8章 その3
「にしても暇だな…天宮、何かやれ」
「何かって何を?」
「アレがあんだろ?」
「アレねぇ…」
明らかに乗り気ではない晴人をよそに二階堂は早くしろと言わんばかりに、急かしている。
晴人は、ズボンのポケットからハンカチを取り出した。
「ここに、タネも仕掛けもないハンカチがあります。俺がカウントしたらハンカチから鳩が出ます。三、ニ、一、はい!」
そう言って鳩が一羽出てきた。二階堂は深くため息を吐く。店内はオシャレなジャズが流れており、まったりした雰囲気に眠気が出てきた。
『ふわぁ…』
いよいよ眠くなってきたと思った時に、扉の鈴がカランカランと鳴り、サングラスをかけたモデル風の、背の高い女性が入店してきた。茶髪の長い髪を靡かせながら探偵事務所の方へ歩いてくる。その歩き方は綺麗で、女性が歩く度にほのかに良い香りがする。黒い油性マジックで、天宮探偵事務所と書かれている小さなホワイトボードの前で立ち止まり顔を覗かせた。
「おはようございます。天宮さん」
「ん、んあ…友里ちゃんおはよう」
友里と呼ばれた女性は、ソファーに座っている二階堂の隣に小さな鞄を置いた。
「よう、有間。あっちの仕事は終わったのか?」
「今日は、早番だったので。二階堂さんこそ珍しいですね」
「まあ、暇だったんでな…」
二階堂は珈琲を口にしながら答える。そしてマスターに、友里の分まで珈琲を頼んだ。友里は、ありがとうございますと言いながら、ジャケットを脱いだ。
「天宮さん達のその様子だと、今日も依頼が入っていないようですね。」
「ふふん。まあね」
何故か、そう答える晴人の言い方が誇らしげだった。それを向かいで聞いていた二階堂が呆れたようにそれを制する。
「威張って言う事かよ…」
「え?」
「なんでもない…」
二人のやり取りを慣れたように聞いていた友里が、口を開く。
「そんな天宮さん達に朗報です。実は、今日はお客様が来ています。」
友里の発言に、二人の顔色が歓喜に変わる。晴人に関しては、寝そべっていたソファーから上体を起こし、そして、友里に早く紹介しろよと言うように、その先に続くであろう言葉を待っていた。




