びて動かないと思われていた表示板の一枚が、ごくわずかに傾きました』


「どの部屋?」


『刻印が摩耗しており、番号は読めません』


「触るな」


『触れていません』


「写真と位置記録だけ」


『実施しています』


「魔力反応?」


『現時点では測定していません』


「そのままで」


『はい』


「傾いただけ?」


『約三ミリです』


「それで止まった?」


『はい』


 古い機械なら、張力が変わって動いたのかもしれない。


 錆が外れただけかもしれない。


 温度で金属が縮んだのかもしれない。


 何十年も動かなかったものが、たまたま今日動いただけかもしれない。


 それでも。


「その表示板、元の位置に戻さないで」


『はい』


「三ミリでも、そのまま残す」


『記録済みです』


「明日見ればいい」


『はい』


 今夜、壁を開ける必要はない。


 呼び出し盤を分解する必要もない。


 線を引っ張って再現試験をする必要もない。


 眠っている子供を起こして「今、何か呼んだ?」と聞く必要もない。


「寝る」


『承知しました』


 寝台へ入る。


 目を閉じる。


 古い呼び出し設備。


 動いた表示板。


 子供の「これは、よばない」。


 何が何を呼ぶのか。


 誰が誰を呼ぶのか。


 そもそも呼んでいるのか。


 分からない。


 でも、今夜は分からないままでいい。


 翌朝。


 朝食を食べている途中で、エルから夜間報告が届いた。


「表示板は?」


『昨夜の位置から動いていません』


「追加の打音?」


『ありません』


「地下振動?」


『二回。いずれも呼び出し盤の変化とは一致しません』


「低い共鳴?」


『一回です』


「打音とは?」


『約三時間離れています』


「ますます別だな」


『はい』


「子供は?」


『起床しています』


「昨日の音で起きなかった?」


『はい』


「朝の様子?」


『安定しています』


「木片?」


『布鞄の中です』


「扉?」


『本人が自分で開けています』


「何か言った?」


『朝食を希望しています』


「それだけ?」


『現時点では』


「じゃあそれで」


 パンを食べる。


 セリーがスープを置く。


「今日、旧保養施設行く?」


「主様がお決めください」


「聞いただけなのに」


「では、行かれますか?」


 考える。


「午後、行くかもしれない」


「理由は?」


「動いた表示板を見たい」


「三ミリの?」


「三ミリの」


「触れますか?」


「触らない」


「分解は?」


「しない」


「線を引く?」


「引かない」


「壁を?」


「開けない」


「では、見学ですね」


「何か言い方が軽い」


「実際、見るだけでしたら」


 俺は少し笑う。


「午前は白鴉」


「承知しました」


 三〇八号室の少年は今日も安定していた。


 水たまりはない。


 白い薬については、容器を見ながら少し長く考えた。


「今日は?」


「……同じ」


「分かった」


「減らさないの、遅い?」


「何が?」


「前に少しずつ減らしてたから」


「遅いって誰が決める?」


「……分かんない」


「身体が安定してて、お前が今日は維持したいなら、それでいいと思う」


「ずっと同じでも?」


「ずっとにするかは、ずっと先で決めればいい」


「今日だけ?」


「今日は今日」


 少年が笑う。


「老人みたい」


「やめて」


「昨日は昨日」


「それは便利だけど」


「今日は今日」


「うん」


 薬を飲む。


 蜂蜜水。


 今日も苦い。


 そのあと、少年は絵を広げた。


 空だった箱には、音を表す丸が一つ入っている。


「昨日の音?」


「違う」


「何の音?」


「まだ決めてない」


「じゃあ昨日の音じゃないってことだけ決まった?」


「うん」


「何で?」


「昨日の音は俺聞いてないから」


「……確かに」


「聞いてない音を描けない」


「想像なら描けるけど」


「今日は描かない」


「分かった」


 少年は箱の横へ小さな蓋のような線を描いた。


「閉めた?」


「うん」


「音入ってるのに?」


「出したくなったら開ける」


「誰が?」


「俺」


「そっか」


 それ以上は聞かない。


 午前中、父の手紙には触れなかった。


 談話室へ行き、ミナの空の袋を見た。


 幼いアルフォンスとは会わなかった。


 何か特別なことが起きたわけではない。


 昼前。


 旧保養施設から連絡が入った。


『主様』


「何?」


『旧呼び出し盤について追加確認があります』


「触ってないよな?」


『はい』


「表示板?」


『昨夜傾いた一枚について、斜めから刻印の一部が確認できました』


「番号?」


『完全ではありません』


「何が見えた?」


『数字ではなく、文字の一部です』


「部屋番号じゃない?」


『少なくとも現在見えている部分は数字ではありません』


「何て?」


『古い表記のため完全な現代語訳はできませんが、「戻」または「返」に近い意味を持つ文字の一部と考えられます』


 俺は返事をしなかった。


 三〇八号室の少年もこちらを見ている。


「エル」


『はい』


「その表示板を『帰還用』って呼ばない」


『はい』


「帰還管理所とも結びつけない」


『はい』


「木片の『帰』『還』とも」


『はい』


「偶然同じ系統の字かもしれない」


『その可能性があります』


「古い呼び出し設備で、職員が『戻る』とか『返事』する表示かもしれない」


『はい。設備上の「復帰」「返送」「応答」に相当する用語である可能性もあります』


「そっちも決めない」


『はい』


 三〇八号室の少年が首を傾げる。


「また似た字?」


「うん」


「木のやつと?」


「似てる可能性がある。でも、まだ全然分からない」


「見たい?」


「見たい」


「行く?」


「午後に行く予定」


「触る?」


「触らない」


「開ける?」


「開けない」


「三ミリ?」


「よく覚えてるな」


「昨日聞いたから」


 少年は絵へ目を落とす。


「三ミリでも残す?」


「残す」


「戻さない?」


「戻さない」


「何で?」


「動いたことが分からなくなるから」


 少年は嬉しそうに二本目の線を指した。


「同じ」


「最近それ多いな」


「アルが真似してる」


「否定できない」


 昼食後、俺は旧保養施設へ向かった。


 今日もガルムが入口にいる。


「来たか」


「表示板見に来た」


「三ミリのな」


「みんな三ミリ強調するな」


「実際三ミリだからな」


「分かってる」


「触るな」


「分かってる」


「引っ張るな」


「分かってる」


「フェリクスに近づけるな」


「それ俺の仕事?」


「今日はお前もやれ」


 中から声が飛んでくる。


「聞こえていますよ!」


「なら近づくな!」


「まだ何もしていません!」


「する前に言ってる!」


 俺は笑った。


 旧職員詰所へ入る。


 壁際。


 古い棚の裏に、使われなくなった金属板が残っている。


 小さな表示片が横一列に並ぶ。


 錆びたもの。


 欠けたもの。


 完全に外れているもの。


 その中の一枚だけが、周囲よりわずかに傾いていた。


 本当に三ミリ程度。


「……小さいな」


「だから三ミリだと言った」


「でも見える」


「ああ」


 近づきすぎない位置でしゃがむ。


 斜めになったことで、表示片の下に隠れていた文字の一部が見えている。


 古い字体。


 欠けている。


 全部は読めない。


「エルの言った通りだな」


「専門家も同じ見解だ」


 ガルムが隣へ立つ。


「戻すな、返す、応答、復帰。いくつか候補がある」


「帰還は?」


「文字だけなら意味候補に入る。だが、設備の用途を考えれば先に機械用語を疑うべきだとさ」


「俺もそう思う」


「珍しく」


「もういいって」


 壁を見る。


 この向こうに古い金属線があるかもしれない。


 誰かが部屋から職員を呼ぶために使った。


 あるいは別の用途だった。


 表示片が動いた。


 でも誰も触っていない。


「これ、自然に動く?」


「あり得る」


「錆が外れた?」


「あり得る」


「線が縮んだ?」


「あり得る」


「誰かがどこかで引いた?」


「否定できん」


「全部候補」


「そうだ」


 少し離れた場所でフェリクスが腕を組んでいる。


「触らないなら話していいよ」


「最初から話せますよ」


「何?」


「この形式の呼び出し設備は、必ずしも一対一ではありません」


「どういうこと?」


「一つの部屋から一つの表示板、とは限らないということです。途中で中継器を挟み、複数の詰所へ同じ呼び出しを送る形式もあります」


「中継」


「はい」


「導き路とは?」


「まだ結びつけません」


「偉い」


「馬鹿にしています?」


「してない」


 リディアが図面を持ってくる。


「さらに言えば、この旧呼び出し線と、地下側で確認している細管の年代は一致しません」


「じゃあ別」


「少なくとも同時に設置されたものではありません」


「後から接続した可能性は?」


「確認できていません」


「分ける」


「はい」


 ガルムが壁にもたれないよう少し離れて立つ。


「今日はこれを見たら帰るのか?」


「名前の分からない子に会う予定はない」


「向こうから会いたいと言ったら?」


「その時考える」


「点検口は?」


「見ない」


「昨日見たしな」


「うん」


「地下の振動記録は?」


「報告でいい」


「本当に珍しく賢いな」


「帰るぞ」


「待て。まだ来て十分だ」


 少し笑う。


 でも、見るべきものは見た。


 三ミリ動いた表示板。


 欠けた文字。


 それ以上はない。


 その時だった。


 廊下の向こうから、職員が一人歩いてきた。


 急いではいない。


 俺たちの手前で止まる。


「ガルム隊長」


「どうした」


「お子さんが起きています」


「それは普通だろ」


「はい。ただ……」


 職員が俺を見る。


「アルさんが来ていると知って、会うと言っています」


 俺は少し黙った。


「誰が伝えた?」


「入口で馬車を見たそうです。私に『アル?』と聞いたので、『来ているよ』と答えました」


「それで?」


「『あう』と」


 ガルムが俺を見る。


「どうする?」


「会う」


 今度は迷わなかった。


「どこで?」


「本人は自室の前の廊下を希望しています」


「俺が行く?」


「はい。ただし、本人は『ここ』と言っています」


「じゃあそこまで」


 生活区画へ向かう。


 途中で足を速めない。


 何かを聞き出すためではない。


 呼ばれたから行く。


 廊下の角を曲がる。


 名前の分からない子供が、自分の部屋の前にいた。


 布鞄を肩から下げている。


 扉は開いている。


 俺を見つける。


「アル」


「こんにちは」


 子供は俺を見る。


 それから俺の後ろを見る。


 ガルムたちは来ていない。


 普段の職員だけが少し離れている。


「ここでいい?」


 俺が聞く。


「うん」


「座る?」


 廊下の壁際には小さな椅子がある。


 子供は首を振った。


 俺も立ったままにする。


「会いたいって聞いた」


「うん」


「来たよ」


 それだけ言う。


 子供は布鞄へ手を置いた。


 でも開けない。


「アル」


「うん」


「きのう」


「うん」


「おと」


「うん」


 続きを急がせない。


「きょう、きいた」


「昔の呼ぶ仕組みかもしれないって話?」


「うん」


「聞いたんだな」


「ちがう」


「うん」


 否定しない。


 何と違うのか聞かない。


 子供は少し眉を寄せる。


「よぶの、ちがう」


「分かった」


「これも」


 鞄へ触れる。


 俺は木片だとは言わない。


「うん」


「よばない」


「分かった」


 子供は俺を見る。


 何かを待っているようにも見える。


 でも分からない。


「アル」


「何?」


「みた?」


 何を。


 聞き返す必要がある。


「何を見た?」


 これは安全にも意味にも必要な確認だと思った。


 子供は少し考えた。


「うごいたの」


 胸が小さく鳴る。


「古い表示板?」


 子供はその言葉が分からないらしい。


 首を傾げる。


「壁にある、小さい金属の板?」


「……いた?」


 違う。


 俺の説明が伝わっていない。


「ごめん。分からなかった」


 子供は鞄を握る。


「ちいさいの」


「小さいの?」


「うごいた」


「それを俺が見たかって聞いてる?」


 頷いた。


「見たよ」


 子供の肩が少し下がる。


「触ってない」


 俺から伝える。


「戻してもない。動いたままにしてる」


 子供が俺を見る。


「そのまま?」


「うん」


「……よかった」


 その言葉に、聞きたいことが一気に増えた。


 なぜ。


 何がよかった。


 表示板を知っているのか。


 動くことを知っていたのか。


 どうして俺が見たと分かった。


 でも、子供は続けた。


「もどさないで」


 俺は呼吸を一度整える。


「小さい動いたものを?」


 今度は確認する。


 子供は頷いた。


「分かった。今は戻さない」


 永久にとは言わない。


 絶対とも言わない。


「安全のために動かす必要が出たら、できるだけ先に説明する」


 子供は少し考える。


「いまは?」


「今は動かさない」


「うん」


 それで終わるかと思った。


 子供は肩の鞄を外した。


 両手で持つ。


 開けない。


「これ」


「うん」


「よばない」


「うん」


「もどる」


 身体の奥が冷たくなる。


 でも動かない。


「鞄の中のものについて話してる?」


子供は頷いた。


 初めてだった。


 今度はかなり明確だ。


「木のもの?」


 もう一度確認する。


 子供は鞄を開けた。


 木片を取り出す。


 表には「帰」「還」に相当する文字。


 裏には三重の四角と斜線。


 子供はそれを持って言った。


「これ」


「うん」


「よばない」


「うん」


「もどる」


「……これがあると戻る?」


 以前聞いた言葉を思い出しながら、できるだけ短く確認する。


 子供は少し迷った。


 それから首を横へ振った。


 違う。


 俺のまとめ方が違った。


「ごめん」


 すぐ引く。


「今のは違った」


「うん」


「じゃあ、俺から決めない」


 子供は木片を見る。


「これ、いる」


「うん」


「なくさない」


「うん」


「でも」


 小さな指が木片を握る。


「よばない」


「うん」


「よばれたら」


 言葉が止まる。


 呼吸が少し速くなる。


 俺は待つ。


「……もどる」


 意味を完成させたくなる。


 木片が呼ぶのではない。


 何かに呼ばれたら戻る。


 どこへ。


 何に。


 誰が。


 でも、そこまで本人は言っていない。


「今、呼ばれてる?」


 これは聞いた。


 今の安全に関係する。


 子供はすぐ首を横へ振った。


「じゃあ、今は戻らなくていい?」


 子供は頷いた。


「ここにいたい?」


「うん」


「分かった」


 それで止める。


 子供の呼吸が少しずつ落ち着く。


 木片を鞄へ戻す。


「アル」


「うん」


「うごいたの」


「うん」


「そのまま」


「今はそのままにする」


「うん」


 子供は満足したように小さく頷いた。


「もう部屋戻る?」


「うん」


「またね」


「また」


 子供は自分で扉を開けたまま室内へ戻る。


 職員も、本人が入っていいと頷いてから続いた。


 扉は閉まらなかった。


 俺はその場にしばらく立っていた。


 聞けたことは多い。


 でも、答えは少ない。


 木片については一つだけ、以前よりはっきりした。


 少なくとも本人は、今、木片そのものについて「よばない」と言った。


 そして。


『よばれたら、もどる』


 何に呼ばれるのかは分からない。


 戻る先も分からない。


 表示板との関係も分からない。


 それでも。


 子供は、動いた表示板らしきものを「そのまま」にしてほしいと言った。


 そこは記録できる。


「アル」


 後ろからガルムの声。


「聞いてた?」


「途中からは離れていた。職員から後で記録をもらう」


「それでいい」


「顔が怖いぞ」


「怖いよ」


「何が?」


「『呼ばれたら戻る』」


「そうだな」


「でも今は呼ばれてないって」


「ああ」


「ここにいたいって」


「ああ」


 ガルムが腕を組む。


「なら今日はそれを守る」


「うん」


「表示板も?」


「動かさない」


「調査は?」


「外から見るだけ。触らない」


「分かった」


「木片も」


「本人の物だ」


「うん」


 ガルムが少しだけ俺を見る。


「追わないのか」


「何を?」


「呼ぶもの」


 胸の奥が反応する。


「追いたい」


「だろうな」


「でも、今すぐ追わなくても安全確認はできてる」


「そうだ」


「なら先に記録整理」


「そうしろ」


「珍しく賢い?」


「今日は言わん」


「何で?」


「調子に乗る」


「ひどい」


 旧保養施設を出る前、表示板をもう一度だけ遠くから見た。


 三ミリ。


 動いたまま。


 戻さない。


 その小さな違いを残す。


 塔へ戻ったあと、エルと今日の発言を一つずつ整理した。


 木片を示して。


『これ』


『よばない』


『もどる』


 俺が「これがあると戻る?」とまとめた時は首を横へ振った。


 つまり、その解釈は採用しない。


 その後。


『これ、いる』


『なくさない』


『でも、よばない』


『よばれたら、もどる』


 今、呼ばれているかには首を横へ振った。


 今は戻らなくていいかには頷いた。


 ここにいたいかには頷いた。


「これだけ」


『はい』


「『呼ぶものが別にある』って書かない」


『はい』


「そう見えるけど」


『はい』


「『表示板が呼ぶ』とも」


『はい』


「『木片は帰還許可証』とも」


『はい』


「書きたくなるな」


『主様』


「分かってるよ」


 少し笑う。


 その夜、三〇八号室の少年へ今日の話を伝えた。


 本人が聞きたいと言ったからだ。


「木のやつ、自分で出した?」


「うん」


「『よばない』?」


「うん」


「『よばれたら、もどる』?」


「そう言った」


「何に?」


「分からない」


「どこに?」


「分からない」


「表示板?」


「分からない」


「何にも分かんない」


「そうなんだよ」


 少年は絵を広げる。


 箱の中の音を表す丸。


 蓋。


 二本の線。


「じゃあ、これも」


「何?」


「呼ぶ音じゃない」


「何で?」


「俺が決めるから」


「お前の絵ならそうだな」


 少年は箱を指す。


「これは呼ばない音」


「そんな音ある?」


「俺の絵にはある」


「便利だな」


「うん」


「じゃあ何する音?」


「ただ鳴る」


「……それもありか」


 少年は少し笑った。


「全部、何かするためじゃなくてもいい」


 俺は返事をするまで少し時間がかかった。


「そうだな」


 音が鳴ったから、誰かが呼んでいる。


 振動したから、誰かが返事をしている。


 道があるから、誰かが歩く。


 木片があるから、何かを開ける。


 表示板が動いたから、何かが始まった。


 そうとは限らない。


 ただ鳴っただけかもしれない。


 ただ動いただけかもしれない。


 意味があるとしても、俺たちが考えている意味ではないかもしれない。


「明日、薬どうする?」


 俺は聞かない。


 少年の方から薬の容器を見る。


「明日決める」


「了解」


「手紙も」


「明日?」


「読むかは明日」


「分かった」


「外は?」


「それも明日?」


「晴れてたら考える」


「雨なら?」


「水たまり」


「そっちは決まるの早いな」


「できるかもしれないから」


「雨が降ったらな」


「うん」


 少年は笑う。


 俺も笑った。


 塔へ戻った夜。


 旧保養施設では表示板を動かさず、呼び出し線へ刺激を与えず、地下設備にも何もしない観測が続いていた。


 名前の分からない子供は自分の部屋で眠る。


 木片は布鞄の中。


 扉は本人が閉めた。


 鍵はかけていない。


 旧職員詰所の表示板は三ミリ傾いたまま。


 俺は報告を聞いてから、温かい水を飲んだ。


「今日は言われる前」


「はい」


 セリーが答える。


「評価は?」


「継続してください」


「それだけ?」


「はい」


「もういい」


 杯を置く。


 自室へ向かおうとした時、エルが声をかけた。


『主様』


「緊急?」


『いいえ』


「何?」


『旧職員詰所の表示板について、変化があります』


 足を止める。


「動いた?」


『はい』


「どのくらい?」


『さらに約二ミリ』


「合計五ミリ?」


『初期位置からは、その程度です』


「打音は?」


『ありません』


「地下振動?」


『ありません』


「低い共鳴?」


『ありません』


「誰か触った?」


『いいえ』


「子供は?」


『睡眠中です』


「起きてない?」


『はい』


 何も鳴っていない。


 誰も触れていない。


 子供も眠っている。


 それでも表示板だけが、さらに動いた。


「戻さない」


『はい』


「今夜は何もしない」


『ガルム隊長も同意しています』


「写真と位置だけ」


『記録済みです』


 そこで終わるはずだった。


『ただし』


「何?」


『傾きが増したことで、隠れていた文字がもう一部見えるようになりました』


「読める?」


『まだ完全ではありません』


「何が増えた?」


『先ほどまで「戻」または「返」に近いと考えられていた文字の後ろに、別の一文字が存在します』


「そのまま候補を」


『「待」に近い文字です』


 俺は黙った。


 戻る。


 返す。


 待つ。


 並べれば意味を作れる。


 いくらでも。


「文章かどうかは?」


『不明です』


「二文字が連続してる?」


『間隔からは同じ表示欄に属する可能性が高いですが、一語か二語かは不明です』


「じゃあまだ読まない」


『はい』


「『戻って待て』にも、『返答待ち』にも、『復帰待機』にも、何にでもできる」


『その通りです』


「子供には明日の朝、こっちから言わない」


『はい』


「本人が表示板のことを聞いたら、動いたことは隠さない」


『はい』


「安全上の変化は?」


『ありません』


「なら寝る」


『承知しました』


 今度こそ自室へ入る。


 表示板は動いた。


 でも、誰かが呼んだとは限らない。


 文字が見えた。


 でも、帰還を意味するとは限らない。


 子供は「呼ばれたら戻る」と言った。


 でも、何に呼ばれるのかは言っていない。


 それぞれを別々に残す。


 つなげるのは、まだ早い。


 翌朝。


 俺が食堂へ入った時、セリーはすでに朝食を並べ始めていた。


 水を飲む。


 パンを取る。


 エルへ夜間報告を頼む。


「表示板は?」


『その後の移動はありません』


「打音?」


『なし』


「振動?」


『地下設備側で微弱振動一回。表示板の移動とは時間が離れています』


「低い共鳴?」


『なし』


「子供は?」


『起床しています』


「様子?」


『安定しています』


「木片?」


『布鞄内です』


「表示板について何か?」


『まだ伝えていません』


「本人からは?」


『ありません』


「じゃあそのまま」


 スープを飲む。


 少しして。


『主様』


「何?」


『名前の分からない子供から、自発発言です』


「そのまま」


『職員が朝食を運んだ際、本人が窓の外を見ながら言いました』


 俺は待つ。


『「きょうは、まだ」』


「何が?」


『職員は聞き返していません』


「それでいい」


『続いて、布鞄へ触れました』


 また木片か。


 そう考えかけて止める。


『そして、「まだ、もどらない」と発言しています』


 俺はスプーンを置いた。


「本人の様子は?」


『落ち着いています』


「誰か戻れって言った?」


『確認できていません』


「音?」


『その前後に特徴的な音なし』


「表示板の変化は本人知らない」


『はい』


「じゃあ、表示板が動いたから言ったともできない」


『はい』


「何に対して『まだ』なのかも」


『不明です』


「でも」


 一度息を吐く。


「本人は今、戻らないって言った」


『はい』


「そこはそのまま残す」


『はい』


「ここにいたいかは聞かなくていい。昨日聞いてるからって今日も同じとは限らないけど、今すぐ確認が必要な状況でもない」


『はい』


「もし本人が移動したいとか、戻りたいとか言ったら、その時聞く」


『承知しました』


 セリーが向かいから俺を見る。


「主様」


「何?」


「朝食を」


「食べてる」


「止まっております」


 自分の手を見る。


 確かに止まっていた。


 スプーンを持ち直す。


「食べる」


「はい」


 名前の分からない子供は言った。


『まだ、もどらない』


 それは答えに見える。


 でも、何への答えかは分からない。


 だから、その前に質問を勝手に置いてはいけない。


 誰かに呼ばれたのか。


 表示板が動いたからなのか。


 木片が何かを知らせたのか。


 帰還管理所へ戻る話なのか。


 旧保養施設のどこかへ戻る話なのか。


 王都なのか。


 別の場所なのか。


 何一つ分からない。


 それでも。


 今朝、この子は「まだ戻らない」と言った。


 その言葉だけなら、俺たちは守れる。


 どこかへ戻すための準備を始めない。


 木片を取り上げない。


 表示板を戻さない。


 扉を勝手に開けない。


 本人が次に何を言うかを待つ。


 それは、何もしないことではない。


 今できることをしながら、本人がまだ言っていない続きを、こちらで作らないことだった。

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