393.【箱庭】造園?
村長の【箱庭】に【風水】を使うにあたり、村長からパトカをもらった。
クランハウスや個人の【箱庭】にも、【盗賊】系の上位スキルがあれば侵入できるらしいが、普通は持ち主の許可制。
取捨選択なしに広く開放するのならともかく、立ち入り許可を限定的に行うのならば、パトカを交換しておくと便利なのである。
さっそくユーディスカさんの【箱庭】にお邪魔。大樹の天辺の方に【箱庭】へと続く扉があった。立ち合いは村長と、幼女薬師。ほかの村人は【箱庭】整備のために色々準備中。
荒涼とした雄大な岩山、乾き切った大地、崩れた土と礫。岩山のある中央は陽射しを遮るものもなく目に眩しいくらい照っているのに、霧に包まれ唐突に終わる風景。岩山がそそり立ってるところを中央に納めた写真のような印象。
「『飴蜂』の活動範囲はこの広さで足りているだろうか?」
狭くはないが――いや、私の【箱庭】が異常なだけかもしれん。
ミツバチは2〜3キロが活動範囲と聞く。魔物である『飴蜂』はどうだろう?
「巣の数、花木の数によるが十分じゃ」
村長が答える。
「今、村人たちが『飴蜂』が好む『蓮華カズラ』をとりにいってる。あれは『飴蜂』がいなければ、除草対象になるくらい増える。すぐに見つかるだろう」
『飴蜂』の行動範囲はそう広くなく、そして好む花は『蓮華カズラ』というらしい。カズラというからにはツタなのだろうが、『飴蜂』がいなければ除草しなければならんほど増えるようだ。
――植えるのは要注意だな。
「村の周辺に似た環境でいいか?」
「うむ。昔は村の周囲にもたくさんおったもんじゃ」
「ユーディスカさんも構わないか?」
「もちろん」
持ち主からもOKが出た。
というわけで【風水】発動! 【箱庭】の風景を隠れ里周辺の森へと変える。ちなみに選べるのは『平野』『森』『山』『海』『湖』『火山』『砂漠』等の地形はデフォで、他はどうやら私が行ったことのある風景が並ぶ。
なお、【箱庭】に使える一部の地形は店で買える。誰かが【箱庭】に関するクエストをクリアし、開放したアナウンスが流れていた。
【箱庭】全面を選択し、一覧から『隠れ里エールフの森』を選ぶ。後は村長の承認待ち。
「おおお! 本当に変わった……! このレベルの【風水】は儂も見るのは初めてじゃ!」
村長が周囲を眺めてぶるぶるしている。
「岩山が森に変わるなんて……。疑っていたわけじゃないが、驚いたよ」
幼女薬師も現れた森に目を見張っている。
「あの岩山が……」
ユーディスカさんが呆然と呟く。
「この後は手入れ次第のはずだ」
「感謝するのじゃ。これで『飴蜂』を守れる」
私に向かい、深く頭を下げる村長。
「感謝は持ち主のユーディスカさんに」
「村長! 取り急ぎ『蓮華カズラ』を【採取】――わあ! 本当に森になってる!」
「外の森が村の中にも!」
ミーディたちが手に植物の束を持って駆け込んできた。
早い。
というか、土も根もついておらず、ツタを適当な長さに切って束ねてきたみたいな感じなのだが、これで根付くのだろうか。
「適当な間隔で植えてゆくのじゃ」
ミーディとユーディスカ、その後から続いた村人たちに指示を出す村長。
「随分持ってきたね。まあ、『飴蜂』がいれば大丈夫……だろうね」
微妙な反応の幼女薬師。
「そんなに危険な植物なのか?」
思わずたずねる。
「危険というか、繁殖力が凄いのだ。一応、外ならば冬に一旦全部枯れるんで大丈夫……」
幼女薬師がちょっと嫌そうだ。
常夏の国で繁殖いたら目も当てられない、と。アメリカ南東部を侵略してる葛を思い出す。
「『飴蜂』がいれば芽を食う。昔はそれでバランスが取れていたんじゃが、今は完全に厄介者じゃのう」
「大切な薬草や、薬になる木々がコレに覆われて、枯れているのを何度も見てるんでね。どうにも印象が悪い」
楽観的な村長に比べ、幼女薬師の歯切れは悪い。
作業する村人を眺めると、根のないツルの先を埋めている。特に深く土を掘ることなく、肥料を入れるでもなく、木の枝の先、或いは矢の先で浅く掘った穴に埋めるだけ。埋め戻しは踏んずけてるし。
――無茶苦茶生命力豊かな気配がする。
「ここならば全部『蓮華カズラ』に覆われても問題あるまいて」
不穏なことを言う村長。
「スキル【緑の成長】使います〜」
「スキル【緑の育成】使います!」
スキル持ちの村人たちが、植えられたツルに次々にスキルを使ってゆく。途端にツルが伸び出し、木の幹を登るように巻きついてゆく。
あっと言うまに枝葉の先に絡みつき、緑色の細かな葉を広げる。
「スキル【開花】使いますよ〜」
「スキル【花保ち】を使う」
ツタの先に蓮華の花に似た、蓮華より小ぶりな花が咲き始める。白に先が少しだけ薄ピンクの花が増えてゆき、ほんのり甘い香りが漂いだす。
「ウロ持ってきました!」
そう言いながら6人がかりで巨大な丸太というか、切り株? を運んできた。
ウロって木のウロか!
どんと縦に据えられて初めてウロの意味に気づく私。ミツバチに於ける巣箱替わりなのだろう。
舞台が整い、私の作った小さな結界にその辺で捕まえてきたらしい魔物が離される。『飴蜂』の必要数は二匹だが、他に対象となる魔物がいればいるだけ成功率が下がったりするので、一匹ずつだ。
――スキル的には『飴蜂』と大体のレベルが揃えばいいのだけれども。何も蛾の魔物にしなくてもいいのではないか? 鱗粉がががが。
「『飴蜂』の復活をお頼みする」
村長が報酬の先渡しなのか、花の咲いた『蓮華カズラ』のツルを差し出してくる。
「承知した」
『蓮華カズラ』を受け取り、【魔物替え】を発動。
魔石はすでに受取済みだ。
一度目、失敗。
二度目、失敗。
三度目、失敗。
対象の魔物のレベルをクリアしていても、成功確率は低い。さすがにレベルが足りていて、20連続失敗などすることはないが、魔石が沢山あってよかったとホッとする。
さっさと蛾が至近距離からいなくなってなによりだ。
「おお、懐かしい。『飴蜂』じゃ!」
村長の言葉通り、蛾の魔物が消えて『飴蜂』が結界内に現れた。
「これが『飴蜂』か」
ミツバチとクマバチを掛け合わせたような外見で、ずんぐりむっくり可愛らしい。もふっとしてるし、羽の先はオレンジ色。
「あと一匹……!」
祈るようにこちらを見る村人たち。
『飴蜂』の入った結界の隣、新たな結界に魔物が入れられる。――サナギはもっとやめろ! どうしてそういう選択を!!!!
心の中で半泣きになりながら【魔物替え】を行い、無事サナギを消すことに成功! いやちがう、二匹目の『飴蜂』に変えることに成功。
「結界を解除する」
宣言して結界を消すと、しばらくそこでホバリングしていた二匹の『飴蜂』が、お互い8の字を書きながら、ぶつかりあう。
「違う巣の『飴蜂』はああして出会って、戦うか、番うか決めるのだ」
幼女薬師が教えてくれる。
ぶつかり合いながら飛び去ってゆく『飴蜂』。アクティブモンスターではないらしく、攻撃してこなかった。
「しばらく飛び回って、女王蜂のフェロモンが周囲になければ番うだろう」
二匹を見送りながら言う幼女薬師。
「用意したらウロに住み着いてくれれば管理が楽なんじゃが。まあ、他の木々にウロがあるならそっちを気に入るかもしれんの」
村長。
「順調に増えて巣分かれすれば、このウロもきっと使われるとも」
感慨深げに幼女薬師。
「ホムラ、本当に世話になった。また懐かしい味を味わえ、子らにも教えることができるのじゃ」
「ありがとう。これで薬が作れる、世界樹の葉が染まる年に起きる病の心配をしなくて済む」
「役に立たないと思っていた渡しの【箱庭】が役にたつなんて……ありがとう」
「ありがとう!」
「これで母さんのレシピでお菓子ができるわ!」
「ハチミツティーが楽しみ!」
「ありがとう」
村人からも口々に言葉をかけられる。
そして『友好の証の栞』『飴蜂の魔石』『蓮華カズラのツル』『エルフの隠れ里の薬学』『エルフの隠れ里のお菓子』をもらった。後ろ2つは本なので、読むのが楽しみだ。




