本当の心と人魚姫
夜間の襲撃の黒幕がカルラ王妃だと分かって少しした頃、ルーマンドの代表が入ってきた。会場の中にいて初めて分かったのだが、何処何処の誰がやって来たと案内が会場内に聞こえるような声で言っていたのだ。
俺の時も言われたのだろうか。緊張しててそれどころじゃなかったからな。
扉が開かれ、入ってきたルーマンドの代表は茶色と黒色が入り乱れたサラッサラの髪の青年だ。1歩歩く度に髪の間から見える特徴的な耳を見れば、誰でもその正体に行き着くだろう。
「エルフか」
「エルフですか・・・?」
レイが聞いてくる。俺も詳しい事は分からないが出来る範囲で説明させて貰おう。
「彼等は男女ともに基本的に容姿端麗で、もの凄い長寿。年老いても容姿は殆ど変わらない。魔法の力が強い事が多い、かな。あくまでも俺の考えだが、こんな感じだ」
あとは、オークに弱いとか。・・・いや、コレは違うな。うん。
あくまでも俺の意見ではあるものの、あながち外れてはいないだろう。
ルーマンドの代表も俺の中のエルフ象の例に漏れず美青年だった。
護衛する側に女性が居るのが気になるな。それらしく身なりや装備を整えてはいるが、どこか不慣れな雰囲気を感じる。それに、本来護衛する立場のはずなのに集団の真ん中に居るのも気になる。
「彼女・・・、不自然ですね」
「そうだな、何か隠してるのは確実だろう。一応注意しておこう」
女性がいる所まで領域を広げて鑑定を使ってもいいんだけど、誰かに変に感づかれて騒がれるのもアレだしな。
ルーマンドの代表は、まず1番にルーチェに挨拶に行った。
予想だが、その次はワイアット殿 (レクタングル王国)の所に行くのだろう。ルーマンドは以前から各国と面識がある様だし俺の所は1番最後かな?
代表がルーチェと話し終えて直ぐにノーマリー王国の集団がやって来た。
ノーマリー王国の国王とは以前から書面でのやり取りをしている。ノーマリーと取引を始めた最初の頃や、第一王子がウチに来た時の事だ。
集団の中には出来れば見たくないと思っていた顔もあり、自然な風を装ってそっと顔を逸らした。
「やっぱり来てるのか第一王子・・・」
「あの勝気そうな少年がそうなのですか?」
「あぁ、名はスタージュ・プリンケプス・ミニマ・ノーマリーだ。恐らくはその横の似たような顔つきの男性が国王だろうな」
スタージュ王子の横には、彼とよく似た顔立ちの男性が立っていた。王子と似ていると言っても、やはり年は感じてしまう。金髪の長髪は毛先の色が落ちているし、王子と違って落ち着いた印象を受ける。
1番違う点と言えばお腹周りだろうか。スラッとしている王子とは裏腹に、机仕事に掛かりきりなのか、お腹は少しふくよかになっている。
あとは・・・、王の方が少し彫りが濃い。身長もスタージュ王子の方がだいぶ低いな。まぁ、彼もこらから伸びるだろう。
王の名前はアルマ・プリンケプス・ミニマ・ノーマリー。
書面だけとは言え、互いの性格がある程度掴めるぐらいには知った中だ。我が国の最初の友好国として是非とも挨拶しておきたい。
彼等もグラキエス、レクタングル、オーラルフット、ルーマンドとそれぞれ付き合いがあるだろうから順番的には遅くなってしまうのだろう。緊張も相まって、俺から話し掛けたいオーラが出ていないか心配だ。
「陛下、ルーマンドの代表がお近づきになっております」
「思ったより早いな」
「ギャレット殿を飛ばして私共の方へ来ている様です」
じゃあグラキエス、レクタングルと来て俺達か。
ギャレット殿、飛ばされたが大丈夫か?順番を飛ばされた理由までは計り兼ねるが、顔見知りだろうに。
「シュヴァルツヴァルトのエバノ殿ですね」
「ええ、如何にも。初めまして、ルーマンドの代表殿」
「申し訳ない、名乗っていませんでしたね。私の名はトゥイと言います」
もしかしたら彼が今日話してきた中で1番話しやすいかもしれない。
コレがイケメソのオーラ(違う)。
そんな遊びはさて置いて、話しを進めていくと、彼らがオーラルフットを後回しにした理由を聞くことが出来た。
「教国を中心に考えるとルーマンドは西、オーラルフットは東と、正反対でしてね。そこまで恩恵も受けていませんし。それに、今回はエバノ殿にお頼みしたいことがありまして」
「頼み、とは」
トゥイは周囲を1度確認して、俺にギリギリ聞こえるような声で話し出した。
「実はルーマンドは人魚の方達と交友があるのですが、各国が協議して決めた人魚を護るための法が今年で切れてしまうのです。ですので・・・」
「会議で周囲に認めさせる様に働きかけを?」
「いえ、その逆で、何もしないでいただきたいのです」
どういう事だ。普通なら何か手を回す場面だと思ったのだが。
グラキエス、ノーマリー、レクタングル、オーラルフット、ルーマンド、ラフライン、シュヴァルツヴァルト。
会議をするのはこの7国。仮にシュヴァルツヴァルトが人魚を護るために動けば、グラキエス、ルーマンド、シュヴァルツヴァルトととなり、あと1カ国で可決させる事が出来る。
うん、そこまで難しくないように思う。
「いったいどうしてそんな事を?」
「口約束では不安が残るからです。人魚の肉にはとても不死性とは言えませんが、寿命を伸ばす効果があります。ですので法が整備されるまではそれなりの数の冒険者が来ていました。・・・話しを戻しますが、護衛の中に人魚の者が居ます。その人物の声を使って誘導するつもりです」
そういう理由があるなら是非とも協力させてもらいたい。
トゥイが俺の所に来たのも、ルーチェが何か言ったのだろうし、手伝うのも悪くない。
支配の権能持ちが逆に支配されるだなんて、かなりの力量差が無いと起こらないからな。俺を味方に付けとかないと作戦として成り立たないのだろう。
「私共は構いませんよ」
「そうでしたか、感謝します。以前はルーチェ殿が技能を使って下さったので上手く行きましたが、今回も大丈夫そうです」
「ええ、そうですね」
果たして以前とは何時だろうか。気になってくるルーチェの年齢問題。話し相手がエルフなのも時間経過が気になる原因の1つでもある。
人魚を護るための法が試験的なもので、ここ数年のうちの話しなら納得出来るのだが。
売れ残ってると話しは聞くが、それはこの星での話しであって実際はそんなに年をとってるとは思わないんだけどな。どうなんだろうか。
トゥイは俺と話し終えるとオーラルフットの方へと歩いていった。
ノーマリーのアルト王は未だにルーチェと話しているので少し休めそうだ。
「トゥイは結構急ぎ足で挨拶してるのか?ノーマリーと早さが全然違う。見とけば良かったな・・・」
「ワイアット殿とは2,3言話しただけで終わってましたよ」
「ふーん。仲はそんなに良くないのか」
アルト殿の話しが長いわけじゃなかったんだな。
仲が悪い原因とは何だろうか。教国の西にルーマンド、その下にレクタングル、と、隣国だから色々問題を抱えているのか?
エルフと仲の悪い種族となると、オークとドワーフ?ワイアット殿は確かに身長が低いしヒゲも豊かだ。彼がドワーフだとすればこの仮定もシックリくるんだが。
アルト殿達、ノーマリーの集団は
グラキエス、レクタングル、オーラルフット、ルーマンドの順番で挨拶を済まし、俺達の前へとやって来た。
「挨拶が遅れてしまったが、エバノ殿、初めましてだな」
「会うのは初めてになりますね、アルト殿」
勝気な表情の王子を視界に入れつつ、アルト殿と握手をする。
彼の手は大きく、デコボコの手だった。見えはしなかったが、剣だこもあった。アルト殿その者を表したかの様な手だ。
「コチラは妻のレイです」
「あぁ、彼女についてはパペルから聞き及んでいるよ。噂以上に綺麗じゃないか」
「ありがとうございます。そう言って頂けると私も鼻が高いですね」
世間話を続けるが、雰囲気は概ね良好だ。
話していると俺にも余裕が出てきたみたいで視界が広がるのが分かる。護衛にクレイドル殿が居るのも今気づいたしな。
「戦争終了のゴタゴタも終わったし、来週からシュヴァルツヴァルトに兵を送れそうだ」
「訓練の事ですね。私共でもそのように用意しておきましょう」
随分と間が空いてしまったが、2カ国間の軍事練習も再開されることになった。訓練の様子を見ているのが個人的な楽しみだったのでコレは嬉しい申し出だ。
その後は何事も無く会話が終わったので、特筆するようなことはない。
会場に来ている各国の王や代表。それらが挨拶し終えると、頃合を見ていたのだろうルーチェが会場の中央にやってきて全員に聞こえるように声を出した。
「本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます。この食事会はお集まりいただいた各国同士の親睦を深める目的の元、開催させて頂きました。これを機に普段話さないような方々とも交友関係を築いて頂ければ幸いです」
軽く一礼をして元の位置に帰る彼女。
ようやく前哨戦が始まったと言うのに、俺はもうお疲れモードなんだが・・・。
「陛下、『看破』の結果を纏めましたので目を通してください」
「ああ・・・」
メラニーから『看破』の情報が書かれた紙を受け取り、気合いを入れ直す。
さて、まずはどう出るか。




