表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/29

グレイロック峠の影

翌朝。朝露に濡れた聖騎士団の正門前には、ヒュリア率いる一番隊の精鋭たちと、俺たち三人の姿があった。

 

「さあ、行くわよ! 目指すはグレイロック峠。道中は長いけど、気を引き締めていきましょう!」

 

ヒュリアの快活な号令が響く。一番隊の隊員に俺たちを加え、総勢三十名余り。徒歩で二日はかかる長旅だ。最後尾には、相変わらず眠たげな目を擦りながら、けれど鋭い視線を周囲に走らせている天城が控えている。

 

歩を進める中、隊列のあちこちで会話の花が咲く。俺たちのすぐ隣では、澄人がロイとルイの二人に挟まれていた。

 

「あの……昨日言っていた『ヒュリアさんの舎弟』っていうのは、具体的にどういう……?」

 

澄人がおずおずと尋ねると、ロイがニカッと笑って胸を叩いた。

 

「おう! それは俺たちがお嬢に心から忠誠を誓ってる証よ。お嬢の信頼は絶対に裏切れねえっていう自分たちへの戒めでもあるな。まあ、勝手に名乗ってるだけなんだけどよ!」

 

「なんだなんだ? 澄人、お前もなりてえのか?」

 

ルイにニヤニヤと詰め寄られ、澄人は顔を真っ赤にして視線を泳がせた。

「そ、その、ヒュリアさんはその、なんて言うか……」

 

「ハハハハ! お前あれか! お嬢のことが……ははーん、分かりやすい奴だな!」

 

ロイとルイの爆笑に、澄人はますます縮こまる。

「でもな、澄人。舎弟ってのは浮ついた感情じゃねえ。忠誠と信頼だ。それが揃ったら、俺たちが認めてやるよ」

 

意外にも真面目な顔で言われ、澄人は小さく、けれどしっかりと頷いた。

 

一方、俺と結衣はヒュリアと共に歩いていた。

「ヒュリアちゃん、一番隊の人たちって、みんな仲が良いんだね」

 

結衣が少し羨ましそうに言うと、ヒュリアは誇らしげに笑った。

 

「ええ。私たちは家族みたいなものよ。今回は特命で参加して貰ってるけど、渚たちが入ってくれて、いつもより賑やかになって嬉しいわ」

 

「俺たちこそ、こんな風に受け入れてもらえて感謝してます。……でも、さっきから他の隊員さんたちの視線がちょっと痛いような……」

 

俺が苦笑いしながら言うと、ヒュリアは不思議そうに首を傾げた。

「あら、そう? 多分、可愛い女の子二人と普通に話してる渚に嫉妬してるだけじゃないかしら」

 

「ちょ、ヒュリアちゃん、変なこと言わないでよ!」

 

結衣が慌てて否定するが、確かに、周りの男性隊員たちの視線には「羨ましい」という感情が隠しきれていない。

 

(……確かにそうかもな)

 

ヒュリアの言葉に、俺は少し複雑な気分になった。

つい数ヶ月前まで、教室の隅で誰とも話さず、ただ静かに過ごしていたような自分が、今ではこうして眩しいほどの美少女二人と肩を並べて歩き、普通に会話をしている。

その事実が、どこか現実味のない、不思議な感覚として胸に残っていた。

 

そんな穏やかな行軍が続き、日が傾き始めた頃。

「今日はこの辺りで休みましょう。みんな頑張ったわね! 予定より早く到着できそうよ」

 

ヒュリアが指示を飛ばす。

「シルヴァン隊長によると、この後、先行している六番隊のメンバーから最新の偵察情報をもらうことになってるわ。野営の準備をしつつ、報告を待ちましょう」

 

■ グレイロック峠・盗賊団拠点

 

その頃、切り立った岩壁に囲まれた窪地に、血の匂いが漂っていた。

 

「お頭! 俺たちを監視してたネズミがいたんで、捕まえてきましたよ。こいつ、どうしやしょう?」

 

数人の盗賊に引きずられ、ボコボコにされた男が地面に投げ出された。

男の着ている服は汚れ、血に染まっているが、丈夫な生地と特徴的な裁断がなされていた。

 

玉座に腰掛けていた頭領が、面倒そうに視線を落とする。

「あ? 誰だそいつ。今日襲った村の人間かなんかか?」

 

頭領は重い足取りで男に歩み寄り、足蹴にするように転がした。

 

「お頭、この装束……。おそらくエクシア聖騎士団の人間ですよ。六番隊の斥候かと」

 

側近の男が服の意匠を確認し、鋭く指摘する。

すると、頭領は口端を吊り上げて低く笑った。

 

「聖騎士団ねぇ。ソルディアとバチバチやり合ってるってのにご苦労なこった。俺たちなんかに構ってていいのかよ、ええ?」

 

「お、俺たちの本分は……エクシアの治安維持だ……っ。お前らみたいな下賤な奴らの取り締まりにある……すぐにでも、お前らを壊滅させてやる……!」

 

息も絶え絶えに、だが折れない意志で男が言い返す。

 

「どうします、お頭? 情報は流れてるでしょうし、また拠点を移しますか?」

 

側近の問いに対し、頭領は男の首根っこを掴み上げた。

 

「……面白いじゃねえか。せっかく聖騎士団様が遊びに来るんだ。歓迎してやろうじゃねえか」

 

頭領の周りに青白い魔力がバチバチと弾け始める。

次の瞬間、凄まじい轟音と共に、男の体に激しい電撃が走り抜けた。

 

「――が、あぁぁぁぁっ!!」

 

短い絶叫の後、そこには黒焦げになった死体だけが残された。

頭領はそれをゴミでも捨てるように放り出すと、隣に立つ側近へ淡々と言い放った。

 

「全員に通達しろ。……お客様が遊びに来る。VIP待遇でもてなしてやれ」

 

悪意に満ちた命令が、静かに、けれど確実に末端の賊へと伝わっていく。

何も知らずに北上を続ける渚たち一行。

グレイロック峠の行く末は、今まさに、血塗られた混沌へと向かおうとしていた。

いよいよ初任務の舞台、グレイロック峠へと近づく渚たち。

ロイやルイ、そしてヒュリアとの絆が深まる一方で、現地の状況は既に最悪の展開を迎えていました。


無慈悲な電撃を操る盗賊団の頭領。

待ち構える「VIP待遇」とは一体……?

修行で得た新たな力が、ついに試される時が来ました。


次回、第28話は 4/19(日) 20:10 更新予定です。


平和な道中からの不穏なラスト、楽しんでいただけましたか?

「舎弟志望の澄人が可愛いw」「盗賊の頭領、強そうだけど早く渚にボコられてほしい!」と思った方は、ぜひブックマークや**評価(★★★★★)**で応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ