走って飛ぶ黒い森
レクタングル(剣 : 8 魔 : 6)
ワイアット・ウィル・キャメロン・レクタングル
種族 : 半妖 (ドワーフと人のハーフ)
「あれっ、やっぱりドワーフか」
メラニーから手渡された手のひらサイズの紙を見ていると、ワイアット殿の種族が分かった。トゥイ殿との仲の悪さもコレが原因かな?
国の名前の横に書いてある数字は、護衛の中で熟練度が一番高い人物の技能の値だ。国の強さの目安を決めるためにメラニーに見てもらった。
オーラルフット(剣 : 6 魔 : 7)
ギャレット・ルイーナ・ベスティア・オーラルフット
・苦労人
カルラ・ルイーナ・ベスティア・オーラルフット
・馬の敵
・自由人
オーラルフットの強さはそこそこと言ったところか。
それにしても人物のメモが酷い。確かに的を射ているとは思うぞ?・・・でも『馬の敵』は無いだろ。笑いを抑える俺の身にもなってくれ。
ノーマリー(剣 : 8 魔 : 7)
アルト・プリンケプス・ミニマ・ノーマリー
・お隣さん
スタージュ・プリンケプス・ミニマ・ノーマリー
親族枠で秘書を同行。
今までの中だとノーマリーが1番強い。『剣術』の最高熟練度は8。コレは俺が行軍中に見たクレイドル殿の熟練度と変わらないので、彼が1番強いのだろう。
親族枠で秘書か・・・。てっきりアルト殿の妻かと思っていたぞ。血縁者が多いが故の強みだな。
ルーマンド(剣 : 10 魔 : 10)
トゥイ
種族 : 妖精
話し通り、種族が人魚も確認。対処可と判断。
ルーマンドの代表の名前は、トゥイの後にまだ続くものがあるのかと思っていたが、違ったみたいだ。
人魚は勿論、『剣術』、『魔法』の熟練度10の人物が居る事にも注意しておかなければいかない。流石は長寿種と言ったところだな。これならオークの群れに襲われても対処出来るだろう。
親善試合は余裕だと思っいたけど、エルフが1番の障害になるとは思わなかった。
ラフライン(槍 : 9 魔 : 7)
ジャンナ・ラフライン
・『槍術』9
・魔法も心得あり
護衛に妹
まぁ、『剣術』ばかりが1番に高いってわけでは無いよな。四足を生かした突進突きが強力なだと言うのは分かるし、『槍術』が高いのも納得だ。伊達に国を纏めあげたわけでは無い、か。
やっぱり、話しに行った時にワタワタしてた子がジャンナ殿の妹だったようだ。性格は似ていないが顔は似てたしな。
グラキエス(剣 : 7 魔 : 10)
ルーチェ・クルイロー
・『魔法』10
確か、彼女の魔法は『聖火魔法』だったか。技能が統合された事で生まれた魔法だ。
グラキエスに関しては特に何も言う必要は無いかな。
カンペはココまでにして俺も動き出すとしよう。
□
「あぁ、もう駄目だ。死ぬ」
場所は変わって、立食パーティ会場から行けるバルコニーに居る。いや、ココは1階だからテラスと言うんだったか。
「お疲れ様でしたね」
少し離れた所からレイの声が聞こえる。
テラスで夜風に当たりながら酒気と緊張を抜いて行く。
俺が話したい事は全て話し終わり、少し待っても誰も来なかったのでこうして逃げてきているのだ。
今現在、テラスには俺以外にも人が居る。各国の護衛達が交代で休むために来ていたり、話し合いを避けるためにジャンナ殿が避難していたりする。
それなりの広さがあるので迷惑は掛けないと思うが、一応気にかけておこう。
「あと何時間あるんだ?もう10時を過ぎてるんだが」
「かれこれ始まって5時間は経ってますから、そう思うのも当然ですね」
数時間前にアクルから「部屋に帰る」と念話が入ったのが懐かしい。
肉体面では余裕があるが、精神面で休ませてもらいたい。
今日話した内容としてはこうだ。
カルラ王妃が黒幕だと分かったので、ギャレット殿とその件について話の内容を詰めていった。予め不問にすると俺が伝えているので、会話はスムーズに進んだ。ギャレット殿の雰囲気から言わせてもらうと離婚しそうなんだけど、大丈夫か?
ワイアット殿が招待の手紙を渡した時にお返しとして俺が贈った日本酒。ソレをくれないかという話し。酒の銘なんて分からないが、いくらでも創れるので了承しておいた。
トゥイ殿とは人魚の事について話した。陸に出てきても良いのか。とか、人魚を会話で出すまでの彼側の理想ムーブについてだ。基本的には、過去に経験のあるルーチェが行うので、俺はそのサポートに回らせてもらう。
ジャンナ殿とは新興国仲間として文のやり取りをすると約束を取り付けた。ハッキリ言うと、接点がなさ過ぎて話すことなど無いが、俺がモフモフしたいので頑張った。もちろん国同士での正式なやり取りであり、個人的なものじゃない。・・・個人的なものじゃない。
コレからは上記の話しも絡んでくる話しになる。ジャンナ殿と文のやり取りをするに当たり、邪魔になって来るのが『果てしない渓谷』だ。コイツを気軽に越えられない限り、ノーマリー王国を経由する必要がある。
そこで、ルーチェに『果てしない渓谷』に街道を創りたいんだがどうしようか、という話しを持ち込んだのだ。それに食いついて来たのがアルト殿で、ノーマリー王国の物資の流通を良くしようと勇んで会話に飛び込んできた。
ダンジョンの力を借りれば一瞬で更地に出来るものの、『3国共同事業』と言う肩書きが大事らしく、人力で行われることが決まった。
後は各国が受け持つ仕事を決めたり、街道は誰が維持するのか等の細かい話しをしていくだけの楽な話し合いとなった。
3人で話しをしていたと思えば、ルーチェにはフェーデが、アルト殿には親族枠で連れてきていた秘書も混ざっていたのには驚いた。俺達からはレイとメラニーが会話に参加している。
このような話し合いを経てテラスで死んでる俺が出来上がったのである。
そりゃあ、国の利益が掛かった大切な話しを5時間も続けていれば疲れもするさ。
「随分とお疲れのようだな」
「優秀な配下が捕まえて離さないものですから」
「ハハハっ、そうか、そうか」
話し掛けてきたのは、テラスに逃げていたジャンナ殿だ。
疲れから自然と嫌味が出てきてヒヤッとしたものの、彼女は笑っていた。
「あ、いや、失言だ。悪かった。忘れてくれ」
「随分と話し込んでいた様だし、お疲れ様だな」
話していると分かるのだが、ジャンナ殿も随分と疲れている様に見える。夜風に当たってテンションが落ちているのか、ただ単に眠いだけなのかは分からないけど、元気が無いような気がする。
「ジャンナ殿もお疲れ様です。まだパーティーは終わらないみたいですけどね」
「ああ、ありがとう。所で、先程は熱烈なアプローチ感謝する。私はこういう所に慣れていないのでな、多少強引にでも輪に入れてもらえるのは嬉しい」
やはり会場に居た彼女とは雰囲気が違う。
慣れない環境で虚勢でも作っていたんじゃないか?ヤケ食いしてたし。
夜が人をそうさせるのさ・・・。とか言ってみたいが、アレはイケメンにだけ許された特権だしな。
「今は落ち着いた雰囲気ですね。そちらの方が各国の方々も話しやすいかと思いますよ」
「舐められまいと思って行動した結果だ。後悔はせんさ。1国だけでも繋がりが出来たのは大きい」
1国?シュヴァルツヴァルトだけか?色々と話しをしている姿は見たのだがどうしたのか。
「色々と話しをしているようでしたけど?」
「上手く話しを纏められて逃げられたよ。我が国は纏まって時間が経っていない。私は経済面に弱い上に、周りは自国を回すのに手一杯だ。こうして呼ばれたものの、話し合いの席にすら付けていないと実感したのさ」
俺が異様なだけで、建国したてはこんものなのか。
純粋に、何か彼女の力になってあげたいと思う。だけど、ぬるま湯に浸かっていた俺にはどうすれば良いのか分からない。
貿易をして貰えるようにするにはどうしたら良いのか。そんなもの俺だって分からない。考えてみれば、住民達が何を出来るのかを俺は詳しく聞かなかった。
・・・これじゃあ王失格だよな。上ばかり向いていて下にいる国民の方を見ていなかったんだから。
「では、2人で聞きに行きましょう」
「ん?・・・何を聞くと?」
「経済の回し方ですよ。今日はもうお開きモードみたいなので無理ですけど、明日にでも行きませんか?」
「そう簡単に教えてくれるものとは思えないが」
「丁度、弱みを握っている人間が、優秀な人物だと言われているので彼の所に行きましょう」
そう。オーラルフット国王、ギャレット殿だ。
カルラ王妃の借りはもう少し握っておきたかったのが本心ではあるが、経済が回っていない今の状況に危機感を覚えたら話しは変わってくる。
彼なら快く教えてくれるはずだ。