392.『飴蜂』の魔石
【魔物替え】のレベルは現在56。自分の島の厄介な魔物と、アリスの島の美味しい魔物を交換するべく頑張った結果である。
レベルが下がらない程度に時々他の魔物も入れ替えを試みているのだが、レベルが低い魔物でも成功率は低め。
「【魔物替え】、長く生きているが、話にしか聞いたことがない。任意の魔物同士を入れ替えるんだろう? 成功率は高いのかい?」
幼女薬師が探るような目で見てくる。
「低いな。もしかしたら【テイマー】系の職なら、もっと成功率が高いのかもしれないが、私の職は魔法剣士系だ。――そうか、個体数が少ないなら、成功するまで試すわけにはいかんな」
数の壁が。
「わずかな成功率に賭けるというわけにはいかないね。このまま放っておくのもジリ貧だが、エルフの心情的にも無理さね。どんな理由だろうと、よそ者が『飴蜂』を狩っているのが見つかったら殺されるよ」
「だろうな」
私も、もしミスティフ狩ってるの見かけたら問答無用で攻撃するかもしれん。
「だが、使うモノが魔石なら。村中に声を掛ければ過去に狩った『飴蜂』の魔石を持っておる者が1人、2人おるだろう」
幼女薬師が言い、村長に相談のため移動することになった。
魔石の10や20では成功する気が全くしないのだが、正直にそのことも話し、もっと【魔物替え】に特化したような人を探すよう伝えるつもりだ。時間をかけても魔石は悪くならんしな。
というわけで、村長に事情を話し、村人の持つ『飴蜂』の魔石を集めてもらった。『飴蜂』を狩ったことのあるエルフはほぼ全員。だが、その魔石を捨てずに――あるいは利用せずに――持っていたのは幼女薬師の言うように少なく、3人。
――3人だったのだが、私の想像の100倍持っていた。
昔は『飴蜂』は珍しい存在ではなく、子供が遊びに行くような範囲にも出現し、駆除するようなこともあったし、蜜を目当てに積極的に狩っていたことも魔石が大量なことの原因だが、何といっても長寿。長寿のエルフが溜め込んだ量を甘く見ていた。
「なんてことだ……溜め込んで溜め込んで、母に切れまくられて、出て行かれた父の溜め込みぐせが役に立つなんて……!」
「家の大樹を傾かせるって苦情が来てた婆ちゃんが……!」
「片付け大っ嫌いな姉さんが!」
広場に集まった村人が、持ち寄った魔石の数々。説明を改めて聞き、ざわつくエルフたち。
図らずも、家の物の整理にも貢献できたようだ。……戻ったら私もストレージの中のものを整理しようと決意する。
村人が溜め込んでいた魔石、種類は『飴蜂の魔石』『飴蜂の雄の魔石』『飴蜂の女王蜂の魔石』。『飴蜂』の巣は、一匹の女王蜂と百前後の働き蜂、数匹のオス蜂の3種類。
「流石に女王蜂の魔石は少ないな……」
『飴蜂の魔石』は本当に大量なんだが、流石に。
「今回については関係ないぞ。『飴蜂』というのは、女王蜂がいなくなれば他の普通の蜂が女王蜂に変わるし、オスにもなるのでな」
何故かえっへんと胸を張る幼女薬師。
「なるほど、では巣を作るには二匹成功すればいいのか」
「うむ。その後、環境が良ければ分封し巣が増える――もし毒の鳥が倒れ、この辺りの環境が戻ったら、その時には巣をいくつか頂きたい」
村長が言う。
「わかった、と言いたいが、私の持つ土地でしか魔物は放せない。多くなりすぎれば間引くことになると思う」
環境はミスティフ優先だ、そこは譲れない。
結界で区切ることによって、擬似的に『私の持つ空間』を作り出すことはできる。おそらく【迷宮創造】者たちはそうやって、権力者に頼まれ城に迷宮を作り出していたのだろう。結界もまた、城の防御のために重宝されたに違いない。
「そうだ、ここには【箱庭】の持ち主はいないのか?」
毒に溢れたここに【魔物替え】で『飴蜂』を放しても意味はないが、【箱庭】の中ならば毒の影響はなく、問題ないのでは?
【箱庭】は実はスキルの一種扱いをされている。異邦人にとっては条件を満たせばすぐ取得できるもの、住人にとっては他の多くのスキルと同じく天性のもの。住人は異邦人と違って、スキルを覚えたり変えたりはなかなかできない。
なお、異邦人はお手軽に【箱庭】に続く扉を買うという形で使える。自分で使えないのに何故【箱庭】に続く扉を住人が売っているとか聞いてはいけない。ゲームの仕様……いや、儲けどきなのである。
「おる。ユーデュスカじゃ」
答えたのは村長だが、【箱庭】持ちはユーデュスカさんだった。ミーディさんの隣で小さく手を上げている。
「じゃが、ユーデュスカが持つ【箱庭】は、残念ながら緑のない岩山での。広さはあるが、『飴蜂』を養う花々を植えることはできんのじゃ――他の村では【箱庭】持ちが狭いが果樹を育て、村を養っていると聞く、伝手を辿りその者に相談を持ちかけようか」
思案する村長。
狭い村だからなのか、個人のスキルも村長が把握しており、村のためにある程度使うことが当たり前のようだな。村人からもツッコミが入らないし、ユーデュスカさん本人からの主張も先ほどのちょっと手を挙げたあれだけだ。
後で聞いたら、普段は家と家の距離も離れ、お互いに干渉少なく過ごしているが、村人全員に関わることでは個を消して、話し合いはするものの基本村長に一任だそうだ。個人主義が過ぎて、過去に種族が激減したことが原因とか。
「あるのならユーデュスカさんの【箱庭】を整えようか。まあ、制御を一時的に私に明け渡してもらう必要があるので嫌ならば無理にとは言わんが、将来的には村人が『飴蜂』を管理できた方がいいだろう?」
【箱庭】は外部からの影響を受けないため、【風水】で環境を変えられるのである。
村人相手に手順を簡単に話す。まずユーデュスカさんの【箱庭】を私が【風水】で『飴蜂』に適した環境に変える。変えた【箱庭】に『飴蜂』が好む植物などを移植する。
「移植して毒が抜けるまでしばらくかかるだろうから、その間に『飴蜂』がうちで増えたら贈ろう」
草花はともかく、木は毒が抜けるまでかかりそうだが。
「【風水】で恒久的に環境を……?」
「聞いたことがないのぅ」
困惑している村長と幼女薬師。
幼女薬師は村長より年上と判明。たまに魔力の影響で成長速度が違う個体が出るのだそうだ。
「私の【箱庭】でよければ、もちろん」
ユーデュスカさん。
「えっと、じゃあ私たちは『飴蜂』が好む植物をとってくればいいのかしら?」
ミーディさんが言う。
「ああ、移植してしばらくすれば毒も抜けるだろう。サイクルの早い草花のほうがいい、かな?」
シレーネの毒に汚染された大地が原因ならば、毒のない大地に植えれば抜けるはず。枝葉や根に毒が残ることはあるが、今のこの大陸の環境で生き残っている『飴蜂』がいるのだから、多少は平気だと思う。
「む。まかせろ、【植物育成】スキルを持っている!」
「あ、僕も【発芽】のスキルがある」
「花の種なら手持ちがある」
「私は【開花】があるわ」
「俺は【結実】!」
「実になっちゃったら『飴蜂』が蜜を集められないだろう?」
「なんだ知らないのか、『飴蜂』は甘い果実からも蜜を吸うぞ!」
「『飴蜂』が好む植物を書きだそう」
「そこは『飴蜂』が吸うと蜜が美味くなる植物にしましょうよ」
わいわいと盛り上がる村人。森に住むエルフのイメージ通り、植物に関するスキル持ちが多いようだ。
この分なら思っていたより早く【箱庭】の環境が整うかな?
8/10
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