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今日はいい日だ



「今日はいい日だ」

 荒野の青空の下。俺と対峙した奇妙なオークは、そう呟いた。


「俺の力をようやく示せる。この戦いが、俺にとっての本当の第一歩になる。ここにいる大勢の奴らが俺の勝利をたたえ、俺の力を各地で語り継ぐことになる。最強の鬼に勝った、最強のオークの事を、だぜ」

 全身が赤褐色。それはまるで焼けただれた肌のように、或いは今も熱を持つ石炭のように、その赤が、俺の眼に焼き付いていく。

「そうして最高の気分でよお」

 長身の俺を、さらにその上から見下ろしながら。


「最高の女を抱ける」

「……」

「いい日だと思わねえか? なあ、元恋人さんよお」

 挑発的に、俺を睨みつつそう語る。


 この眼光、佇まい……手加減していい相手ではない。


「あの鎖は、切れないと思っていた」

「……あん?」

 体調は最悪だ。

 動けない状態から復帰できたとはいえ、万全とは程遠い。恐らく眼の力も数回の使用が限度。気を抜けば膝は崩れ、もう立つことはできないだろう。


「切れないと思っていた鎖を、あっさりと引きちぎられた。取り戻せないと思っていた仲間を……少なくともその笑顔を、俺はまた見ることができた」

 それでも俺は、今ここに立っている。不可能だと諦めた光景の、そのほんの手前まで、俺は連れてきてもらった。


「奥方様は嫌われることも覚悟して、俺に活力と勇気をくださった。そしてあのお方は、戦う覚悟と誠実さでもって、今に至る道を作ってくださった」

 あとはそう、自分の足で歩く。


「立てない場所に立てたんだ。あとはお前に、勝つだけだ」

 この決意だけは……あいつを取り戻すと再び誓ったこの決意だけは、もう捨てたりしない。

「同意してやる」

 見上げた赤い巨人に、告げる。


「今日はいい日だ」

 オークの男はそれを聞き……。

 嬉しそうに、その口を歪めるのだった。


――


「……少なくとも、戦えるまでは回復しているな」

 俺は勇ましく立つ鬼を見て、そう呟いた。

 競りの舞台から降り、今は荒野の青空の下。大勢の客たちに囲まれ、ユーニオングは赤褐色の巨人と向き合っている。


「あの状態からあそこまで復活したのは……驚異的としか言いようがないが」

 だが相手が相手だ。

 あのオーク、恐らくは俺達の勢力のどのオークよりも強い。例えばガイゼルが万全の状態で戦ったとしても、勝つのは難しいだろう。

 そんな相手に挑むのに、いくら鬼といえどもこれは……。


「厳しい、ですか?」

 隣に立つミルキ・ヘーラが、俺の顔を見てそう尋ねる。

「ああ。もしユーニオングが万全の状態ならさほど心配しなかったかもしれないが……」

「大丈夫ですよ」

「え?」

 俺が不安をそのまま口にするのを、けれどミルキ・ヘーラは、優しく包み込むようにそう言って。


「きっと、何とかしてくれますよ」

 いっそ楽観的に、笑ったのだ。

「……そうだな。ああ、そうだな」

 俺は不安をふうと一息に吐き出して、ミルキ・ヘーラを見つめた。

 ああ、全く。いくらここで心配だ大丈夫かと思考を巡らせたところで意味など無いのだ。もう賽は投げられた。あとは信じて待つだけだ。ミルキ・ヘーラのように、いっそ楽観的に。


「だ、大丈夫です! お頭はきっと勝ってくれます!」

「そうですっ! お頭はすごく強いんです! あんな焦げ付いたオークなんかぶっ飛ばしてくれます!」

 そして鬼娘たちも口々に、自分たちのお頭を信じていると声高に叫ぶ。


「きっと、コニオラ様を取り戻してくれます!」

「コニオラ……彼女の名だな。ユーニオングの許嫁、だったか」

「ユーニオング様とコニオラ様は幼馴染で……あ、私達もそうなんですが、ずっと一緒にいて仲もよくて、え、ええと」

「恋仲、だったのだろう?」

「そ、そうですそうです!」

 はやるように言葉をまくし立てる鬼娘は、勢いよく頭を縦に振る。


「だから大丈夫です!」

 だから、の意味は分からないが、そんなものきっとこの鬼娘にだって分からないのだろう。

 ただそうなると、そうなって欲しいと願うだけだ。


「マスター、いざという時は私も戦うわ。いつでも命じて」

「ありがたいが、今の所その予定はない。俺も、今は信じて待つさ」

「そう……やっぱりあなたは、優しいのね」

 杖の少女のヒューレは、やはりふよふよと浮きながらそんなことを呟く。優しいかどうかはさておき、その言葉の裏に含んだ意味を感じさせて。


「あのオーク……タイラントオークは、どれほどの強さだ」

「正直バケモノよ。同じオークと思わない方がいいわ。強靭な筋肉から繰り出される拳、圧倒的な機動力、そして分厚い皮膚に守られた頑丈な体。魔法こそ使えないけれど、それこそ幹部クラスを相手にしているみたいだった」

 ヒューレは端的にその恐ろしさを語ってみせる。俺の目測通りあの筋肉は強さと速さ、そして頑丈さを兼ね備えているようだ。それは肉弾戦に限れば恐らく最強の要素。


「お、お頭だって強くて格好よくて……ええと、凄く凄く力が強いわよ!」

「あ、ええと、張り合わせるつもりじゃないのよ?」

 食って掛かるような鬼娘に、ヒューレはちょっとたじろぐ。鬼娘にしてもヒューレにしても、互いをよく知らないせいかどこかぎこちない。


「それにお頭には……そうだっ! アレがあるわっ!」

「っ! そうそう! お頭にはあの眼があるじゃない!」

 ん?


「あの眼?」

「『鬼の眼』です! 限られた鬼しか開眼しないって言われているあの眼をお頭は持ってるんです!」

 ほう? 初めて聞く力だが……ひょっとしてあの眼帯、隻眼ではないのか?

「その、鬼の眼とは」

「凄い力なんです! あれがあれば勝てますっ!」

 う、うん? さっぱり分からんぞ?


「門外不出の秘伝なのですよ。鬼の一族に関わるものにしか知らされない切り札、とでもいいましょうか。吸血鬼の血の治癒術と似たようなモノです」

「唐突だな、ラセスチャー」

 鬼娘たち、そしてミルキ・ヘーラやヒューレも突然現れた悪魔にびくりとする。何もない所から、その男は黒い霧と共に俺達の前に。


「いやあ、大変なことになりましたねえ」

「呑気なものだな。まあ、俺達にできることはもうない。見守る以外はな」

「そうですか。では私もご健闘をお祈りさせていただきますよ」

 悪魔らしい正体の分からぬそんな言葉を吐いて、ラセスチャーは続ける。


「皆さん、私の所に勝算はあるのかとかこの勝負をどう見るかなんて聞きに来られるのですが、正直私戦いのことはさっぱりなんですよねえ。ですからそう答えるのですが、どうも含みがあると捉えられてしまって」

 だろうな。この悪魔の本心がどこにあるかはさておき、コイツが分からないなどと言っても誰も本気では信じないだろう。そういう意味では、俺も同じような目でこいつを見ているのかもしれない。


「ユーニオングさんに賭ける方が大半のようですし、皆さんそう思っているのでしょうけれど」

「それは、鬼の評判のせいか」

「それもありますが、オークが鬼に勝てるとは思わないのでしょう。どんなに強くともオークはオークだと。ですから……それが覆されれば、新しい常識が生まれるわけです」

 成程な。この対決にはそういう意図もあるわけか。弱っている鬼と戦わせて箔をつけようなんて、せこいことを考えるものだ。


「さて、挨拶もそこそこですが、ここで私は失礼させていただきます。代わりという訳ではないのですが」

 悪魔はそう言って、自分の後ろに置いていた少女を前に。

「セサミを置いていきますので。ああいえ、護衛の料金は結構ですよ」

「押しつけがましいな。まあ、構わんが」

「ありがとうございます吸血鬼様」

 スッと俺の前に立ち、その紫色の宝石の瞳に俺を映すセサミ。はて、彼女を護衛として俺達の傍に置くつもりか?


「ちょ、ちょっとマスター!」

「ん?」

「あ、その……やっかみでこんな事言う訳じゃないけれど、この子は……少し危険よ」

 小声で、俺にだけ聞こえるようにしてヒューレはそう囁く。ふむ、彼女の実力を感じ取ったのか。


「彼女は護衛や暗殺を生業にしているらしいからな」

「っ!? ちょ、わ、分かってるのなら傍に置くべきじゃ」

「観戦する人数が増えるくらい、構わないだろう」

 ヒューレの言いたいことも分かるが、暗殺なら黙ってやっているだろう。わざわざ断ってから傍に置くくらいだから、信用してやればいい。

 そう言っている間にラセスチャーは黒い霧となって消えた。残された少女は俺を見つめて。


「勿論、吸血鬼様を暗殺などいたしません。そのような依頼は入っておりませんから」

「それは良かった」

 この子はまだ刺々しい言葉で、けれど纏う空気は、いくらか穏やかになっていた。


「しかしラセスチャーも君のような可愛い子を置いていくなんてな。どうだ? デートの続きは俺としないか」

「謹んでお断りさせていただきます。金貨を積んでいただけるなら喜んでお相手しますが」

「相変わらず手厳しい」

 美しい少女、セサミは、言葉に彼女なりの信念を込めて答えた。いともたやすく俺を振ってくれるのはラセスチャーに惚れているから……なんて、単純でもなさそうだ。


 どこか、幼いながらも底の見えないそんな心の強さが、俺を惹きつけ……。


「……マスター? まさかこの子がちょーっと可愛いからって油断してないかしら」

 なんて考えてたら、顔に笑みを浮かべつつもこめかみ震わせる声が。おっと? いやうん、そういう訳じゃないぞ?

「御当主様? まーた増やすおつもりですか?」

「あっ、いや、その、これは違くてだな?」

 そうしてこっちも笑顔で言葉に怒気を孕ませて……あ、いや、うんちょっとこれマズイ?


「その、違う、違うんだミルキ・ヘーラ、ヒューレ」

「どう違うんです?」

「こ、これはその……言葉のあやで」

「そうですか。言葉のあやでしたか吸血鬼様。そうですかそうですか」

「い、いや待て! ちょっと待て!」

 今度はセサミから追撃を入れるように逃げ口を塞がれる。お、おいお前達こういう所はなんで共闘するんだ!?

 というかユーニオングや鬼娘たちの命運を賭けた一戦前に何してるんだ俺達!?


「これはこれは、賑やかなご様子で」

 なんてことをしている時だった。

 ざわざわと、俺達と距離を取っていた客たちの列が割れたのは。


「一つ、お手合わせ願いますよ」

「……貴殿は」

「申し遅れました。魔王軍幹部、トッポリンキーと申します」

 そうして進み出てきたのは、身長百八十程の黒いスーツ、青髪短髪の男。


 爬虫類のような鱗を残した茶色い顔つき、手は中途半端にトカゲのようなそれで、尻尾も生えている。リザードマンという奴だろうか。


「カーウ様が所用で外されましたので、ここからは私が魔王軍代表を務めさせていただきます」

「何だ、あの男は最後まで見届けもしないのか」

「カーウ様は本来とてもお忙しいお立場なのです。荒野の弱(・)小(・)勢(・)力(・)程度に関わっていられる御身分ではありませんから」

 この男の早速の挑発に、俺の周りはピクリと空気を震わせる。


「まあせいぜい我らのオークの引き立て役になっていただきたい。あの貧弱な鬼がどれだけもつか分かったものじゃありませんが」

「っ! このっ……」

 自分たちのお頭を侮辱されて鬼娘たちも怒気を向ける。ふむ、見え透いた挑発だ。こいつをここでぶちのめしてもつまらんな。


「だから待て」

「マスター……こいつはマスターを侮辱したのよ? ここで消し炭にしたって」

「しても意味がない。言いたいように言わせておけばいい」

 鬼娘たちよりももっと明確に、魔力を込めながら殺気を放つヒューレに、客たちもざわつく。客たちも分かっているのだろう。天の魔女がこの場で暴れることの意味を。

 込めた魔力は、恐らく本当にこの男を消し炭に……。


「ふはっ! それが賢明かと! 我ら魔王軍、その幹部である私に怪我でも負わせればタダでは済まない。それこそ貧弱吸血鬼が泣いて謝ろうと許されは」

「っ! 消し炭になりたっ」

「そこまでだ」

「ひむっ!?」

 おっとと、これ以上は冗談じゃ済まないな。

 魔力を消す意味も兼ねて、俺は殺る気満々だった少女の唇に人差し指を乗せる。柔らかい唇がそっと俺の指を押し返す感触がちょっと気持ちいい。


「……成程、貴殿は魔王軍の代表に相応しいな」

「おや、頭目は多少物事の道理をわきまえているようで」

「勘違いされるな。口が達者なのはよろしいが、その弱小勢力に敗北した時の言い訳は、どうされるおつもりか」

「なっ!?」

 トッポリンキーは俺の言葉を信じられないとばかりに目をむき……。


「やれやれ、カーウ殿の苦労も察せられる。こんな部下に代理を任せねばならぬほど多忙とは」

「き、貴様っ!」

 俺がもはやこの男など眼中にないように話すと、顔を真っ赤に沸騰させそのまま手を……。

「うっ!?」

 出す、までは流石にいかなかったか。


 いつの間にか俺の隣に立っていたセサミが、眼光一つで押さえつけるようにそのリザードマンの動きを封じたのだから。


「くっ! お、覚えていろっ!」

 おいおい、見事に三下のセリフじゃないかそれ。リザードマンの男はしょうもない捨て台詞を残して、割れた客たちの間をずけずけと帰っていく。


「……いらぬ手間をかけさせたな」

「いえ、お気になさらず。これも仕事ですので」

 セサミは、ああ、これは大したものだ。

 殺気を叩きつける、なんて一言でいっても、ヒューレのようにただ単に怒りをぶつける程度では相手は止まらないのだ。

 本能に訴えかけるように、具体的に言えば、手(・)を(・)出(・)せ(・)ば(・)そ(・)の(・)腕(・)を(・)切(・)り(・)落(・)と(・)さ(・)れ(・)る(・)というような、明確なビジョンを叩きつける必要がある。

 今俺の隣で涼しい顔している美少女は、それをいともたやすくやってのけたのだ。全くもって見事な……。


「それで吸血鬼様。差し出がましいことを申すようですが」

「ん?」

「そろそろ離して差し上げては?」

 そんなセサミに感心しながら、彼女の言葉と視線で俺はヒューレを見て……。


「っ! ッ!」

「あ、ああスマン」

 俺に人差し指で唇を押さえられていた少女は、真っ赤な顔で震えていた。い、いや別に呼吸を止めてるとかそんなワケじゃないぞ? お、おいどうした?


「あっ」

 人差し指をそうして離すと、少女は名残惜しそうにあっ、なんて声を漏らすのだ。いや『あっ』ってなんだ『あっ』て。

「ま、マスター……カッコいい……」

「えっ」

「天の魔女……噂には聞いていましたが、なかなか癖の強い方のようで」

 うっとりと、今しがた俺に触れられていた唇をなぞるように、浮かせた手袋でそこを撫でるヒューレに、どこか引き気味なセサミ。


「というか吸血鬼様、先ほど買われるまで彼女と接点はなかったのでしょう? そんな短時間でよくこれだけたらしこみましたね」

「たらしこむ言うな、人聞きの悪い」

「吸血鬼様、まさかインキュバスで」

 違うわ。

 というか、いや、俺だって流石にこんな簡単に好意駄々洩れになる女の子初めてだ。いや本当に過去に接点なんてないぞ? 勿論俺はインキュバスでもない。


「な、なあミルキ・ヘーラ、ひょっとしてこれ魅惑の魔法じゃ」

「ご、御当主様……」

 何かされているのかと警戒しつつ彼女の方を向いて……おい、何でお前まで自分の唇に人差し指当ててそんな潤んだ眼をしている?


「私も……私にも」

「あっ、ずるい! マスター、もう一回……ね? もう一回」

「おい!? ちょっ、おい!?」

 そうしてとろんとした目つきの美少女二人が、俺より高い目線から唇を突き出しておねだりし始める。おおおい!? 何で!? え、何でこんな空気になった!?


 いやうん二人ともエロいし可愛いしで全然文句なんてな……。


「だああああああっ! いつまでイチャついてるんですか!」

「うおっ!」

 流石に怒られた。


「お頭がっ! 戦うっていう時に! 大事な勝負の前で!」

 いやホントスマン! ホント何でこんな空気になったんだろうな!?

 鬼娘がたまらず叫ぶのに本当に申し訳ない気分で答える俺。いやもう何ていったらいいんだよこれ。流石にミルキ・ヘーラとヒューレもバツが悪そうに……。


「というか大お頭もカッコいいけどお頭の方がカッコいいし!」

「……はあっ!? マスターの方が格好いいわよ!」

 おーい、お前達どこに行くんだー?

「美しい銀の髪に光る赤い目! 何より堂々とした佇まいに見た目よりずーっとがっしりした手! どう考えてもマスターの方が格好いい!」

「何言ってんの!? お頭は頭もよくて格好よくて強くて格好よくて、それでいて優しいのよ! お頭の方がいい男だもの!」

「ご、御当主様も優しくてっ」

 こういう時ストッパーになって欲しいミルキ・ヘーラまで参戦して、鬼娘六人とうちのサキュバスと杖の少女はギャーギャーと終わりのない戦いを繰り広げる。

 コレ、話にあげられてる本人の立場だと何も口を挟めないんだよなあ。


「相変わらず、あなたの陣営は賑やかなようで」

「……気遣い痛み入る。で」

 いい加減俺もユーニオングの方に意識を向けたい。


「どう見る、この戦い」

「あの赤褐色のオークの圧倒的優勢、以外に何かあるかとお尋ねで?」

 セサミは、俺が評価した少女はあっさりとそう告げて。


「やはり、君の眼から見ても厳しいか」

「ええ。かたや気力と力に満ち溢れたオーク、かたや張りつめた糸を必死に張り続けて立っている鬼。誰がどう見ても優劣は明らかでしょう」

 ……ああ、その通りだ。

 ミルキ・ヘーラや鬼娘の前では言えないが、それがこれから始まる戦いの現実だ。


「一方的に嬲り殺される前に、助けに入るのがよろしいかと」

「忠告は感謝する。だが俺は……できれば最後まで、あいつに戦わせてやりたいと思っている」

「……いいのですか? 新しく仲間になった者を、そんな過酷な目にあわせて」

 良くはないさ。というか今からだって大暴れしてやりたいくらいなんだ。


「助けたいのはやまやまなんだが、もう俺では、助けてやれそうもなくてな」

「……え?」

「あいつが『自分が背負いたい』というのを、聞いてしまったからな」

 囚われた恋人を救うのに誰の手も借りたくない。簡単に言ってしまえばそんな単純な事かもしれない。

 だが……いや、違うと、そうではないと、俺は知っている。

 借りたくないなんて悠長なことを考えてすらいまい。ただただ、あの男の露わになっている方の眼は、彼女を救う、ただそれだけを見つめて前に向いていた。


 その気高さに、その誰よりも強い想いに、横やりなんて入れられない。


「セサミ、君はあいつの眼を見たか」

「眼? いえ、ちゃんとは見ていませんが……あの眼帯で隠されている方は見えませんし」

「そうか……ならまだ、勝負は分からないかもな」

 俺の言葉に疑問符を浮かべるセサミに、俺は静かな確信を得る。

 少なくとも、あのオークが圧倒的優勢というのは間違っている、と。


『ではこれより、魔王軍代表、タイラントオーク! 荒野の吸血鬼代表、ユーニオング・ディアブランマ! 両者の試合を行います!』

「あの『眼』は、どうやら切り札らしいからな」

 真っ直ぐ、勝利を見つめるその瞳に。

 そして、隠された眼帯の奥の切り札に。


「いざ、尋常にぃっ!」

「あとは真っ直ぐ進むだけだ、ユーニオング」

「勝負っ!」


 その手で何もかもを、取り戻してこい!



<現在の勢力状況>

部下:古ゴート族82名、レッサーオーク51名、ギガントオーク67名、ワーウルフ21名、ワーダイル60名

従者:ベーオウ

同盟:大魔王ガルーヴェン

従属:なし

備考:第七悪魔商会と契約中





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