誘い惑わす魅惑の舞
ディアが護ってくれていたとはいえ、ナイフで刺された衝撃は、モロに俺の腹部へと届いていた。
手応えが無さすぎると不思議に思うかなと考えたのだが、そもそもとして血が出てない。まぁ、落ちてったんだし死ぬよな。と、思ってくれたのなら、それはそれでやりやすい。
「エバノ様!聞いているのですか!?私が話しているのですから、ちゃんと聞いてもらわないと困ります!!」
「まぁまぁ、クローフィ様。陛下も考えがあってのことなのですから」
そして、クローフィに怒られながらメラニーに回復してもらっているわけだが、クローフィが激おこプンプン丸状態なのである。
メラニーも彼女を宥めようととしているのだが、あまり効果は期待出来ない。
「首を狙われたらどうなされるつもりだったんですか!?」
「それは流石に避ける。んで、ふらついたフリをして落ちる。何処にも問題は」
「そういう話しをしているのではありません!!」
あー、ダメだ。これでは何も聞いてもらえないだろう。
クローフィに意見出来るとすれば、ギフトかマインしか居ない。でもギフトも怒るし、マインは呼べないしで八方塞がりだ。
守護者は基本的に怒らないからなぁ。対処法なんて知らないし。
「陛下、一先ずは治療させて頂きましたけど、本日は安静にお願い致します」
「・・・善処しよう」
アマンダ殿ももう少しで静かになるし、これ以上動く事はないはずだ。さて、彼女は何処にいるのか。
クローフィの声を右から左に流しつつ状況を探れば、アマンダ殿を咥えたフロウが見えた。それと、何故か『城』へと走るチルアーマー達の姿。
「誰かブリッツに連絡したのか?チルアーマー達が『城』へと走ってきてるんだが」
「私は存じ上げませんね」
「話しを逸らさないで下さい!・・・私も心当たりはありせんけど」
チルアーマーは『二階層』の守護者だ。俺かブリッツが動かさない限り地上に出てくる事は無いはずだが・・・。
2人にも心当たりは無いと言うし。ダンジョンが指示を出した?
そんな事を考えていると、アマンダ殿が『謁見の間』に運ばれてきた。
クローフィ、メラニーは俺の背後に立ち、何時でも動ける様にしている。
クロウからスナイプアーマーへと案内役を代えたアマンダ殿。彼女は玉座に座る俺の姿を見ると、特に驚くことも無く、俺に向かって笑顔を作った。
「先程ぶりですね、エバノ様」
「そうですね。・・・アマンダ殿、私は貴女に尋ねたい事が2つ出来たのですが、お聞きしても?」
「ええ、構いませんよ。もちろん、それに答えるかは別ですよね?」
可愛らしく首を傾げ、性懲りも無く挑発をしてくるアマンダ殿。
素直に答えないのは俺だって分かっているから、彼女の返答に意味はない。聞いてみただけ、ってやつだ。
にしても怯えていないな。彼女は自分が死なないと思ってるんじゃないだろうか。実際に死にはしないんだけどな。
「暗殺を頼んだ人物。そしてその動機を教えてもらえませんか」
「エバノ様をよく思っていない人間も居るという事ですよ」
知ってたが、答える気は無し、と。んなもん俺だって分かってるさ。
早い気もするけどクローフィの出番かな。
「あぁ、そうだ1つ聞きたかったんだけど。やっぱり血が出ないのって不自然か?」
「フフッ、口調が素に戻ってますよ?・・・それに、」
彼女は1つ区切って、俺を刺したナイフを取り出した。
「先が曲がってるんですもの。殺したなんて思えません」
「そりゃそうだな。次は気を付けるよ。クローフィ」
「畏まりました」
ディアの防御力は流石だ。内部へのダメージは入りまくりだが。
でもナイフが曲がるってどうよ。
今のアマンダ殿との会話はこれで終わり。
ここからはクローフィの眷属として話しを聞くとしよう。
「わたしに傷をつけようものなら軍が動きますよ?」
彼女の声に、俺は沈黙を持って返す。
どうやら国が後ろにいると思ってそんな態度をとっているようだけど、甘いな。
王女とか女性ヒーローが注意すべき3大展開を知らない様だ。
1つ、快楽堕ち
1つ、闇堕ち
1つ、催眠術
この3つは決して欠かせない(俺調べ)。
他国、または敵国に行った時は最低でもこの3つは注意すべきだ。
スナイプアーマーが後ろからアマンダ殿の顎と肩を抑え、クローフィが『吸血』しやすいように場を整える。
そういえばクローフィのちゃんとした『吸血』は初めて見るな。いや、この場合は『従者創造』か。
「覚悟は出来ていますか?」
「王族として生まれた身。国の為に働いて死ねるというのなら本望です」
静かになった『謁見の間』に、クローフィが床を蹴る音だけが響く。
悪いな、姫さん。その想いは届かない。
手を伸ばせば届く距離まで両者の間は縮まり、いよいよ『吸血』が行われようという時。
俺の目には後ろから手が宛てがわれ、二の腕で耳が塞がれる。こんな事が出来るのは、メラニーだけだ。
(絶賛、喘ぎ中ですからしばしご辛抱を)
(いや、聞いてもいいだろ?)
(それにしてもイイ声で鳴きますね)
(一瞬でいいんで聞かせて貰えないでしょうか!?)
そんな心の叫びも虚しく、『吸血』、『従者創造』は滞りなく行われた。
俺の頭からメラニーの腕が外れた。瞬きを何度かしてピントを合わせれば、そこには『吸血』前と同じ様にアマンダ殿が居た。
クローフィが失敗するなんて考えられないので、従者にしても外見に変化は起きないと考えるのが妥当か。
「成功したのか?見た目に変化は無いみたいだが」
「繋がりを感じますから成功でしょう。さ、エバノ様にご挨拶を」
クローフィがアマンダ殿の肩に手を置いて挨拶を促すと、彼女は恭しく挨拶の言葉を口にした。
「まず初めに、数多くの無礼、誠に申し訳ありませんでした。わたしはクローフィ様の手により従者となりました。今後はエバノ様の為に身を粉にして働かせていただきます」
へぇー、よく出来てるじゃないか。
俺との念話は出来ないみたいだけど、有用性は高い。
鑑定したら種族の所に『従者』と書かれていたので信用も出来そうだ。
「クローフィ、お前とアマンダ殿で念話は可能か?」
「長く複雑なものは難しいですけど、短いものなら可能です」
予め報告方法を決めておけば大丈夫そうだな。
従者となったアマンダ殿だが、彼女には普段通りの生活をしてもらおうと思う。王族は情報を集めるのには事欠かない存在だ。俺達の所に縛ってしまうよりかは自由にさせた方がいい。
それと、種族を見られたら困るので、『偽装』の効果が付いたアクセサリーでも渡しておくとしよう。
「アマンダ殿から必要な情報を集めて後で報告するようにしてくれ」
「エバノ様はどちらに」
「迎えが来たんでな。少し暇をもらう」
俺はレイの舞踏の時間が迫っているので報告はあとだ。
城壁に仮面を付けたレイの守護者が馬を連れて待っている。
そういえば、チルアーマーはどうしてココに来たんだ?
『城』は人型の守護者が少ないから助かるんだが。
□
『金酉宮』の庭に到着すると、丁度レイの舞踏が始まるころだった。
レイの左右には、両手に短冊形の剣を持った人型の守護者も居る。その守護者達は波を模しているのだろう水色のフリルが付いた白色のドレスを着ていて、観客に何を表現したいのかを明確に伝えていた。
舞踏の主役となるレイは、普段から着ている紅い服に幾らか手を施した物を着ていた。両肩、腰から伸びる、クラゲの脚の様な多数の布はどんな意味があるのか。その答えは、舞踏が始まると直ぐに分かった。
ステージの両端に居る守護者が波だとすれば、レイは太陽。
軽快なステップで縦横無尽に舞台を駆け、舞う。その姿は暖かい陽気。
足元に濡れた紙を置いても破れないのでは、と思わせる様にその場で回転すれば、雲一つない真昼の太陽が現れる。
波も太陽を引き立てる。二刀を用いての剣舞は次第に激しさを増し、時には入り乱れ、波同士がぶつかれば、刃を打ち付けあう。
舞台に掲げられた松明が3人を照らしす。原初的な炎の光。それははためく衣服に反射し、臨場感を高めた。
ふと気がつけば舞踏は終わっていて、会場には『金酉宮』を埋め尽くさんばかりの拍手の音が響いていた。
俺も無我夢中で称賛の音を出していた。レイ達がステージ上から姿を消しても拍手は鳴り止むことはなかった。
会場の撤収も終わり、約束通りレイと話す時間を作った。
あの後、人払いを頼んでおいたギフトに案内されたアルト殿に賛辞の言葉をいただきもした。その他にも色々と世間話しをしたのだが、割愛さてもらう。
「旦那様、お待たせしました」
どうやらレイも来たようだ。
それじゃあ今日の説明を始めようか。




