91羽目:甘すぎてクマった
温かい気持ちを抱えながら路地を抜けると、繁華街のすぐそばに目的のお店が佇んでいた。木目調の看板には、茶碗と湯気が彫られており、《お茶処 りらく》と表示されている。
店内は、モダンな和喫茶のような雰囲気だ。ほうじ茶と、爽やかな紅茶が混じった香りが漂い、心がホッと緩む。
リアルは夕食時、箱ある内ではまだお昼前だからなのか、一席を除いて空いている。そこには、見覚えのある二人組が座っていた。
一人はくま帽子を被っているクマの獣人――銀司師匠だ! まさか、本当に会えるとは思ってなかった。対面には神父さんもいるけど、何かとんでもないものを見ているみたいな顔をしている。どうしたんだろう。とりあえず、声をかけようっと。
「銀司師匠! 神父さん! お久しぶりです!」
「もぐもぐ。ルーイちゃん、おひさくまー! むぐむぐ」
「久しぶり、ルーイちゃん。あれ、みぃちゃんは? よかったら、隣座るかい?」
「みぃはまだログインしてなくて。わーい! おじゃましまーす」
六人掛けテーブルだけど、銀司師匠はリアルに寄せた熊だから、二人分のスペースを独占している。獣人族ってアバター設定の時に一部分か、全部って選べるみたいだから、人によって作りが違っていて見ているだけでも面白い。
グリズリーベアのような見た目で食べているのが、テーブルの半分を独占しているデカい大福と、山盛りクリームが隠れるくらいチョコチップが散らされたドリンクだった。茶碗がラーメン丼にしか見えないんだけど。
「何かすごいデザートだね……」
「あぁ、銀がいつも頼むやつなんだけど、見てるだけで胸やけが……」
「コアベリーのモッチスフィアと、ローストミルクティーのミルクホイップ乗せショコチップ増量くま! こんなに美味しいのに、食べないなんて神父はおかしいくま。ルーイちゃんは食べるくま? ボクのはXXLサイズだけど、Sもあるくま」
これが、スピルカさんもオススメしてたやつか。せっかくだし頼んでみよう。木の板で出来たメニューをタップすると、すぐに和服のような恰好をした店員さんが運んできてくれた。見た目は大福そのものだね。Sサイズは手のひらよりも小さいけど、師匠のは大皿くらいある。
「いただきまーす、はむっ」
もっちりとした白い牛皮を噛むと、滑らかな甘みの餡子が舌に乗り、最後にイチゴの爽やかな果汁が口の中に広がった。
「ん。このモッチスフィア美味しい! ドリンクは……ウッ」
香ばしいほうじ茶ラテなんだけど、想像を超えるほどの激甘だった。ひと口飲んだだけなのに、砂糖が体中を駆け巡って、頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。
頭の上でキラキラ星が回ってるぅ~。ピヨピヨっ。
「ルーイちゃん?! 【リカバリー】!」
咄嗟に神父さんがスキルを唱えたが、その前にクルクルと回っていた星は消えた。
「ビックリしたぁ。今のお星さまは一体?」
「今のはスタンくま~。モンスターで同じ現象みたことないくま? スキルのデバフくま。スタンは確率で発生するけど、VITが高ければ高いほど解除が早くなるくま!」
デバフってマイナス効果のことだよね。オークリーダーも、星が回っている間は、動けなくなっていたなぁ。ってか、飲み物を飲んだだけでスタンになるってどういうこと? 砂糖を袋ごと頭に叩きつけられた感じがしたんだけど。
「オレがスキル使うより早かったから、ルーイちゃん相当VIT高いんだね。今Lvいくつ?」
「この間、Lv30になったところで、全部VITに振ってる!」
あれ、何か二人がすごいビックリした顔になっちゃった。なんか変なこと言ったかな?
「まだ初めて一週間くらいだったよね? 第三陣とは言えすごいスピードだ。しかも極VITで……」
「すごい! もう転職もできるくま! ボクはSTRとVIT型だから、純粋なステータスだけならルーイちゃんの方が防御は高いかもしれないくま!」
そうだ、Lv30で転職ってできるんだった。でも、気になるのは師匠よりも防御が高いかもしれないって部分。レベルの低いうちの方が、ステータスが高くなることってあるんだ。
「極端にひとつだけに振るってあまりしないの?」
「する人もいるけど、どうしても大器晩成型になっちゃうし、職業によっては育成が大変くま。例えば、製造職とかものづくりはすごい成功率が高いけど、いい素材を落とす高レベルのモンスターがいるところに、ソロではあまり行けないくま~」
なるほど。製造職であるみぃが、タゲ取り助かるって言ってたのは、こういうことか。でも、みぃの役に立ってるなら振り切って正解だったかも。もちろん、鳥もだけどね。
「オレは支援プリだからINT優先で、詠唱速度をあげるDEX、耐久も確保するのにVITも振ってるよ。中には殴りプリでバランスよくステータスを振って、タゲ取りから支援までオールマイティーにできる人もいるけど……INTが低めだとヒールの回復量が減っちゃうんだ」
へぇ、色んなのに振り分ける人もいるんだね。そういえば、タゲでずっと気になってることがあったんだった!
「ずっと気になっているんだけど、スキルに書かれてる範囲、っていうのがよくわからないんだよね……挑発を使ったときに、スキルが効いてないことがあって」
「スキルによって範囲は変わっちゃうくま~。挑発は近距離系スキルだから2セル以内。遠距離系は10セルがほとんどくま」
「に、2セル? 10セル?」
頭にハテナがいっぱい飛んでいるのを見かねて、神父さんが細かく教えてくれた。箱あるの世界は『セル』というマス目で距離判定されているらしい。普段は見えないけど、内部的にはしっかり存在している、と。
へぇ、それが二個分なのか、十個分か……って、ことね。澪が見せてくれた、レトロなゲームみたいに、地面にマス目が見えてたらわかるけど……。
「でも、見えないのに、どうやってセルがわかるの?」
「こういうのは習うより、慣れろくま~! 一緒にやってみるくま! はむっ。もぐもぐ。ごくごくっ」
ものすごい勢いで残りの大福とドリンクを平らげる師匠。まるで、衰えない吸引力を謳う掃除機の如く、大容量のスイーツが消えていく。
星を飛ばしながら、気合で食べきったら【スタン耐性小】が手に入った。食べ続けたら、もっと耐性がつくのはわかっているけど、しばらくリアルでも甘い物は食べたくないかな……。
みぃが甘い物リクエストしたらどうしよう。困っちゃう。
[読者の皆様]
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