14羽目:脊椎抜きは素早く丁寧に
ただ、スキル名を叫ぶ人もいれば、バンビーくんのように挑発しながらスキルを使う人もいた。他の人の訓練が終わり、ついにうちの番が回ってきた。名前を呼ばれ、前へと進み出る。すると視界の隅にシステムメッセージが浮かび上がった。
《スキル【挑発】獲得》
【挑発】アクティブ
獲得条件:指定講習の受講
効果:使用時、指定範囲内の敵に対して挑発を行い、一定時間ヘイトを自身へ集中させる。効果時間中、対象の敵は他プレイヤーへの敵対行動が減少する。
へぇ、こうやってスキルが手に入るんだ。うちっぽいスタイルで使ってみたいな。罵倒は……思いつかないけど、おちょくる感じならいける?
よし、やるぞ!
「べろべろばー! 【挑発】!」
自分なりに勢いよく煽りながらスキルを発動すると、スライムが闘牛マークを表示し、一直線に突進してくる。腰を落として構え、衝撃を受け止める瞬間に盾を少し後ろへ引き、勢いを吸収するように受け止めた。そして、前へ押し出し、距離を確保。すると、先ほどまで必死に追ってきたスライムが、嘘のように大人しくなり、草むらをぽよんぽよんと跳ね回り始めた。
他の人の時もチラッと見えてはいたがもしかして……と思ったけど近くで見られたからアレが確信に変わった。訓練は全員無事に終わったが、気になっていたことを聞いてみる。確証はないけれど、試してみる価値はあるかもしれない。
「さぁ、これで講習終了だ。みんなよく頑張った。騎士団訓練場では、いつでも訓練できるから積極的に活用するといい。では、解散!」
ガルさんの号令とともに、ぞろぞろと皆が帰っていく。そんな中、みぃにサッと終了したよと連絡を送り、ガルさんへ質問を投げかける。
「ガルさん、スライムについて質問があります! さっき魔法でコアを破壊する必要があるって話してたよね? 正面から行くとコアを安全な位置に移動させてしまうって。講習していて、スライムは自分の目から遠い位置が安全だと思ってコアを移動させているのかなって。ほぼ一定で下後方に移動していたからそこを狙えば物理でもコアを破壊できるかも?」
ガルさんは少し驚いた様子で腕を組み、考え込む。
「なるほど、そういう発想はなかった。コアの位置か……物理攻撃で稀に倒されることもあると資料を読んだことがあったが。属性などによるコアへの付属ダメージのものかとばかり……攻撃がたまたまコアに当たってという可能性もあるな」
「試してみてもいいですか?」
「面白い着眼点だ。オレも気になる、アシストしよう」
ガルさんの許可が下りた! みぃも裏庭に出てきたが、何かを察したのか、少し距離をとって静かに見守っているようだった。
鞘に短剣をしまい、盾だけを握りしめる。ガルさんが不思議そうに首を傾げつつ、後方で盾を構えたのを確認してスキルを発動する。
「やーい! べろべろばー! 【挑発】!」
闘牛マークが表示され、スライムが一直線に向かってくる。当たる寸前に盾を後ろへ引き、衝撃を吸収しながら斜め上へ弾き飛ばす――今だ!
スライムの真下に素早く右手を突っ込むと液体とは違う固まりのような感触が手に伝わった。そして、そのままコアを一気に引き抜く!
コアを失ったスライムは体を維持できず、水しぶきのように赤いポリゴンとなって散っていった。
脊椎抜きならぬ、コア抜き、成功。
「できたー!」
振り返ると、ガルさん、みぃ、バンビーくんの三人が、口をぽかんと開けたまま固まっていた。いやー、まさか本当にできるとは思っていなかったなぁ? それに、スライムの中ってぷよぷよしていて、なんか気持ちよかった。
次の瞬間、ガルさんが焦ったように駆け寄ってきた。
「お、おい! 手は大丈夫か?! スライムは取り込んだ物を溶かす性質があるんだぞ?!」
えぇ? 慌ててステータスを確認するが、HPには変化なし。しかし、手袋の耐久値を見てみると98/100になっていた。
「あー、装備の耐久は減っているけど、HPは変わってないから大丈夫だね。素早く抜けば問題ないかと! でも、うち【集中回復】持ってるからきっと素手でもいけるんじゃないかな?」
ガルさんは頭を抱えながら天を仰ぎ、みぃは眉間に手を当てて溜息をつく。バンビーくんは……未だに口を開けたまま、動けずにいる。うち、そんなに変な発言した?
「いや、そういうことじゃないんだが……えぇ?」
「まぁまぁ。細かいことは気にしない! ガルさん、今度は素手でやってみてもいい?」
「【集中回復】を持っていても痛いものは痛いと思うんだが……まぁ、止めてもやりそうだし、やってみるといい……」
ガルさんはすでに諦めモード。だって、装備は壊れるけど、素手なら回復すればいいだけだしね?
装備欄のグローブを外して、さきほどと同じようにあっかんべーをしながら【挑発】スキルを発動する。今度は直接右手を突っ込む。
水風船のように、ひんやりとした冷たい感覚――その直後、まるでドライアイスに触れたかのようなヒリヒリとした火傷のような刺激が走るが、そのまま勢いよくコアを掴み一気に引き抜く。
コア抜き、二回目成功!
ちょっとヒリヒリするけど、これくらいなら我慢できる。HPもちょっとだけ減ってたけど、すぐ回復できそうな感じだった。
「うそだろ……マジでやりやがった……手、大丈夫なのか?」
「見ての通り問題なし! もうHPも回復してるし!」
目の前に手を掲げ、グーパーして見せる。
「しかし、まさか本当にこんな方法が成功するとは……オレも試してみよう……」
そう言うと、ガルさんも【挑発】スキルを発動し、同じように下から右手をスライムの体内に突っ込み、コアを引き抜く。そして、スライムはポリゴンのように散って消えていった。
「ぼ、ボクもやってみたいです!」
お、バンビーくんもやる気だ!
緊張しつつも挑戦し、見事成功。……まあ、二人ともちゃんと手袋をつけていたけどね。
「こ、これはすごい発見かもしれないぞ……! ルーイ、この方法をモンスター研究所に報告してもいいか? もちろん、君が嫌でなければだが」
突然の大事になりすぎて、どうしたらいいのか分からず、ついみぃに目で助けを求める。
「はぁ……いきなりやらかすわねぇ……。でも、とりあえず同意してもいいんじゃないかしら? この発見で戦い方に幅が出るのは確実だし、もし名前が広まるのが嫌なら設定で変更できるわよ? 今ここにいる人たち以外には知られずに済むし」
「じゃあ、設定はあとで変えるとして……報告はOKです! あと、バンビーくん。うちの名前は内緒にしてくれると嬉しいな」
「も、もちろん! 掲示板や聖人様の動画で、新発見が話題になると荒れることもありますし、せっかくできたフレンドが大変な思いをするのは嫌です……発表された後も本人の名前は黙っておくつもりです」
「ありがとう! 助かるよ!」
でも、ひょんな発想が意外な結果を生み出すこともあるんだなぁ。さすが、叶わない創造はないって謳っているだけはあるね!
ガルさん:「(痛くないのか・・・?)」
指をスライムに突っ込むガルさん。
ガルさん:「イッタァ?!!」




