96羽目:優しすぎる盾
アイギスさんからの一言に、うちは思わず固まった。
えっ……試験、まだ始まってないよね? 「非常にまずい」ってどういうこと……まさか、開始前から不合格?
「な……何と……アイギス様、それは……! 不合っ――」
門番の青年も驚きのあまり言葉を失っている。
今、不合格って言いかけた!?
鳥もふ禁止が延長されてしまう!
さ、再試は……ある? そもそも再試って言うのこれ? って、違う! うちの鳥もふが……っ!
「落ち着け、お主ら。妾は悪い意味で言ったのではない。ルーイ――お主は清浄すぎる。ピュアすぎるのじゃ」
巨大な盾。その女性の顔が淡い光に照らされる。その声にはどこか懐かしさが滲んでいた。
「聖騎士には必要な資質でもある。しかし……お主のそれは強大すぎるのじゃ。すべてを抱え込み、守り切ろうとして己を壊しかねん。……まるで、妾のかつての主様のようにな」
すべてを抱え込むか……。聖子ちゃんの『人に頼ることを覚えろ』という言葉を思い出した。迷惑をかけるのが怖い。呆れて離れていくんじゃないかって思うと、どうしたらいいのかわからなくなる。
「アイギスさんは、その人のこと……大好きだったんだね。どんな方だったの……?」
「……ルーイが触れた瞬間、主様の温かい手を思い出したのじゃ。大きくて、優しくて、毎晩妾の話を聞きながらその手で盾を磨いてくれた。あのお方はただの道具である妾さえ守り、すべてを封じて世界をお救いになられた。もう……数百年も前の話じゃがな」
まるで昨日のことのように語るその声に、胸がぎゅっとする。うちも大切な人のことを語るとき、こんな声になるのかな。
「だからこそ、お主はパラディンとしてまずいのじゃ……妾は――主様のような者を、もう見たくないのじゃ。守れなかったからの……盾として、主様を」
それは後悔というよりも、叶えられなかった約束――願いを憂うように聞こえた。
「妾は今度こそ、主様に託された想いを守ると決めた。ルーイ、お主は守れるじゃろう。だが――守られる覚悟はあるかの?」
守られる……覚悟? うちは前衛で、盾役で……守るのが役目。守られるのは、役に立っていない証拠なんじゃないのか。ギルドのみんなとダンジョンで戦ったときに、うちはタンクとして役に立っているか不安だった。スキルの範囲についてもやっと理解できたくらいだし、みんなはうちと遊んでいて楽しいと思うのかな。
その瞬間、みぃの姿がふっと浮かんだ。
みぃはよく「サポートしかできない」と言っていた。でも、みんなが戦いやすいように支えるのは簡単じゃない。周りを見て、冷静に判断できる彼女だからこそできることだ。
突っ走るだけのうちには、到底真似できない。
でも――それぞれ役割があって、助け合うのが楽しい。神父さんの言葉がよぎった。
『仲間を信じて最後まで立ち続けるだけくま』
師匠の言葉の重みが、胸の底へゆっくり沈む。ゲームも、リアルも同じだ。全てを一人で抱え込むことが守ることじゃない。誰かが守ってくれると信じられるから、前に立てるんだ。
「……うちには守りたい人がいる。そして、その人もうちを守りたいって思ってくれてる。背中を任せられる人がいるから、前を守れる」
息を吸って、真正面からアイギスさんを見た。
「うちがみんなの前を守る。後ろはみんなに守ってもらう。そして想いを力に変える――パラディンになりたい」
照明クリスタルがふわりと輝き、影がやわらかく揺れる。盾に装飾された顔が優しく微笑んでいるように見えた。
「……ならば、授けよう」
すると、頭上からシャワーのように光の粒子が降り注いだ。一瞬、空気が静かになり、ピコン――と音を立てて、視界にシステムパネルが浮かび上がった。
《スキル【守護者の鎖】を獲得しました》
「その加護は、本来は四人まで繋げてダメージを肩代わりできるが――今のお主は一人までじゃ。この試練を乗り越えた暁に、本来の力が開花するじゃろう」
「アイギスさん、ありがとう。……うち、頑張るよ」
その言葉に応えるように、盾面の光がやわらかく反射した。
♦
部屋を出ると、入口でユナさんが心配そうに地面に目を伏せ、セレナさんが手を組んで待っていた。
「だ、大丈夫で、でしたか」
「ルーイなら問題ねェだろ。……それよりユナ。お前、祈る必要あンのに視線でビビってどーすンだよ」
「それなんですよ、お師匠さまぁ……」
ユナさんは今にも泣きそうな顔でセレナさんを見上げ、うちの視線に気づくと、ぴゃっとうなだれて隠れてしまった。また、おどおどに戻っちゃった。さっきは、甘い物で気が紛れていただけなのだろうか。目線が気にならない装備とかあれば、気持ちも楽になるかな。
着ぐるみとか? でも、重いから動きづらいよね。もっと軽くて、視界を確保したまま、祈りが唱えられるやつがあれば。
「チワーッス、商人ギルドからの配達ですー」
「あァ、あんがとよ。そこに置いといてくれ」
配達員さんが運んでいる小さめの木箱が目に入る。
――ひらめいた!
「セレナさん! それ、使っていい?」
「ん? 捨てちまうだけだからいいけどよ……また、よくわからんことしようとしてンだろ」
「ふふふ、いい物になるかもよ!」
側面にナイフを刺して、二つ穴をあけて……ヤスリがないから、刃先で軽く擦る。でも、これだけじゃ味気ないなぁ。そうだ、女の子らしく、角の方にワンポイントでリボンをつけておこう。よし、こんなもんかな。
「ユナさん、目つぶってもらっていい?」
「え、は、はい……?」
今できあがった物をスポっと彼女の頭に被せる。
「じゃじゃーん、木箱の被り物(女の子ver.)の完成!」
「はっ……! こ、これ……視線が怖くない! ルーイさん、天才です!! お師匠様、これなら祈れます!」
「いや……めっちゃ目線集めンだろ?! くっ、ぶふっ」
ユナさんがぱあっと顔を明るくし、セレナさんは頭を抱えていたが、堪えきれずに笑いが漏れていた。木箱で表情は見えないけど、空気だけで明るくなったのが分かる。これで、見られる怖さも少しだけ遠ざけられたかな。
「ンン。まぁ、これで祈れるならいいか。さて、あとは巡礼地の近くまでポータルで飛ばすだけなンだが。ルーイ、準備がいるだろ。必要なもン用意したらまた声かけてくれ」
気を取り直したセレナさんがそう告げると、ピコンとまた音がして視界にパネルが表示された。
《転職クエスト:パラディン転職試験を受注しました》
《注意:パラディン転職試験中は他の転職クエストを受注できません。》
《試験を途中で破棄すると加護も消失します。》
これで、試験の受注は完了。今日はこんなところかな。
「うん、わかった! ちょっと用意してくるね!」
でも、護衛試験って何を準備すればいいんだろう。
とりあえず――お守りの羽毛は絶対必須だよね。
明日のお昼あたりに短めのやつ投下します!




