凶星の黎明
「紹介はこの程度にしましょう。皆様、彼らと仲良くしてあげてくださいね」
ヴォルガが事も無げに言ったその言葉を、中将オルロック・フォン・レオンハルトが鼻で笑い飛ばした。
「ふん、下賎な民どもと馴れ合うつもりなどないわ。さてヴォルガよ、私をこんな場所に呼び出したのだ。こんな下らぬ顔合わせ(ようけん)だけではあるまいな?」
「稀な恩寵を授かった貴族だか知らないけれど、立場をわきまえるネ。貴方、私の『下』ネ」
大将、劉鳳金が扇子で口元を隠しながら、冷徹な視線をオルロックへ向ける。
「……だけど、貴方の意見には同感ネ。さっさと本題に入るネ」
ヴォルガは呆れたように肩をすくめ、手元の資料を広げた。
「分かりました。皆様ご存知の通り、エクシア共和国を筆頭とした連合軍によって、我々は少なからず打撃を受けています」
「打撃って、仕掛けてんのはこっちだろーがよ」
大将モーガンが、ふんぞり返ったまま嘲笑する。その言葉に、大伴は内心で眉をひそめた。
(侵略されてるって、言ってなかったか……?)
ヴォルガが話を戻す。
「そして、それらは忌々しき『ディザスター』によるところが大きい。そこで今回は、複数箇所へ同時に進攻することにしました。いくらディザスターとはいえ奴は一人。複数箇所を同時に相手取ることなど不可能です」
「ふん、そんなまどろっこしい真似をせずとも、正面から当たれば私が葬ってくれるわ」
元帥ヴァルガスが地響きのような声で断じた。だが、ヴォルガは首を振る。
「元帥の勝利を疑ってはおりませんが、まだ奴を刈り取る段階ではありません。正面からやり合えば我が軍も壊滅的な被害を受けるでしょう。それに奴らには、獣人会やエルフ、他にも目障りな小国がついています。まずは奴らの総力を削るのです」
「……国王陛下のご意向なのであれば、従おう」
ヴァルガスが渋々ながらも矛を収めると、モーガンが下卑た笑みを浮かべた。
「エルフかー。ちょうど補充したいとこだったんだ。俺に行かせろよ」
その様子を見ていた少将、今際玲奈が兄の勇の腕に顔を埋め、嫌悪感を露わにする。
「おにい……やっぱあいつ、キモい」
「なんだって? お前もぶっ壊れるまで犯してやろうか、ガキが」
モーガンの瞳に冷酷な光が宿り、銀色の魔力が鋭く膨れ上がる。
「モーガンさん。それ以上は冗談じゃ済みませんよ」
勇の周囲で灼熱の魔力が暴走を始め、空気がチリチリと焼け付く。
「ああ、やってやるよ。ディザスターの前にお前から血祭りだ!」
両者の魔力が激突せんとしたその瞬間。
鋭い金属音と共に、赤黒い鎖が二人を強引に拘束した。
「はー、やだやだ。変態成金と変態兄妹はちょっと黙ってなさいよ」
少将エルザが、不快そうに鎖の端を指で弄ぶ。
混沌とした空気が流れる中、ヴォルガが再び口を開いた。
「ありがとうございます、エルザさん。話を戻しましょう。今回の作戦に参加いただくメンバーは既に決めております」
ヴォルガが名を読み上げる。
「劉さん、ザハークさん、勇さん、レナさん。3ー1小隊から日ノ出さん、大伴さん、家持さん。それと、この場にはいませんが今回は聖女の時雨さんにも出て貰います」
(……こんなバケモンみたいなのと共闘って、やばすぎだろ……!)
家持が顔を引きつらせる中、日ノ出恒一は不敵な笑みを浮かべて鼻で笑った。
「早速俺たちにも出番か。十希星だか知らねーけど、選ばれない補欠どもには力が足りねーってか?」
その言葉に、選ばれなかった将校たちから最大級の魔力の濁流が押し寄せる。空気が物理的な重さを伴って恒一たちを圧迫した。
「今回の作戦に見合った人選をしたまでです」
ヴォルガがいさめるように場を制した。
「さて、幸い盗賊崩れが暴れ回っているという噂もありますし、じっくり準備を重ねて当たるとしましょう。作戦に当たる方々は詳細を説明いたしますので、お残りください。では、解散としましょう」
希星の間の重い扉が閉まる。
ソルディア王国の「希望」たちが動き出す。
それは同時に、世界を飲み込む「凶星」が、その禍々しい輝きを放ち始める合図でもあった。
ついに「十希星」の精鋭と、日ノ出たちが動き出します。
足並みの揃わない怪物たちの集団。しかし、その圧倒的な武力は確実に隣国を、そして渚たちのいる地を脅かそうとしています。
「侵略されている」という嘘に気づき始めた大伴。
そして選抜メンバーに入った時雨桜花。
それぞれの想いが交錯する中、物語は激動の戦乱へと突入します!
次回、第26話は 4/5(日) 20:10 更新予定です。
王国側の狂気、楽しんでいただけていますか?
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