94羽目:招待状を手に入れた
騎士団ギルドに足を踏み入れると、ホールは冒険者たちで活気づいていた。受付では、眼鏡をかけたマリーさんがテキパキと冒険者を相手しながら、周りにも指示を出している。
受付に並んでいると、前にいるPTの会話が耳に入った。
「この間、NPC救出クエ失敗しちゃってさ」
「うげ、まじか。ポリったらクエごと消えるし、信頼は落ちるわでメリット少ないのによくやろうと思ったな……」
「報酬に目がくらんでさー……」
「あー、NPC系ってそれがうま味だよなぁ……つっても、難易度にバラつきあるし、黒炎もあんまNPC系の攻略進んでないっぽいぜ。俺たちじゃ余計に無理だろ」
「だよなぁ。まじでめんどくせー」
ほぇぇ、クエストって失敗したら信頼が落ちちゃうのか。せっかく仲良くなった人たちをガッカリさせたくないし、気を付けないとなぁ。あ、前の人たち終わった。
「マリーさん、お久しぶり! にぎわってるねぇ。眼鏡の調子はどう?」
「ルーイ様、みぃ様お久しぶりです。おかげさまで仕事が円滑に進みました。お休みも取れる目処が出てきたので、近々帰省しようかと思ってます。本当にお二人には感謝しかありません」
「よかったー! グラウスさんも、マリーさんの可愛い笑顔見たがってると思う! そういえば、今さら気が付いたんだけど……マリーさんの目って綺麗なオレンジ色なんだね」
少し赤みがかったオレンジがまるで朝焼けみたい。じっと彼女の瞳を見ていたら、何故かマリーさんの顔がそれ以上に赤くなって、恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。さすがに、ずっと見てたら失礼だったかな。
「かわっ、きれ……あ、ありがとうございます……。亡くなった両親が、マリーギクと同じ色だから、名前もマリーにしたとおじい様が言ってました……」
へぇ、マリーギク。眼鏡の素材集めのときに、森の中で見かけたなぁ。見た目はリアルにあるマリーゴールドそのものだった。ゲーム内にも、リアルと同じ花が咲いてるのが珍しくて《森識鑑定鏡》で確認したんだよね。その説明で見た花言葉には、たしか『生命の輝き』って書かれてた。
亡くなったご両親も、マリーさんが生まれた時にすごく輝いて見えたんだろうなぁ。
「そうなんだ。名前も瞳と同じくらい素敵だね」
「ぁぅ……ぁりがとうございますっ。えっと……本日はご依頼を受けにこられたのでしょうか?」
「あ、仕事の邪魔しちゃってごめん! 今日はパラディンに転職しようと思ってきたんだ。この紋章を見せればいいのかな?」
インベントリから洞窟で使った許可書を取り出して見せると、マリーさんは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにプロの対応に戻った。
「では、こちらの書類にご記入と、推薦状を預からせていただきます。あとは教会での試験が終わり次第こちらにお申し出ください。その際、新しい職業を記載したギルドカードと古いものを交換致しますので」
渡された書類を読むと、色々な注意事項が書かれていた。こういうところはすごく市役所っぽいなぁ。でも、受付は騎士団なのに試験が教会って不思議だね。
「マリーさん、パラディンってなんで騎士団ギルドじゃなくて教会なの?」
「パラディンは肉体スキルだけでなく、神聖スキルがあるため、教会が管轄することになっております。騎士団ギルドでは神々の力を確認することができないので、書類の管理のみこちらで行う形になっています」
「なるほどねぇ。何か説明聞いたら余計に緊張してきた……罰当たりな事はしてないと思いたいけど、不安だなぁ」
「あの……る、ルーイ様」
書類を手渡したうちの手を握って頬を赤らめている。どうしたんだろ?
「その……えっと、応援することしかできませんが、試験合格を祈っておりますね」
「マリーさん……ありがとう。うん! 頑張る!」
嬉しいなぁ。出会って間もないのに、こんなに応援してもらっちゃったら、頑張って一発合格しないとね!
ん、何か背後から悪寒を感じる……?
振り向くと、みぃが笑顔で立っていたけど目は笑ってない。
えっ、何か怒られることしましたっけ……?
「ルーイ。お手」
思わず手が出たが、いつもと逆の手だ。これだと、おかわりだね? でも、もう片方はマリーさんが握ったままだから動かせない。
「しばらく、鳥もふナシね」
どうして!?
右手はマリーさんに握られたまま。そして左手は、みぃに差し出したばかり。
そのままショックで固まっていると、突然名前を呼ばれた。
「お、ルーイじゃないか。講習以来だな、元気にしてたか?」
チョビ髭がトレードマークのガルさんだ。ゲーム内時間は三倍以上のスピードで過ぎているから、ガルさんとは約一か月ぶりの再会だ。そして、ナイスタイミングで声をかけてくれたから、二人の手も離れた。
「元気に楽しんでるよー! これからパラの試験受けにいくところなんだ!」
「はぁ!? もう、そんなレベルなのか……? 一時的に神の恵みが増幅している新世界人に会うことはあるが、それでも早すぎる……」
住民にとっては、経験値増量キャンペーンってそういう認識なんだね。
「ガルヴァン氏、ここにいたのか」
誰かに名を呼ばれたガルさんは声のする方を見ると、渋い雰囲気を纏う男性がこちらに向かっていた。銀髪で額に切り傷――講習の時にホログラムで見た騎士団長だ。えっと、名前は確か、ぶ……ブルブルハトだっけ……?
「ブルムハルト騎士団長! 何かありましたか?」
ブルブルでも、ハトでもなかった。しかし、騎士団長はイケオジだなぁ。鎧の上からでもわかるくらい筋肉粒々だ。鎧に十字架の紋章がついているってことは師匠と同じパラディンなのかな?
「森の調査について――ん? マリー氏、その紋章を誰から……?」
「こちらの、ルーイ様でございます。これからパラディンの試験を受けにいかれるところです」
「えっと、受験者のルーイです」
「ほぅ……まさかあやつが許可証を出すなんて。あぁ、君が例の研究所が騒いでた子か。ふむ……どうやら、君の祈りはこの世界にとても強く反応しているようだ」
こちらを見る団長の目がキラリと赤く光ったけど、スキルなのかな。
「あの、ブルムハルト騎士団長、調査がどうかされたのでしょうか」
「あぁ、話が逸れてすまない。少し急いでいるので、私はガルヴァン氏と失礼するよ。同じ聖騎士として、ルーイ氏のご武運を祈っている」
「はい! 頑張ります!」
やっぱ、パラディンだった。それで、祈りについて言ってたのかも。聖職に好かれやすい称号が取れてたし。
「そういえば、研究所の所長も会いたがってたから、暇なときにでも行ってみるといいぞ。ほれ、これが地図だ。まずは、試験頑張ってこい」
「ガルさんもありがとう! 試験頑張るね!」
受け取ると、システムマップの東側にピンが刺さった。でも、まだ行ったことのない街だから、雲がかかっている状態になっている。この手前まではマグマの街ダンジョンで行ったから地図は見えてるんだけどねぇ。とりあえず、今は試験に集中だ。
これで準備は整ったし、いざ試験会場にレッツゴー!
「私、待ってるから」
「ふぁ!? どうして!?」
まさかの同行拒否!?




