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非選良の意地

不自然すぎるほどの静寂から一変、空気は殺意を帯びた鉄の礫――無数の矢によって埋め尽くされた。視界を覆う絶望的な数の矢が、放物線を描いて俺たちの頭上に迫る。

 

だが、その中心で天城は欠伸でもしそうなほど平然と口を開いた。

「澄人! いけるか?」

 

「い、いきなりですか!? ミスったらすみませーん!」

 

叫びながらも、澄人の動きに迷いはなかった。あらかじめストックしていた膨大な魔力の一部を解き放つ。

 

不火ふねん――『紅蓮万鳥ぐれんばんちょう』!」

 

澄人が矢の雨に向かって勢いよく手をかざすと、解放された魔力が瞬時に形を成し、空を埋め尽くさんばかりの火の鳥の群れが爆発的な加速で舞い上がった。

それはただの炎の塊ではない。澄人の精密な操作によって一羽一羽が自律した意志を持つかのように、迫り来る矢を空中で迎え撃つ。チチッ、と鋭い鳴き声のような破裂音を上げながら、紅い群れが矢を次々と叩き落とし、森の空を熱気で染め上げた。

 

「やるじゃねえか兄弟!」

 

ロイが感嘆の声を上げる。しかし、師匠の採点は相変わらず辛口だった。

 

「だけど、80点」

 

天城の手がポケットから出されることもなく、彼から放たれた数条の氷のつぶてが、澄人の網を抜けた数本の矢を粉砕した。「惜しい、打ち残しだ」

 

「天城さん厳しすぎっす……! それに今のだけでストックの半分以上使っちゃいましたよー!」

 

澄人が額の汗を拭いながら悲鳴をあげるが、ヒュリアがその肩を叩いて明るく笑った。

「あはは! お疲れ様、グッジョブよ澄人。あとは私たちに任せて!」

 

「クソっ! 奇襲に乗じて崩壊させる予定だったってのに無傷かよ!」

 

茂みの奥から、下品な罵声と共に盗賊たちがぞろぞろと姿を現した。その数、およそ五十。

「今のあれ、あのガキも頭領みたいなスキル持ちか? ……まあいい、野郎共かかれ! 数の暴力で叩き潰せ!」

 

怒号と共に、大勢の盗賊たちが武器を振り回して襲いかかってくる。

「弟分にあんな活躍見せられたんだ、やるしかねえよな、ルイ!?」

「当たり前だロイ! 先陣は譲らねえ!」

 

ロイとルイを先頭に、一番隊が迎撃を開始した。

二人の動きは圧巻だった。特殊なエフェクトは何一つない。だが、踏み込みの一歩で地面が爆ぜ、振るわれる剣は風を切り裂く轟音を鳴らす。

ロイが正面の三人を一閃でなぎ払い、その隙間を縫うようにルイが跳躍、後続の喉元を正確に貫く。賊の放つ無軌道なスイングを、最小限の動きで紙一重でかわし、カウンターを叩き込む。純粋な技術と、長年の鍛錬によって研ぎ澄まされた身体能力。その二つだけで、彼らは数十人の賊を一方的に蹂躙していく。

 

「ギャアアッ!」「な、なんだこいつら、化け物か!?」

 

戦場に賊たちの悲鳴が響き渡る中、結衣は短時間の透明化を織り交ぜながら、ヒュリア直伝の鋭い刀術で確実に敵の急所を突いていく。俺も負けじと、水鏡を盾ではなく薄く鋭い「矢」のように平面的に飛ばし、団員の死角から迫る賊を弾き飛ばしてサポートに徹した。

 

ふと、ロイたちの戦いぶりに目を奪われ、俺は隣で冷静に戦況を見つめ、的確な指示を飛ばしているヒュリアに問いかけた。

「ヒュリアさん。ロイさんとルイさん、凄いですね……。あれでスキルを使ってないみたいですけど、本気でスキルも使ったらどれだけ凄いことになるんですか!」

 

驚きと尊敬を込めた俺の言葉に、ヒュリアは少し意外そうな表情で微笑んだ。

「……あれ? 言ってなかったっけ。あの二人は、スキルを持ってないわよ。魔力操作で身体能力を底上げしてるくらいね」

 

「えっ……?」

 

「驚くかもしれないけど、この世界のほとんどの人はスキルなんて持ってないわ。うちの団員でも、スキル持ちは隊長クラスや一部の限られた人たちだけ。だから、あなたたち三人は、この世界では結構な希少種なのよ?」

 

その言葉に、俺は脳を直接揺さぶられるような衝撃を受けた。

(そうだったのか……。だから、ソルディア王国は俺たちを『追放』ではなく『処刑』しようとしたんだ)

 

合点がいった。他国に流出すれば戦略的な痛手になる希少な「スキル持ち」を、自分たちが使えないからといって野に放つはずがない。殺してでも独占する――それが王国の、そしてこの世界の非情な論理だったのだ。

 

「だけど、私たちは日々の訓練を経て、こうして他に負けない力を付けてるの」

 

指揮を執るヒュリアの背中は、どんなスキルよりも頼もしく、誇り高く見えた。

 

気づいた頃には、あれほどいた盗賊団の大半が地に伏していた。

「お嬢! 大方片付きましたよ!」

 

返り血を拭いながら、ロイが快活に声をかける。

「このまま一気に、奴らのアジトまで制圧しちゃいましょう!」

 

不意にこの世界の「強さ」の本質が紐解かれ、俺たちは憧れと新たな覚悟を胸に、盗賊団の拠点へと足を進めた。

初陣の第一戦、圧倒的な勝利!

澄人の「紅蓮万鳥」が空を焼き、一番隊の面々が圧倒的な実力差を見せつけます。


そして明かされた、「スキルの希少性」という真実。

王国が自分たちを消そうとした本当の理由、そしてスキルがなくとも最強を誇るロイたちの姿。

渚たちは自分たちが授かった力の重みと、歩むべき道を再確認します。


次回、第30話は 5/10(日) 20:10 更新予定です。


「澄人がかっこよすぎる!」「スキルなしでこれだけ強いロイたちにシビれる!」と思った方は、ぜひブックマークや**評価(★★★★★)**で応援いただけると、執筆の励みになります!

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