391.飴蜂
荷物を整理し――【クロノス】に売ることが確定しているものや、売り払いたいものを選別し、取っておきたいものは一時的にレオのマグロに詰めさせてもらって、アイテムポーチの空きを作る。
「じゃ、僕と菊姫はまとめて港でプレイヤー相手に商売してくるから、シンとレオは魚釣っといて! 川魚じゃなくってせめて海魚! カニ! 貝! 海藻!」
お茶漬が力を込めて言う。
「ヘイヘイ」
「わははは! 任せとけ!」
請け負う二人。
エルフの大陸はあらゆるものが毒に侵され、進むにつれ毒性が強くなった。唯一、ファルの加護か、水の中のものは清浄であったため、毒の状態異常にかからない食材が川魚だった。
そして流石に飽き気味。
このエルフの住まう大陸、最初の町もすでに食べ物は軽い毒。エルフは耐性があるのか、平気なようだが、毒耐性を持っていても警告なのか軽くピリピリきたりする。
そして毒耐性持ちでもずっと食べていれば毒になるし、解毒薬も軽く毒という手加減のなさ。HPが10秒に10減る毒が、2減る毒に緩和されましたみたいな。
「私は比較的毒が弱い食材の確保だな」
「食べ歩いてドン引きされないよう気をつけるでしよ」
「ああ、気をつける」
多分。
菊姫は【クロノス】の生産者にシラユリ経由で仲良くなった人がいるようで、今回はお茶漬と一緒に販売側に。二人ともそつなく社交性が高くて顔が広いのだ。
「私はちょっと毒をまとめちゃうよ。生産所あるみたいだし」
ペテロは新しい毒からさらに新しい毒を生産するつもりらしく、密かに上機嫌だ。
そう言うわけで、各自息抜きと明日また先に進むための準備を開始。
森から出たがらないエルフが人間との交易のために作った港町。色々最小限な印象なのだが、空き地という異邦人の移住スペースっぽい場所も見受けられるので、これから発展するのだろうと思う。
とりあえず無難な屋台の焼き串を99ストック――しようとしたら、売り切れになったので1種類で自重。
「いやあ、こんなに売れるとは。だいぶ仕込んできたんだが、冒険者はよく食うんだねぇ」
屋台のエルフが笑う。
「先に進むと毒が強くてな、買いだめもある」
「ああ、異邦人のアイテムポーチは特別製だったな。羨ましい限りだ」
焼き串を受け取りながらの会話。
住人のアイテムポーチは普通、納めたものに時間経過がある。焼き串を99本買ったとして、冷めるのはもちろん傷むので、早めに食べなくてはならない。
屋台のそばで、買った焼き串を1本齧る。舌にピリッと来るが、毒にはかからない。
「そういえば、数日森の中を進む時、貴方たちは何を食料に?」
やはり魚を獲ったり毒の実を採取しているのだろうか。
「木の実や穀物を蜜飴で固めたやつが多いかな? 最近は『飴蜂』どころか花もキノコも減ってくばかりで、昔ながらのホンモノってのは少ないが」
これから新しく焼く串を出しながら屋台のエルフ。
もう串に刺してある状態で、火も通っているように見える。家で仕込んで、屋台で香ばしく焼き上げる感じか。
「『飴蜂』?」
聞いたことのない蜂の名前が出てきた。
「人間の大陸にはいないだろうさ。魔物だけど美味い蜜を落とすんだ、少しだが耐毒向上の効果もある」
屋台のエルフが笑う。
「それはぜひ見つけて、食べてみたい」
「この辺りでは姿を見かけなくなった、運が良ければ見つかるだろうさ」
笑っているが、どうも教える気のなさそうな雰囲気の顔。
ニュアンス的に蜂を見つけて狩る、と思われたようだ。商売柄愛想はいいが、余所者にただでさえ減っている蜂の場所を教えるほど、口は軽くないらしい。
「この辺で扱う店はなくなったのか、残念」
とりあえず微妙な誤解を解く言い方を選ぶ。
要らん誤解をそのままにしておくと、渡ってきた冒険者丸ごと警戒されて、塩対応されかねない。
私という存在も、冒険者という存在も、まだ曖昧模糊として、この屋台のエルフを含む多くのエルフの中で位置付けができていない。十把一絡になっても仕方がないと思う。
一度ついたイメージというのは付きまとうこともあるので、なるべく他の冒険者に迷惑をかけるような悪い印象は残したくない。
なお、優雅、上品、細い体、少しの傲慢――私の方にもエルフに対して、固定したイメージがあったのだが、この町のマッチョエルフや、隠れ里のあのエルフたちと出会ったせいで、いろいろ粉砕済みだ。
共通する特性はあるだろうけれど、エルフも色々。
「まあ、もし森にある町に着いたら薬師に声をかけてみろ。店にゃ並んでないだろうからな」
私の言葉のニュアンスを感じ取ったのか、屋台のエルフが焼き串を返しながら情報をくれる。
「わかった、聞いてみる」
食べ終えて、残った串が光の粒になって手から消えたところで露店を後にする。
で、すかさず【転移】を使って隠れ里へ。
「あら?」
転移門のある大きな樹のウロから出ると、下半身だけギリースーツを着た村人と目が合った。
「忘れ物?」
「いや、『飴蜂』という蜂の蜜を使った食べ物があると聞いて……」
蜻蛉返り状態が少々恥ずかしい。
広場に村人を全員集めることとなったクエストのせいで、顔を覚えられている。顔を覚えていなくても、エルフでない容姿は目立つ――いや、ギリースーツを着ていない状態は目立つ。
目のあった村人エルフさんに薬師の家を教えてもらい、木を登る。
隠れ里を解放した後は、ほとんどの村人の顔が見える。ギリースーツ半脱ぎ、全部脱ぐという選択肢はないのだろうか。――いや、すっぽんぽんという意味ではなく。
時々、首だけに見える村人もいて、びっくりするんですけれども。枝を渡り、蔦で作られた吊り橋を渡り、教えられた村の外れの古木へ。
「こんにちは、お邪魔します」
「おや、アンタは村人全員探し当てた――」
ローブを着た小柄なエルフ。
ローブがウッドランドパターンの迷彩柄なことに突っ込めばいいのか、幼女なことに突っ込めばいいのか、どっちが先だ。野生動物観察ツアーのガイドのようなその柄は、室内でどうなのか。
「ホムラという。『飴蜂』の蜜をつかった食品があると聞いて、扱いがあるか聞きにきた」
ここではギリースーツが普段着扱いのようだし、エルフの加齢の仕方を知らんので幼女でも私より遥かに年上の可能性もあるし、言いたいことを色々飲み込んで聞く。
「『飴蜂』か。一壺あるが、今は食べ物より薬に回したいんで期待には応えられないよ」
「この辺りでも『飴蜂』は減ってるのか?」
薬に使うことが優先と言われれば、仕方がない。
「ああ、ここ最近だいぶね。500年の間、減り続けさ。シレーネの毒が強くなっていくのに、適応できなかったようだね」
笑う幼女薬師。
500年がここ最近なことに突っ込めばいいのか、口調に突っ込めばいいのか。
「魔物では毒の影響のない場所に移して、養蜂することもできんだろうしな――って、できるな?」
「できるのかい!」
幼女薬師が明らかに突っ込みのトーンで被せてきた。
「『飴蜂』の魔石があれば、【魔物替え】というスキルで」
養蜂とはちょっと違うが、私の島に移すことはできる。
「【魔物替え】……。随分なレアスキル、というか隠され、忘れられたスキルだね。残った『飴蜂』を探すより難しい――持ってるのかい?」
探るように聞いてくる幼女薬師。
表情は老獪そうなんだが。
「目下、レベル上げ中だが持っている」
果たして『飴蜂』のレベルいくつなのか。




