不気味な静寂
翌朝。野営地の空気は、出発時よりも重く沈んでいた。
焚き火の跡を片付けながら、天城が表情を曇らせて呟く。
「……とうとう、シルヴァンさんのところの隊員は来なかったね。あの人の隊にしては珍しいよ」
「ええ、そうね。シルヴァンさんに限って伝達ミスなんてあり得ないと思うんだけど……何かあったのかしら。心配だわ」
ヒュリアも頷くが、その瞳には隠しきれない焦燥が浮かんでいた。
一晩中、俺たちは交代で不寝番を立てて報告を待った。しかし、盗賊団の最新情報を運んでくるはずだった六番隊の姿は、ついに現れなかった。
「しょうがないわ。こっちの予定もあるし、予定通り進みましょう。道中で落ち合えるかもしれないしね」
ヒュリアの号令で出立したものの、天城も彼女も、拭いきれない不安を背負っているのが見て取れた。グレイロック峠までの残りの道中、昨日までの賑やかさは嘘のように消え去っていた。
任務が目前に迫り、団員たちの集中力が高まっているせいもあるだろう。だがそれ以上に、届くはずの報せが届かないという事実が、毒のように嫌な予感として隊全体に伝播していた。
目的地としていたポイントを目指し、一行は深い森へと足を踏み入れる。グレイロック峠まで、あと一息という距離。
ふと、最後尾にいた天城が足を止め、鼻先を動かした。
「ヒュリア……ちょっと、おかしくないかい?」
「……ええ、私も思っていたわ。街道からまだそれほど入ってないとはいえ、魔物どころか普通の動物にさえ一度も出くわさないなんて、普通じゃない」
その言葉に、後ろを歩いてた澄人が驚きの声を上げる。
「えっ、魔物が出るはずだったんですか!?」
「ああ。それなのに、気配一つしないってことが問題なんだよ。……なんだか、普通じゃない静けさだ」
ロイが厳しい表情で言葉を継ごうとした、その時だった。
ガサッ、と前方の茂みが激しく揺れた。
「全員、警戒!」
ヒュリアの声が飛ぶ。全員が即座に武器に手をかけ、緊張感が森を包む。
茂みから這い出してきたのは、泥と血にまみれ、ボロボロになった騎士団の制服を纏った男だった。
「大丈夫!? 何があったの? ……その雲の紋章、六番隊の隊員ね。誰か、まずは救護を!」
ヒュリアが駆け寄ろうとするが、男はそれを手で遮った。
「ヒュリア……隊長……天城隊長……。申し訳、ありません……。偵察中に、奴らに……っ。一人は、捕縛されてしまいました。私も追跡を振り切るのが精一杯で、昨晩は……」
天城が男の肩を支える。
「よく生き延びてくれた。大変だったね。……それで、もう一人の仲間は?」
隊員は苦渋に満ちた表情で首を振った。
「奴らの拠点の方向から、凄まじい轟音が聞こえました。恐らく……。こちらの動きも、完全に勘付かれています」
「なるほどね。それでこの不気味な静けさか。向こうはこっちの出方を知りながら、やる気満々ってわけだ」
天城が目を細め、警戒を鋭く研ぎ澄ませた。
その直後――空を切る、無数の「音」が俺たちの鼓膜を叩いた。
「敵襲! 矢の雨だ!! 各員、戦闘態勢!!」
ルイの絶叫が響き渡る。
見上げれば、木々の隙間から降り注ぐ無数の矢。
どうやら俺たちは、知らぬ間に既に盗賊団のテリトリーへと足を踏み入れていたようだ。
思いもかけないタイミングで、俺たちの初任務は、血生臭い実戦へと突入する。
届かなかった報告。そして、沈黙する森。
ついに盗賊団の先制攻撃が始まり、一番隊は混乱の渦に叩き込まれます。
もはや「練習」ではなく、一歩間違えれば命を落とす「実戦」の幕開け。
降り注ぐ矢の雨の中、渚たちは修行の成果を出し切ることができるのでしょうか。
そして、捕縛された隊員の運命は……。
次回、第29話は 4/26(日) 20:10 更新予定です。
ついに始まった初陣!
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