394.当初の目的
『飴蜂の魔石』『蓮華カズラのツル』は私の【庭】で飴蜂を育てるために必要なもの。
ただちょっと蓮華カズラの扱いが難しそうなので、当初考えていたように外では爆植する危険がありそうだ。
【庭】で、区画を区切ってというのが無難そうだ。飴蜂とセットならば平気そうではあるのだが――その飴蜂も昔はその辺に大量にいたようなので、セットで増えると言うオチもありそうで怖い。
――いや、うちの庭の草、他の追随を許さないんだった。私が許可しない限り、【庭】で植物の繁茂は難しい。
管理をリデルかクズノハに任せておけば大丈夫だろう。養蜂はリデルの方が似合いそうだが、大ぶりな蓮華のような花がたくさん咲く蓮華カズラはクズノハの方が似合いそう。さて、どちらに任せようか?
『友好の証の栞』は、所持していると隠れ里の住人と好感度が上がりやすくなるアイテム。
さて、港に戻ろうか。
……。
「すまん。川のもの以外で、毒が無いか、弱毒の食料というのはあるのだろうか? 手に入れられる場所があるなら教えて欲しい」
明日からのパーティーの無難な食べ物が、海産物と屋台の串焼きだけになってしまうとこだった。
当初の目的を忘れていた私です。
「果物と野菜を他の里で細々と作っておるのだが、外の者、それもエルフ以外の者に分けるかどうか。儂らとて、少量を何かの礼に貰う程度でな」
村長が困ったように言う。
他で、【箱庭】持ちのエルフが細々と作っていると言っていたな、そういえば。
「蜜飴ができればそれと引き換えに手に入れて、贈るのじゃが――いや【風水】。儂と同じく役に立たない【箱庭】持ちが2人ばかりおる、その者の【箱庭】を整えてやってはくれまいか?」
村長が話している途中目を見開いて、思いついたとばかりに言い募る。
「構わないが……」
「おお! それならばあの里の収穫量も増える、食料を分けるくらいはするだろう。飴蜂が増えたならば、分けてもいいし、そのまま野菜を続けて物々交換でもいい」
と、いうことになった。
村長が空気を包むように手を合わせ、口に寄せて何事か呟く。手を放すと中から紙を加えたツグミのような小さな鳥が現れ、飛んでゆく。
住人のメールって、そういえば蝶だとか鳥だとかが耳元で声を届けるパターンもあったな。声を届けたあと、消えてなくなるのだが、確認するとメールにちゃんと入っている。
相手からの返事を待つことしばし。待っている間に『エルフの隠れ里の薬学』を読む。
薬学の方は今なら幼女薬師がいるので、わからないところが聞ける。『エルフの隠れ里のお菓子』は寝る前に読もう。
「しもうた! その本に載る薬草の数々は、今や毒じゃ。我らエルフにとっては薬効の方が高いが、異邦人にとっては毒の効果の方が高かろう。しばし待つがいい」
そう言って、村長の家から慌てて出てゆく幼女薬師。
まさかの毒薬製造本。材料が毒化しているのだからしょうがない、毒だけ抜き出すのも難しそうだ。
仕方がないので『エルフの隠れ里のお菓子』を読み始める。
先にパラパラと挿絵を見た感じでは、木の実や果物を使ったものが多いようで、全体的に素朴な印象だ。
ただ木の実や果物の他の材料は魔物由来が多い。『魔牛アシャーの乳』『魔牛アシャーのバター』『魔牛アシャーのチーズ』――近辺に魔牛アシャーという牛の魔物がいることはよくわかった。
『幻覚騒乱の芥子の実』『発芽刃の酵母』――このあたりはそのうち食材ダンジョンにも落とす魔物が出てきそうだ。
『女神メーテの小麦』。私が会ったことのない神々がここにも。石畳の神に愛されたモザイク職人に結局会えず仕舞いだな、そういえば。
ぱらぱらとページを捲っていると、幼女薬師が戻ってきた。
「これをやろう。おぬしの土地もあるのだろう? この大陸以外で植えれば、毒化はしないじゃろうて」
幼女薬師がそう言って渡してきたのは小さな袋がいくつか。
「種か?」
「うむ。物持ちのよい者から集めてきた」
どうやらまた家々を回って声をかけてくれたらしい。袋の中身は大小いくつかの種、野菜……いや、幼女薬師と話していた時は、薬学の本を読んでいたので、薬草の類か。
「ありがとう。増やして返そう、ここの毒が浄化された時のために」
種を受け取り、礼を言う。
「返事が来た、歓迎すると」
村長が部屋に入ってきながら言う。
「いつ、どこに向かえば?」
食料はすぐに欲しいところだが、まあ、クランのみんなとの予定は現実時間の明日。明日の待ち合わせ時間より少し早く入ってやり取りしてもいいかな?
「片方はすぐにでも。儂の同行者に【転移】を解放するそうじゃ」
と、村長。
「わかった」
願ってもない時短、間に合うかやきもきしなくて済む。
で、行った先は『エルフの秋の里』。
大きなメイプルが葉の色を変え、1つの木に枯葉と、緑とが同居している。栃の木が黄色とも茶色ともいえない色に色づき、栗に似た実が落ちている。栗より大きく、ツヤツヤしているのだが、食べるのに手間がかかる実である。
その前にシレーネの毒入りなのだろうけれど。
日本と違い、寒暖の差が少ないのか? 紅葉がなんともいえないアースカラーだ。それでも広葉樹の葉を通して落ちる光は弱々しくも綺麗なものだ。
「ここはいつでも秋での。木の実やキノコ、根菜類がよく採れた」
村長が説明してくれるが、過去形なのがなんとも。
「異邦人の眠り」が近いことは話しているので、合流してすぐに【風水】を使う流れ。
「おおぅ! 素晴らしい! こんな強力な【風水】は長く生きて初めて見たわい!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。儂も随分前に伝えきいたことがあるだけじゃ」
「そんな、里長が初めて見るなんて……」
「珍しいのか、そうか。よくあるスキルならばとっくに依頼を――」
村長二人が言い合うと周囲のエルフがどよめく。というか、村長ではなく里長? エルフの里だから里長の方が正しいのか? いやだが、隠れ里では村長と呼ばれていたような?
まあいい。
長寿のエルフの【箱庭】は、同胞思いも相まって積み重ねてきた年月でだいぶ広い。畑や果樹園に使うには十分なのだが、そうではなく森を育むつもりらしい。
……流石に狭い気がするのだが、まあ、私が口を出すことではなかろう。
「ありがとうございます。少なくてすみませんが――この【箱庭】が恵みをもたらした時、必ずお礼を」
と、少ない中から小さなりんごと乾燥キノコをいただいた。
そして次。
『エルフの幻の里』。
今来てはダメなやつでは?
「ここは迷いの森の中にある里、里の人間以外が外に出れば長く彷徨うことになる。絶対外にでないようにするのじゃ」
【転移】先で最初に釘を刺される。
いや、何か迷わないペンダントがあったような……。そしてやはり今来てはダメなやつでは?




