92羽目:タンクの心得
ぽよん、ぽよん、と。草原にスライムの間抜けな音が響いていた。
例のセルに慣れるため、三人で見晴らしのいい草原フィールドに来ている。神父さんがスライムを引き付けて、師匠は挑発でタゲを奪うのを見せてくれる。師匠からタンクのことを教われると思うと、ワクワクしてきた。
「ボクは大盾のフチを目安にしてるくま~。挑発は近距離だから2セルになるくま。ここからだと、4セルだから効かないくま。【挑発】くま~」
スキルを唱えても、スライムは神父にぽよんと体当たりをしているだけだった。
「そして、ここが2セルくま。【挑発】くま~」
今度は、スライムが反応して師匠に向かっていき、神父さんから離れていった。
「オレは歩幅で記憶してるよ。回復スキルは遠距離に分類されるから、10セルになるんだ。ここらへんまでは【ヒール】って銀に届くけど、一歩下がると【ヒール】。こんな感じかな」
杖をラケットのように振ると、一度目は師匠にヒールが届いたが、二回目は何も起こらなかった。セルの測り方にもいろいろあるんだなぁ。
「自分の覚えやすいやり方でやるのがベストくま! 試しに、このスライムで自分なりの距離を探してみるくま~」
未だに、ぽよんぽよんと師匠の足元で体当たりを続けている青い球体。よし、やるぞ。まずは、スライムの前後左右にある1セルを1メートルくらいとして。筋肉ムキムキのマッスルダック一羽の全長と同じくらいかな? 2メートルなら2マッスルダック分として……試しに、やってみよう。
「ここらへんが2マッスルかな。べろべろばー!【挑発】!」
「「まっする……?」くま?」
あちゃ、クチバシまで入れるとちょっと遠かった。ブルースライムはこちらに向くことなく、師匠に体当たりしている。うーん、ムキムキの胴体だけならいけるかな。
「ここなら……2マッスルかも。ゼラチンやろー! べろべろばー! 【挑発】!」
ぽよりん、と足元から離れてこちらに向かってくるスライム。盾ですくうようにして空中に浮かせて、下からコアを抜くとピンクのポリゴンとなって散っていった。
「できたー! こういうことだったのか~師匠と神父さんありがとう!」
二人を見ると、何故かポカーンと口を開けていた。うわぁ、熊の獣人族ってちゃんと切歯なんだね。お肉食べるときに噛みやすそう。
「え? ルーイちゃん今、何やったの……?」
「物理攻撃でスライムワンパンしたくま……?」
そうだ、スライムは物理攻撃が効かないんだった……コア抜き以外。改めて二人にコア抜きの説明をしたら、さらに顎が外れそうなくらい口が開いていた。でも、こんなことできても、タンクとは関係ないしなぁ……。リーダーや、ダンジョンの時とかもそうだけど、上手く一人でタゲが取れなかったし。
「ルーイちゃん、すごいくま!」
「コア抜きなんて、そこまで役に立たないよ。師匠がオストリュウの大群に耐えたみたいに、タゲを取って全部一人で抱える方がすごいと思う」
つい、口から漏れてしまった弱音。それを聞いて、銀司師匠が眉をひそめる。
「ルーイちゃん、それは違うくま~。タンクって一人で全部を抱えて、耐えることじゃないくま。どんなすごいタンクだって、数を抱えれば簡単にポリっちゃうくま! タンクは犠牲になることじゃなくて、PTの生存率をあげる存在くま。だから、仲間を信じて最後まで立ち続けるだけくま! ボクのくまくまガードは、神父や仲間がいるからできることくま~」
ムキッ、と筋肉を見せるようにポージングして、ニカッと笑う師匠。
「そうだね。たまにはいい事言うな。でも、銀はいつも大群に突っ込んでポリかけるから、支援の身にもなってほしいよ。ルーイちゃんはもっと仲間に頼っていいんだよ。みぃちゃんとかさ。みんなそれぞれの役割があって、お互いに助け合う。MMOはそういうところが楽しいとオレは思ってるんだ」
「神父はもっと、ボクに優しく支援するのを覚えたほうがいいくま! ボクのプリチーフェイスに物理ヒールをぶつけすぎくま!」
「プリチー……? いや、毛深い熊だろ」
「こんな可愛いマスコットくまよ?! ルーイちゃんも何か言ってやってくま!」
「なんだろ、こういうやり取りすごい身に覚えがある……師匠、これも愛だよ」
「ひどいくま~!」と騒いでるのを見て、先ほど言われたことを反芻する。もっと、仲間に頼っていいか……。リアルでも、ゲームでも似たようなこと言われるくらい、うちは一人で抱え込んでいたのかな。この二人みたいに、みぃと背中を預け合えるようになりたい。そう思ったら、心の中が少しだけスッキリした。
「師匠と神父さん、ありがとう! うち、師匠みたいに周りを信頼して、信頼されるタンクになる!」
「ルーイちゃんならできるくま! ファイトくま~!」
「うん。ルーイちゃんならきっと、上手くできるよ」
元気がみなぎってきたぞ。さっき、スキルによって範囲が変わるって言ってたし、この間手に入れたシールドブーメランを試してみようかな。名前的に遠距離っぽいし10マッスルになるのかな? ちょうど、あそこのアイビーラビッツたちがそれくらいの距離だね。
「何かやる気出てきた! せっかくだし、このスキルも試してもよっと。【シールドブーメラン】!」
盾を勢いよく放り投げると、弧を描くように回転する。アイビーラビッツをすべて巻き込み、三匹ともポリゴンとなって散った。手元に戻って来るの便利だね。
「え、何それ。知らないスキルくま! 教え……いや、自分で見つけるくま! ごめん、ルーイちゃんまたくま! 神父、すぐ検証するぞ!」
「お、おう。語尾消えてんぞ? ルーイちゃんまたね!」
「あ、はーい、二人ともまたね!」
二人は慌ててポータルに乗って、どこかに行ってしまった。地面から光が収束すると、そこには羊皮紙の手紙が置かれていた。これ、師匠たちが残したのかな? 開いてみると、みぃから『ログインしたから、教会で待ってるよ』とのことだった。
ねぇ、ハトさんいつの間に来てたの?!
ミルシード、いつになったら食べてもらえるのかな……。こんなに鳥LOVE全開で、なぜ逃げられちゃうの……?
また、粟穂があげられず、途方に暮れるのだった。




