国を回す為に
ジャンナ殿と話したすぐ後、立食パーティは終了した。
そして今日は騎士同士の親善試合が行われる日だ。
早朝から各国の騎士達は解放されている訓練場に出向き、身体を暖める為に剣や槍を手に取って調子を確認している。
朝食を食べるまでにはブリッツ達も帰っきた。レイの守護者達も出ていた様で、顔に前髪を張り付かせている。
朝食は事前に幾つかコースの中から選ぶようになっている。俺が選んだのはサンドイッチとスープのセット。レイも同じ物を頼み、守護者達はオートミールやらサラダやら、と好きな物を頼んでいる。
ルーンフェンサーはどう食べるのかを見てみたかったのだが、俺の隣の部屋で食事を取ったので確認は出来なかった。予測だけど、兜を外して鎧に流し込んでいるのでは無いだろうか。・・・流石にないか。鎧の中は普通に空洞になっているのを弓を創った時に確認しているしな。
朝食を取り終えると、訓練場へと移動する。朝食を終えてから全員が集まるまでがおおよその練習時間となるからだ。
「体調はどうだ?」
「最高ですね。負ける気はありませんよ」
ブリッツの様子を伺ってみると、物凄い自信に満ちた返事が帰ってきた。
守護者はその性質上、常時一定以上のパフォーマンスが出来るようになっている。要は、戦闘前に腹を下さないし、食後に運動しても脇腹は痛くならないという事だ。
どんな戦いをするのか楽しみだな。
アバビム攻略時に言っていたのだが、俺がブリッツを創造する時に願ったモノとは、リーダーシップや周りをよく見る事らしい。となれば、各国の1番強いであろう騎士達を見た今は、攻勢に出ようとしているのではないか。ダンジョン内では大人しいブリッツの暴れっぷりが見れるとなれば自然と頬も緩むものだ。
ブリッツが柔軟を始めるのを横目に、昨日の事を思い出す。
「経済の回し方ですよ。今日はもうお開きモードみたいなので無理ですけど、明日にでも行きませんか?」
ジャンナ殿にそう言ったものの、俺自身どうしてそんな事を言ったのか分からない。ただあの場の雰囲気に流されたのかもしれないし、他に何か理由があるのかもしれない。
実際、話しを聞いてシュヴァルツヴァルトの経済が回っていない事に気付けたのは、俺にとっては喜ばしい事だ。
ソレを思えば理由はなんだっていいんじゃないだろうか。決して獣人をモフモフしたいなどという思惑があるわけではない。
今のシュヴァルツヴァルトは農村以下だ。物々交換で全て賄うことができ、不毛な争いが起きることも無いのだから平和なのは当たり前だ。
だが、国として見ればどうだろうか。一見温和な住民達が重力を無視した夢のような国に住んでいる。付け入る隙があると思うのでは無いか?
お金の流れなど、小学生、中学生で習うような問題だ。俺だって理解しているつもりである。しかし、国を創るとは思ったよりも難しい。
まず、シュヴァルツヴァルト国内でお金を使い方を学ばせる。
そして次に、創ったお金を各国が認め、他国でも使えるようにする必要がある。
そこからシュヴァルツヴァルト内にあるもの、例えば野菜が物凄く美味しいと噂を流せば商人が集まり、お金が外から入ってくる。
ざっと流れを考えただけでも、実行してから実を結ぶのに時間が掛かるのが分かる。
住人達は元はアバビムのものとはいえ守護者だ。必要最低限の知識は有していると信じるならば、お金は直ぐにシュヴァルツヴァルト内で普及するだろう。
甘い考えかもしれないが、お金は価値が認められれば直ぐに認められると思う。俺(国王)が自由に創れると言うのが問題なので、何かを売って他国からお金を得るのが1番早いかもしれない。
何かを売るとしても、今現在シュヴァルツヴァルトに価値のあるものは少ない。国中探してもあるのは野菜だけだ。
アバビムは住人達に何もしなくても食べていけるという環境を作ってしまった。確かに彼が言うように、偽りでも楽園だったのかもしれない。
徴兵だけは行っていたようだが、訓練と実戦は違う。蚕が人間に飼われる中で能力を失った様に、敵が現れない長年の楽園生活の中で危機感が失われ、敵が現れた際に対処が遅れる。砦に篭っていても空から襲われるのだ、その恐怖は計り知れない。
俺が思い描く、堕落した貴族そのものである。
話しが随分と逸れてしまったので元に戻すと、手に職をつけた人物が居ないのである。
衣食住。全てが与えられるのだ、働く必要など無く、誰も咎めない。完璧なニートの出来上がりだ。
そんな中で農業を始めたばかりである。農村以下、開拓村レベルなのだ。我が国は。
「帰ったら守護者会議だな」
「・・・?」
俺の呟きに隣に居るレイが首を傾げる。
それに何でもないと返し、少し考えて彼女にも守護者会議に参加してもらおうと考えた。レイも俺と一緒に街を創った人物だ。一緒に発展させていこう。
ブリッツをみると、準備運動は終わった様で今は鎧を着始めていた。以前まで武者鎧を着ていたのだが、アーマー系の守護者が増えるにつれて違和感を覚えるようになった俺によって西洋鎧に変えられている。
ルーチェに贈った、ヴェルジェント鉱石で造られた鎧と同じ要領で俺が自作した。
以前から変更した点は、胸の辺りに閃光を模した絵を入れたのと、ヴェルジェント鉱石の量を減らしたことだ。
閃光の絵に大した意味は無い。ブリッツの鎧だという印だ。
ヴェルジェント鉱石は希少な鉱石らしいので使用量を抑え、その分、鎧を軽量化してある。
鎧の下には鎖帷子の服も着けている。何でも、実戦と同じ様な状況で戦うことに意味があるらしい。
ちなみに、護身武器以外の武器防具類は全てメラニーが『空間魔法』で管理している。
オーラルフット、ノーマリー、ラフラインと、ボチボチ各国の騎士団も準備を進めて行っているのが見えた。
今いない国は、朝の時間に長く身体を動かして朝食を遅めに取っているみたいだ。場所の取り合いが起こらないようにそれぞれの国が気を付けているのが分かる。
「ジャンナ殿の所へ行ってくる」
「私も行きます。暇ですし」
昨日の話しをしに行こうとジャンナ殿の元へ行くと言うと、レイも付いてくると答えた。
・・・最後の一言は聞かなかったことにしよう。
俺達が近付いてきたのがジャンナ殿にも分かったのだろう。今まではキリッとしていた彼女が妙にソワソワし始めた。
トイレに行きたくなったとか、そんな妙なソワソワではなく、慌てたいけど立場が・・・、みたいなソワソワである。
ジャンナ殿の妹さんが彼女の傍に居ないのもその一因なんだとは思うが、幾ら何でも慌てすぎじゃないか?
「おはようございます。いい天気ですね
「ああ、そうだな。無事に晴れてよかったよ」
まずは普通に挨拶。ジャンナ殿もどうにか態度を取り繕えられている。
「昨日の件ですけど」
「分かってる・・・」
「では、今から行きましょうか」
「えっ!? 今からか・・・、少し待たないか?」
「待っていてもなにも変わりませんよ」
動こうとしないジャンナ殿を半ば無理やり引き連れてギャレット殿の元へと向かう。
ギャレット殿は俺の顔を見て顔を強ばらせたが、ジャンナ殿の姿を見てその顔を元に戻した。
今頃、彼の頭の中では一体何事かと考えている事だろう。
「ギャレット殿、おはようございます」
「ええ、おはようございます。エバノ殿、今日はいい天気ですな」
「そうですね」
取り敢えず挨拶しておけば掴みは問題ないはずだ。あとはどうやって本題に繋げるか。
「貴国の騎士の様子は如何ですか」
「いつも通り。よく動けているよ」
「それはよかった」
勿体ぶってもしょうがないとは分かっているものの、俺も緊張しているらしく本題を切り出せない。
昨日の装備を剥ぎ取った騎士の事を心配するよりも、今は自国の心配をする場面だろうに。ジャンナ殿を連れてきといてこのザマとは、情けない。モフモフの為、ひいては自国のために、頑張れ俺。
「今日は先輩国であるギャレット殿にどうしても頼みたいことがあって来ました」
「後ろのジャンナ殿もその件で?」
「ああ、そうだ」
会話中、ギャレット殿の表情はピクリとも動くことは無かった。
俺が近づいてきた時は気でも抜いていたのか?
今のギャレット殿は歴戦の戦士、いや、歴戦の貴族と言うべきか。
「それで・・・、頼み事とはなにかな?エバノ殿には借りがあるし、話し次第では手を貸しますが」
「ありがとうございます。では・・・」
これでカルラ王妃の件はチャラだと言外に言われたが、俺としてもそれで構わない。
「我々の国、シュヴァルツヴァルトとラフラインは建国して間もないのはギャレット殿もご存知かと思います」
「ふむ」
「そこで、経済の回し方、お金の稼ぎ方というものを教えて頂きたいのです」
「・・・なるほど」
思案顔で鼻の下のヒゲを撫でる彼。
そりゃあ、急に言われても困るわな。さて、どう答えてくれるのやら。
「まずはシュヴァルツヴァルトとラフラインの現状を聞かせてもらっても?それと、エバノ殿はアルト殿から聞いた方がいい。こういうのは隣国と協力するものだ。私の出る幕はないだろう」
「そういう事でしたらアルト殿にお話しを聞きに行かせてもらいますけど・・・」
確かにノーマリー王国にはお世話になった。
ギャレット殿には借りがあるからといって少し早計だったな。
幸いジャンナ殿の話しは聞いてもらえるようだし、お言葉に甘えることにしよう。




