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7章 その5
卜部の申し出に、深春の思考が思わずフリーズした。深春の動揺をよそに卜部は続ける。
「森山さんなら、大切にして頂けそうですからね。」
「でも…卜部さんの大事な本なんじゃ…」
「ええ。勿論。ですから、タダでという訳にはいきませんね。」
「はい……」
卜部は、ニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべた。深春は、卜部の顔を見るなり財布を取り出し、中身と必死に相談していた。
「森山さんが、将来立派な絵本作家になるならという条件でお譲り致しましょう。」
「えっ…」
財布を見ていた深春が顔を上げた。
「森山さんの熱意と情熱があれば、可能でしょう。彼を、超えて下さい。」
「で、でも私っ、まだちゃんと書いたことないんです。」
「これからでも、遅くはないでしょう。貴女には時間がたっぷりあります。色々な事を経験して素敵な作家になって下さい。」
「あ、ありがとうございます…。私、どこまでやれるかわからないですけど…頑張ります!」
「ただ…出来るだけ私が生きているうちに作家デビューして頂けるとありがたいです。」
「あ、あはは…頑張りますね…。」
こうして、深春は卜部に絵本を譲って貰うことになり、晴人達にとっても深春にとっても予想外の事が、たくさんあったが何はともあれ依頼は解決できた。晴人達は、卜部の家を後にしてそれぞれの帰路に着いた。




