6章 その4
晴人は、少しドヤ顔気味に深春に言った。
深春の驚いたリアクションが、嬉しかったらしい。晴人がカードポケットに手を伸ばしカードを出そうとするが、馨がやめとけ、と言って静止した。晴人は、不満そうな顔をしてカードを元に戻した。
「ところで…一体あんたは何でこんなことをしでかしたんだ?」
馨は、煙草に火を付けて小位に尋ねた。馨の質問に対して小位は、ぽつりぽつりと動機について語り始めた。
「…俺は、昔あんたに会ったことがある。」
「な、に…?」
「あんたは、ある大賞の審査員をしていたな。…偉そうに。」
「あの時か…?」
「ああ。あんたは全く覚えちゃいなかったがな!」
「しかし、作品はたくさんある…作者も大勢いる。名前はとても覚えられない」
「あんたは、侮辱した人間の事も覚えちゃいないんだな。最低だな!」
「侮辱した…?」
「ああ!そうだよ!そして、あんたはあの時、自ら応募作品を批評をするという催しをした。だが、あんたはあの時、俺の作品に才能の欠片も感じられない。文章も稚拙で幼くて駄文の宝庫だと、子供の日記の方がまだ話がきちんと出来ている、早々に作家を諦めた方が本人の将来の為だ、とまで言い放ちやがった!…俺は、何度も何度も作品を出版社に持ち込んだり、大賞に応募したり…けど、全然どこも俺を認めやしなかった!どいつもこいつも、俺の作品をこき下ろして好き放題言って、バカにしやがった。オマケにあんたの暴言だ!…許せるわけがない!絶対に!」
「それは、後進育成の発奮の為に…」
「何が発奮だ!何が後進育成だ!ただの憂さ晴らしじゃないか…俺は、打ちのめされたよ…。俺の全て否定された気分になった。何もかも終わったんだ!」
小位の、作家というものにかける情熱と夢は晴人達は理解できた。だが、批評を受けズタボロに言われたからといって、卜部を逆恨みする身勝手な理由が許せなかった。馨は煙草を吸いながら黙って話を聞いていたが、小位に対しての苛立ちは隠せないようだった。自然と本数が増えてきていた。
「お話は、わかりました。貴方の心情もお察しします。しかし、だからと言ってこんなことをしてもいいという理由にはなりません。貴方は自分自身の手で、夢を遠ざけてしまったんです。」
友里は卜部の縄をほどきながら小位に言った。表情には怒りの色がみえていた。いつもの通り、言い方はクールだが声色にも怒りがこもっていた。しばらくして、縄をほどき終えると床へと放り捨てた。卜部はすみません、と言って友里に礼を言って、立ち上がった。
「君は、そこまで思い詰めていたのか?俺が、君を追い詰めてしまったんだな…」
「……」
小位は、卜部の問いに答えないまま。呆然と立ち尽くしていた。小位からは、さっきまでの怒りも悲しみが全て消え失せてしまったようだった。ただただ、人形のように立ち尽くしていた。深春は、小位を悲しそうに見つめるしがなかった。
やがて、深春が通報した警察が到着した。小位はすぐに警官に捕まった。警官達に連れられてパトカーの所まで連れてこられた。
「小位君!」
卜部は、警官に捕まれたままガックリと下を向いている小位に声をかけた。小位は、ゆっくりと顔を上げて卜部の方を見た。




