6章 その3
晴人は、慎重に話をしていた。一つ間違えば小位が、卜部を刺し殺すかも知れない。そして、小位には、それを実行するだけの勢いがある。寝室には、気持ちの悪い緊張感が漂っていた。
しかし、馨はおもむろに煙草とライターを取り出すと、火をつけて吸い始めた。そして、いつの間にか灰皿まで、用意している。
「フー…」
馨は、煙草を吸い一息つく。部屋の中に煙草の煙が漂う。友里と深春は、煙たそうに顔を歪めて手で、煙を仰いだ。窓を閉め切っているため部屋の中が、真っ白になっていた。
「おい、煙草を吸うな…」
「あん?あんた煙草嫌いか?」
「うるせえ!ぶっ殺すぞ!」
「フー…怒りっぽい奴だな。」
「早く煙草を捨てろ!不愉快だ!」
「わかったよ…」
馨は、不満そうに煙草を口から離すと小位の元へ投げた。小位は、飛んできた煙草に驚いて身体を捩り、一瞬目をつぶった。
「天宮、今だ!」
「おう!」
晴人は、カードを取り出す。そのカードはいつか深春に見せた色と同じ白いカードだ。カードには、魔法陣が描かれており、晴人はカードに意識を集中させた。
すると、カードに描かれている魔法陣が淡く光りはじめた。
《置換=リプレース》
晴人が唱えると、小位が持っていた出刃包丁が花束に変わった。そして、出刃包丁は花束が入っていた花瓶の中に入り、中身が入れ替わった。馨は、それに乗じて混乱している小位を押さえつけベッドに倒した。その隙に、友里が縛られている卜部の元に行き、縄を解いた。友里は、卜部の全身を確認し、怪我がない事を確認すると、安堵の表情を浮かべた。そして、その場に立ち尽くしていた深春に、警察を呼ぶように指示を出した。
「くっ…くそっ」
「念のためあんたを拘束するぜ。」
《拘束=リストリクション》
「ぐっ…」
「これであんたは動けないはずだ。」
晴人が、再び唱えると魔法陣から、ロープが現れひとりでに小位の手足を縛った。晴人が持っていた真っ白になったカードはやがて、砂のようにサラサラと消えていった。
「き、消えた…」
深春は、驚きを隠せず少し興奮気味に言った。かつて、深春に見せた微妙なケーキの時とは違い、出刃包丁を花束に変えたり、何も無いところから、縄を出して縛り上げるなど、説明のつかない事だらけで、正真正銘の魔法なんだと深春は、否が応でも納得させられた。天宮晴人という探偵は、本当に魔法使いだった。
「そ。魔法を使うと消えてなくなるんだ。」




