それぞれの戦いへ
「見苦しいぞトッポリンキー! もう勝負は着いた!」
「黙れ吸血鬼っ! まだ、タイラントオークは負けてはいないっ!」
その宝玉は、奴の魔力で眩い輝きを放つ。
死者蘇生の宝玉……どう考えてもヤバい代物じゃないか!
「貴様もこれで終わりにしてやる! 魔王軍に逆らったものは、皆殺しだ!」
奴の言葉と同時に、客席から合図を待っていたかのように何人か飛び出してくる。くそ、伏兵かっ!
「ヒューレ! ミルキ・ヘーラ! 鬼娘達を頼んだっ!」
「あっ! マスター!」
「御当主様っ!」
「逃がすかっ! 『空間閉鎖の宝玉』!」
トッポリンキーはまたしても危険な感じの宝玉を。ていうか誰が逃げるか!
囮になるつもりでユーニオング達からは少し離れたところに飛び出すと、俺の周囲からドーム状に、光の網が広がっていく。
半径およそ十メートル。半球状の光の籠が、この空間に蓋をするのだ。
「きゃあああああっ!?」
「うわああっ!? に、逃げろっ! 巻き込まれるっ!」
この一連の流れで客席も大混乱だ。誰もが我先にと悲鳴をあげながら駆けていき……。
『おい貴様っ! 一体何をやっている! 俺達の商会で何を』
『黙れ第四悪魔商会っ! 貴様らの事などもはや知った事か!』
とそこに、網の外、黒い霧から第四悪魔商会の長が。金の瞳はこの現状に見開かれて。
『魔王軍に口出しなど無用っ! あの吸血鬼は、ここで始末するっ!』
『ふざけるな! ここでの私闘は禁止だと言ったはずだ! この商会内では』
『ええい黙れっ!』
が、それでも魔王軍幹部の暴走は止まらない。手から光をほとばしらせ、それを矢のようにして放ち……。
『スウェル様っ!?』
『くっ! この代償、高くつくぞっ!』
矢は、けん制だったのかそれとも悪魔が防いだか、外れて空の彼方に飛んでいく中、悪魔達は黒い霧に紛れてこの場から消えていった。
『ふん、所詮は大勢を理解しない悪魔どもめ。我ら魔王軍に従っていればいいものを』
「……どうやら、勝手に仲たがいしてくれたようだな」
『はは、随分な余裕だな吸血鬼。自分が檻に囚われたと理解できんのか?』
嬉しそうに歪んだ本性を露わにするこの男を横目に、ちらりとミルキ・ヘーラ達を伺う。客たちが混乱して逃げ惑う中、冷静に状況を観察している。こっちはひとまず大丈夫か。
「なら次はどうする? 檻に閉じ込めた吸血鬼を飼うつもりか」
「はっ、バカめ! これから行うのは貴様の処刑だ!」
そうしてトッポリンキーが笑みを浮かべる中……俺の鼻には奇妙な血の匂いが。
「あれは……っ!? ば、バカなっ!」
「驚いたか? これが魔王さまより賜りし死者蘇生の宝玉の力よ!」
そう言って幹部は得意げに笑うが……いや、違う、これは違うっ!
先ほどまで倒れていたオークは、宝玉の力でむくりとその身を起こす。だが奴は死んでいたわけじゃない。あくまで気絶していただけだ。そこから起き上がるのも驚きだが……。
「血が……死んでいく!?」
死者蘇生の宝玉だなどと……その名とはまるで真逆。
オークの体は、急速に腐りつつあった。
「お前っ、一体何を!」
「くくく、これであの鬼は死ぬ! 勝負は我らのオークの勝ち以外にあり得ないのだ!」
「……どこまでもふざけた奴め」
ユーニオングは、ああ、立ち上がるオークに目を見開きつつも、戦う構えは解いてはいない。頼もしい限りだが、流石に肉体は限界だ。
「結果さえよければすべてよい! さて、貴様の始末だが……折角だ、幹部候補の昇格試験に付き合ってもらおう」
ぞろぞろと、奴の周りには同じような歪んだ笑みを浮かべるモンスターたちが。ほとんどが爬虫類の鱗を纏うリザードマン。言葉通りなら、魔王軍幹部候補達。
「候補といっても実力を認められたものばかり。貴様を殺したものを、正式に幹部に取り立てるつもりだ」
そいつらは光の網の中に、次々と入り込んでくる。
「この空間は外から入るのは自由だが中からは出られない。私が解除するまでな。まあ、それもここに集めた四十人の候補達にお前が殺されるまでの間だ」
「……御託はいいが」
俺は会話を続けながら、少々マズイかとユーニオングをちらりと見る。
流石にこれ以上一人にはさせておけない。ミルキ・ヘーラ達も……やはりリザードマンが数名周りを囲っている。こっちほど大人数ではないが。
「これっぽっちの戦力で、俺を殺せるとでも?」
「ハッタリで虚勢を張るのもここまでくると寒々しい。ああそうそう」
俺の方に戦力を集中させるつもりで挑発するが、奴はまた嬉しそうに口元を歪め……。
「ダメ押しの『魔法封じの宝玉』だ!」
「っ!?」
「本来なら広域をカバーできるが、残念ながら空間閉鎖の宝玉とは相性が悪くてな。干渉するせいで有効範囲はかなり狭まる……が、その檻の中程度なら問題ない!」
くくくと笑うその男に……いや、本当に破格の力だな。俺にはそもそも魔法封じなんて意味ないが、少なくとも一人、十二分に影響を受けそうな少女がいる。
今もヒューレはふよふよ浮いている。有効範囲からは外れているのだろうが……。
「さあ、存分に可愛がってやれ、お前達!」
ユーニオングを助けるには、俺がこの檻から出て向かうのが一番手っ取り早い。
だが出るために俺がこの檻を無効化すれば、魔法封じの宝玉の範囲が広がる危険性が……。
「へへっ、顔色悪いぜ吸血鬼?」
「魔法が使えなくなって、途端に具合が悪くなったか?」
「色々おせえよ。ここにいるのは魔法に頼らない腕自慢の奴ばかりなんだぜ」
「くっ!」
マズイ……これは少々予想外だ!
ここに来て、まさか手が足りなくなるとは!
「さあお前たち! 殺ってしまっ!?」
俺が内心焦る中、不意に言葉は途切れて。
「な、何っ!?」
「え?」
トッポリンキーが言葉を途切れさせた、その視線の先。
何故か上を向く彼にならって、俺も荒野の青空を見上げて……。
「あ? 何だありゃあ?」
「敵の増援か?」
「鳥……じゃねえな。おいおい、まさか竜種か?」
その言葉に、そう、その懐かしいシルエットは、俺も覚え、が……。
「そうか。君だったのか」
あの森で、夜空に見つけたあのシルエット。
俺はようやく、その正体を知り……。
「は、何が来ようと」
「おい! 何か落としたぞっ!」
幹部候補の言葉通り、彼女は手に持っていた何かを放って。
「我を使えっ! 小僧っ!」
「っ!」
そう、まさかのそんな言葉が。
「ここに来てか……いいだろうっ!」
ちょうど猫の手でも借りたいと思っていた!
この状況を打開するのに、お前の力を使わせ……。
『っ!? お、まえ、は……』
「力が欲しいのだろう? 小僧」
「……」
おーい、嘘だろ? 俺の方じゃないのかよ。
その魔剣は今、ユーニオングの手に渡って。
「貴様は、我を手にするに値する。力を貸してやろう」
『……ああ、助かるっ!』
光の檻の外から、何やらそんなやり取りが。
あーうん……まあ、俺には握らせないって言ってたけどさあ?
「……ユーニオング! そっちは、任せて大丈夫か!」
『はいっ! 決着は俺の手で……いえ、今はコイツと共に、つけてみせます!』
幹部候補に囲まれているせいで見えないが、その言葉は、十分に安心させてくれる。
ほっと胸をなでおろし……コッソリあげていた手を下ろす。うん、ちょっと恥ずかしい。
「っていうか、おい魔剣! 何でユーニオングには簡単になびく!」
「ふん、言ったであろう。我を使いこなすのにふさわしいモノ、それが今ここにおる」
ユーニオングの手の中の魔剣に悔し紛れに文句を言うと、返ってきたのはそんな一言。
「そして貴様のような半人前は、前だけ見ていればいい。上を見上げることなく、目の前の現実とだけ向き合え」
「……成程、確かにそうだな」
俺は言葉通り、上空を見上げずに返事をして。
「おいおい、いつまで待たせるんだよ吸血鬼」
「ん? ああ、スマ」
律義に会話が終わるのを待って……いたわけじゃないよな。
後ろから不意打ちで斬りかかる気配に、俺は振り向きざま容赦なく……。
「ぎゃっ!?」
「こ、コイツっ!? 今の奇襲を!」
「な!? いつの間に剣を!?」
「おいおい、お前らこそがっかりさせるな」
右手にはドラーニャから受け取った短剣。左手には俺の愛刀、桜銀華。
その二つが、今、俺が引き裂いた男の血に怪しく濡れて。
「最近は、ずっとお預けされてたんだ。あと三十九人……だったな」
思えばあの森でも何度も戦うのを我慢させられた。我ながらよく我慢したものだ。
クーナの言う通り、俺は別に殺すのが好きなわけじゃないさ。
好きなのは、そう……。
「全員、刻み殺してやるからかかってこい」
「て、めえっ!」
「抜かせっ!」
さあ、狩りの時間だ。
久しぶりにむせかえるくらいの返り血、浴びさせてもらおう!
――
「幹部候補……いつもならあっさり返り討ちにしてやるんだけれど」
ヒューレさんは、少し険しい表情でそんな風にこぼす。
「あの魔封じの宝玉、微弱だけれどこっちにまで影響を及ぼしてる。マスターは……魔法に頼らないだろうから心配してないけれど」
「っ! 御当主様が魔法を使えないって、気づいていたんですか!」
「あなたがそう言うのなら、間違いなさそうね」
「あ」
言ってから『しまった』と思ったけれど、もう遅い。これ、ベーオウさんやマリエからあんまり言いふらさないようにって言われてたのに……。
「ええと……こ、口外しないようお願いします」
「分かってるわよ」
ヒューレさんはこちらを見ずにさらりとそう言って……。
この人は、戦い慣れているのだろう。
私とやり取りをしつつ、視線は一切敵から逸らさずにいる。言葉少なに、隙を見せない。
格好いいと思った。浮いているから私とほとんど同じくらいの目線で、けれど見る世界は、私とは違うのだろう。
頼もしい。頼りたい。
けど……。
「ヒューレさんは、戦えますか?」
私は、私の目の前の敵に向き直って、背中側のヒューレさんに小声で尋ねる。
「で、できれば、鬼娘さんたちの護衛をお願いしたいんです! 私、その……そんなに戦うの得意じゃなくて」
「あなた、サキュバスだものね」
「……えっ!? な、何でっ!?」
久しぶりに言われたその単語に、思わずびくりと振り返ってしまって。
「あたり、ね。安心しなさい。マスターには黙っててあげる」
……あ、これ、またカマかけられたんだ。
今の反応じゃ……もうバレたよね。
「あ、あうう……」
ああ、こういうのに簡単に引っかかってるようじゃダメだなあ、私。
思わずこんな時なのにため息つきそうになる私に、ヒューレさんは言う。
「マスターは……私を高く評価してくれたわ」
「え?」
「白金貨数百枚をはたいても惜しくない女よ、私。マスターにとってそれほどの価値がある。それほど私を欲してくれている。そう……」
静かに、敵から少しだけ目を逸らすようにして空を見上げた彼女は、呟く。
「思ってたわ」
「ヒューレ、さん?」
「マスターは、優しいわね」
私たちの周りを囲っているリザードマン達は、何故かこんな話を始めた私達を襲おうとはせず、その場でじっと様子を伺っている。
「ハッタリだったかもしれないけれど、まさか……他人の女に白金貨千枚出すほどの男だとは、思ってなかったわ」
彼女は深く、青空に向かって息を吐いて。
「私、一度は人生を諦めたわ。意識を封印されて、ああ、このまま道具として使われて死んでいくんだと。場合によっては、仲間にすら矛先を向けることになるんだって。そんな暗闇から、悪い夢から……マスターが救ってくれたの」
「ヒューレさん……」
「運命だって思った。そんな彼が、私を握って、私に囁くのよ。君とおしゃべりがしたいって。それだけで、もう、夢中になってしまうくらいに」
そうして彼女は、笑いながら、私に振り返って。
「でも、残念だけど私はまだ、あの人の一番じゃないみたい」
「……」
一目惚れ……ううん、彼女と同じ立場だったら、私もそれを『運命』と言っていたかもしれない。
頬をほんのりと火照らせる少女に……あるいは本当に、同じベッドで同じ人を愛し合うかもしれない女に、けれど私はどこか嬉しくなって。
「安心しなさい、あなたも守ってあげる。マスターが悲しむのは私にとっても嫌だもの。だから」
「知って、いますよ」
「え?」
「御当主様は、私がサキュバスだって」
「なっ……えっ!?」
流石のヒューレさんもここまでお見通しではなかったようで。ちょっと失敗を取り戻せた気分だ。
「私も、そう思いますよ。御当主様は優しいって」
「あ……サキュバスを受け入れるってどれだけ器が大き……いやもう、そういう問題じゃないわよね?」
ヒューレさんは困惑気味で、それこそ私が初めて受け入れられた時も同じように動揺したなあ、なんて思い出させてくれる。
「でも気を付けてくださいね? 御当主様、可愛い女の子には見境ないですから」
「あー……成程ね。何か納得したわ」
あきれ顔で、でもどうやら彼女はそれで諦めてくれるタイプじゃないみたいで。
ああ、全く。御当主様はどうしてこう女の子を夢中にさせるのか。
「私も、負けませんから」
それでも、私は私なりにあの人と向き合っていきたいから。
「私も戦います! 守られるだけじゃ……ううん、私も、私だって、役に立ちたいから!」
御当主様は、優しくて、素敵な吸血鬼。
だからもう、可愛い女の子が寄ってきてしまうのは仕方がないのだろう。それに御当主様も言っていた。私の方こそ、流し目一つで男を誘ってる、と。
そんな私でも、御当主様は傍に置いてくれている。あの人はそういう人だ。
だから、そんな御当主様に私は文句を言うんじゃなくて愛を囁きたい。嫉妬するんじゃなく、あの人の力になりたい。これからも、ずっと。
「……サキュバスって、ずるいわね」
「えっ?」
「そんな顔されたら、男だったらきっとイチコロだわ」
ヒューレさんは、いつの間にか彼女も私の方を向いてため息をついて。
「あなた、笑顔になるたび男を虜にしているんでしょうね」
「ご、御当主様にも似たような事言われました……その、テクニックでいいなら、教えますよ?」
こういうのはサキュバスの本能みたいなものだから、どこまでをテクニックと呼んでいいか分からないのだけれど。
「その、代わりと言っては何ですが……戦い方とか、教えてくれませんか? ヒューレさん、とてもしっかりしてるし。戦いの時に気を付けることとか」
「それだと不公平よ」
「え?」
「あなたのソレはテクニックじゃなくて内面よ、おバカ」
はあと、何故か呆れたようにまたため息。そうして浮かせた手袋の指でパチンと……。
「嫌味も通じないんじゃ張り合いがないわね」
「っ!? な、何だっ!? 障壁を解いたのか!?」
「えっ!?」
障、壁?
「あんな無防備なままで襲われないわけないでしょ? こっちからは見えない壁で塞いでいたのよ。声も聞こえてない」
「あ、成程……え? でもそれ、解いちゃってよかったんですか?」
そういえば鬼娘さん達の声も、障壁を解いてから聞こえ始めた。さっきまでの会話は本当に私とヒューレさん以外には聞こえていなかったのだろう。
「いいも悪いももう限界よ。あの魔法封じの宝玉のせいで普段の三分の一も力が出せないわ」
「え」
「だから、半分任せたわよ」
「え、えええええっ!?」
あ、あれ!? ちょ、ちょっと思っていたよりもピンチかもしれない状況に思わず背筋が冷えて。
「ハッ! 弱ってんなら好都ごっ!?」
「っ! 危なっ!?」
そう、障壁を解いたことで襲い掛かろうとしたリザードマンが……。
「ぐ!? べっ……」
「あ」
「一つ、教えてあげる」
バチンッ! と。
空気が弾けるような音と、そして起こった目の前の状況に、ヒューレさん以外の誰もが息をのむ。
飛び掛かったはずのリザードマンは、ヒューレさんにたどり着く前に……その体をどさりと地面に転がして。
「戦いはしっかりと準備していた方が勝つのよ。戦場で隙を見せるってことは、襲い掛かられても撃退できる準備が、隙を見せる側にはあるってこと」
「くっ! くそっ! 相手は天の魔女だ! 油断するんじゃねえ!」
周りのリザードマン達は明らかに動揺していた。
そう、一瞬で黒焦げになった仲間を見て。
「攻めるにしても守るにしても大事な事だから、覚えておきなさい」
「は、はいっ!」
い、今の……わざと隙を見せたんだ! 飛び掛からせるために!
わ、私には何をしたのかも、何が起きたかも分からなかったけど。きっとヒューレさんは私と喋っている時に何か準備してて、そうして万全の状態で……成程、それなら負けないよね!
「わ、私もっ」
自分でもやってみようと思って……ええと、私にできる準備って何だろう? さ、流石にいつも投げてる石を作ってる暇はないし、戦う時はいつも手でつぶしたりとか足で蹴ったりとか、そういう単純なのばっかりだったし。
相手の油断を誘うっていうのならすぐできるのだけれど。こう、男の人が襲いたくなる感じに腰と手をこう……。
「っ! へへ! こっちは完全に無防備か!?」
「……え!?」
なんて、実践してみたら案外うまくいって……ってダメダメっ! 誘っても私、反撃なんてできないし!?
「ご、げっ」
「ひっ……え?」
「早速実践するとは、お見事です」
「っ!? あ、あなた……」
「セサミさん!」
ヒューレさんも私も鬼娘さん達も、いや、この場にいる誰にも気づかれずに閃いた刃が、飛び掛かってきたリザードマンを真っ二つにした。
首から揺らめく六本の青い帯、バレッタで止められた艶やかな黒髪。
その宝石みたいな綺麗な紫の瞳が、頼もしくこちらを見つめていた。
「今までどこにいたのよ。とっくに逃げたと思ったわ」
「まさか。護衛を任された以上、第七悪魔商会の名においてしっかりと守らせていただきます」
「あ! そういえば、ラセスチャーさんが!」
そうか、あの悪魔さんはきっと何か起こる事を見越して、彼女をここに残していたのだ。これは心強……。
「では、それぞれ敵の三分の一ずつ相手に」
「ちょっと、私も入れて四等分でしょ?」
「ッ!?」
「……え?」
どこからともなく、声が聞こえた。
「グリル、あなたこんな時に出てきたらややこしいでしょ」
「何言ってんのよ。準備っていうのならこっちはもう後手後手に回ってんのよ? まだ伏兵だっているかもしれないし、出し惜しみしてる場合じゃなくない?」
「あ、だ、誰よ……セサミ、あなたどこの誰と喋って」
ヒューレさんが尋ねても、その姿は何処にも見えない。女性らしい明るい声で話す彼女は、誰にも見えない。
「私はここ。グリルちゃんも、セサミと一緒に戦うからね!」
そう元気よく、リザードマンも、私達も困惑する中で、その声はセサミさんから響いて……。
「ッ!?」
彼女の背中を覗くことができた私には、それが見えた。
ぶらぶらと、セサミさんの背中から、揺れている手が。
「説明はあとあと! ほら、始まるよ」
「このっ! いい加減ごちゃごちゃうるせえんだっ、うごっ!?」
「……鬼娘様達は、私とグリルが護衛します。どうかお二人は攻撃に専念されてください」
「こ、こいつ今どこからっ!? がっ!」
困惑するリザードマン達の中を彼女は駆け、光が一つ、二つ、何度も瞬いて。その度悲鳴と混乱が、彼らを襲う。
奇妙なことに『隠された手』が見えている私ですら、その軌跡を追えない。元々戦うのは苦手だけれど、これでもワーウルフさん達との訓練でちょっとは動体視力もよくなっているはずなのに。
無いはずの場所に手が。
閃くはずのない刃が、何度も何度もリザードマン達を切り裂いて。
「……よく、分からないけれど」
パンパンと私は自分の頬を叩く。
そうだ、彼女の凄腕に見とれている場合じゃない!
「鬼娘さん! 私の足元から離れないでくださいね!」
「えっ」
「あ、足元? ひ、引っ付けって事?」
セサミさんが……ええと、グリルさん? と共に彼女たちを守ってくれるというのなら。
私も、遠慮なく戦おう!
「えっ!? ちょ、あ、あなた! 嘘っ!?」
「な、何だああああっ!?」
「で、デカくなって、ええっ!?」
「こ、コイツ確か! 奴ら吸血鬼どもの……」
何か叫ぶ声も、徐々に聞こえなくなる。
中くらいの大きさになる頃には、地面の傍の会話は聞き取りづらくなるから。
「こうさんー、するーならー、いまのうっ!?」
私はそうして手を振り上げようとして……。
目の前に、剣を振りかぶった一人のリザードマンを見て。
「あっ!?」
「へっ! これだけ近けりゃてめえの体を駆けあがってくるのも楽でっ!?」
思わずびくりと動きを止めた私に攻撃するはずだった彼は……やはり、バチンという音で黒焦げになって落ちていく。
「え、なー、なにー、がー?」
「驚いた、あなた異形種だったのね」
混乱したけれど、当然今のは、ヒューレさんの魔法。何故か彼女の声がすぐ近くで聞こえて……。
「……とべー、るんですねー」
「今までだって飛んでたじゃない」
そう、杖の少女は、いつの間にか私の高さまで上昇していたのだ。
「なにかー、しんーせんーですー」
大きくなっても自分と同じ目線に相手がいるというのが、何と言うのか……ちょっぴり、嬉しいなんて思えて。
「呑気なモノね。っていうかあなた、大きくなったら随分間延びした喋り方になるのね」
「あー、これはー、のどがー。それーよりー」
「ええ」
私たちは、眼下の世界を覗く。
見上げるリザードマン達。そしてその中を、相変わらず駆けながら刃を閃かせるセサミさん。
そして守るべき、鬼娘さん達。
「てんのー、魔女の力ー、きたいしてーますー」
「その呼び名……そういえばマスターも勘違いしているのかしら? まあいいわ」
「?」
彼女の浮かせた手袋から、火が、電気が、弾ける水が、氷が、キラキラと光の粒になりながら、彼女の周りを回り始める。
それは魔法という名にふさわしく、幻想的で、優美で。
「見せてあげる。『天気の魔女』の実力をね」
サイドポニーを風になびかせ、少女は微笑みながら、不敵にその目を光らせるのだった。
<現在の勢力状況>
部下:古ゴート族82名、レッサーオーク51名、ギガントオーク67名、ワーウルフ21名、ワーダイル60名
従者:ベーオウ
同盟:大魔王ガルーヴェン
従属:なし
備考:第七悪魔商会と契約中
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