390.それぞれの【鵺】
『毒緩和薬』は【クロノス】と【烈火】相手に完売。
「買いすぎでは? 荷物大丈夫か?」
「【鵺】がいるからな!」
全部お買い上げに、アイテムポーチの圧迫を心配いすればロイから明るい答え。
「こんなことなら、こっちに渡る前に食料と毒消しを詰められるだけ詰めておいたんだが」
眉間に皺の炎王。
「本当にそう。もう毒の話は行き渡って、次の便あたりで来るプレイヤーは荷物パンパンでくるでしょ? ぼったくられるのは悔しいけど、戻るよりは」
ギリギリと悔しそうにお茶漬。
あれ、まさか知らないのか?
料理と薬系はクランでは私の領分。クランハウスのチェストに詰め込まれ、必要分アイテムポーチに引き出して――代わりに私宛で何かアイテムかシルが詰まっているが――冒険に出かける構図。なるほど、倉庫に欲しいアイテムがない。
【鵺】を呼び出さなかったのはたまたまか!
これは教えていい案件だろうか? うっかり謎の開示でペナルティ、お茶漬たちと【鵺】の好感度ががくっと下がったら本末転倒。好感度を稼ぐための『水』と『枝』が全ての【鵺】の好物とも思えない。
ペテロ:一回くらいじゃ大丈夫だからw
私がよほど変な顔をしていたのか、ペテロが個人会話を入れてくる。なるほど、ペテロも【鵺】の好感度のことは知っているのだな?
ホムラ:そうか。だがシンとレオあたりがバンバン呼びそうだ
ペテロ:逃げ出しそうなのは【鵺】を観察してればわかる――しなさそうだね?w
ホムラ:いきなり否定しないでください
ペテロ:www まあ、パーティー中の案件なら注意できるし
ホムラ:一回は諦めてもらおうか
お茶漬:呼び出しまずいのね、理解
ペテロと私の会話は、聞こえていないはずのお茶漬から個人会話。
ホムラ:いきなりすぎる、心を読むな
お茶漬:ホムラあんまり表情動かないのに、こういう時は分かりやすい
ホムラ:顔色を読むな
お茶漬が【鵺】の好感度に気づいたことは喜ばしいが、そんなに私は分かりやすいか? ペテロも私の表情を読んで話しかけてきたのだろうし……おのれ!
何か納得がいかない私。
それはともかく、この大陸で【鵺】を呼び出しまくって、『逃げられ』になる人はどれくらいいるのだろうか。
意地悪設計だなと思いながら、みんなの会話を聞く私。
『声毒緩和薬』は流石に全部とはならなかったが、【クロノス】と【烈火】が少し買ってくれた模様。
「じゃあ、明日」
「よろしくにゃ〜」
「よろしく〜」
ロイとクルル、お茶漬が挨拶して終了。
明日の朝到着予定の【クロノス】の後続から、正規価格で毒消しなどを買う話がまとまった。炎王はロイたちに借りを作りたくなさそうだったが、クルルが炎王が口を開く前に言葉を被せてあっという間にまとめた。
コントみたいでした。
それぞれ挨拶して、本日は解散。それぞれ宿を確保して、クランだけになる。
「さて、町にいるプレイヤーにドロップアイテム売ってこよう。獣人二人は目新しもの好きそうなプレイヤーに『声毒緩和薬』売ってきて」
お茶漬が言う。
「わははは! 『マグロ』召喚!!」
レオが叫ぶ。
そして宿屋の床に現れる巨大マグロ。
「……」
黙るレオ以外の視線が横たわる巨大マグロに集まる。
ぴちりとも跳ねない。
「マグロなだけに」
「おじさん、下品でし」
「マグロなだけにとしか言ってねぇぜ?」
にやにやするシン。
「冷凍にしては艶がいい」
私に解体依頼だろうか?
「……まさかこれ、【鵺】?」
お茶漬が聞く。
「「え?」」
私とペテロの声が被った。
「わははは! 俺の【鵺】『一本釣りマグロくん』!」
レオが片腕を振り上げて元気よく答える。
「えぇ……」
「このマグロの好感度、予測の難易度高いのだが」
ペテロが珍しく本気で困惑している横で、呟く私。
「うわっ! 今動いた!」
シンが飛び退く。
私も確かに動いた気がしたが、またぴくりともしない。
「……」
マグロを見つめて再びの無言。シュールすぎて思考が停止する。
『好感度5%ダウン。残り57%です』
「うわーでし! 喋ったでし!」
「ちょっと、反応鈍くない!? なんなのこのマグロ!」
菊姫とお茶漬がドン引きしている。
「あー、宿の中でも下がる〜。こいつ外で10%も下がった!」
同時ないレオは、さすが飼い主か?
「つーわけで、外であんま呼び出さないほうがいいぞ!」
笑顔のレオ。
どうやら我々に教えてくれようとして、実践した様子。
「ありがとう?」
反応に困るがとりあえず礼を言う。
呼び出しは、宿屋の中でも好感度が下がり、野外ではもっと下がることがよくわかった。
「えーと。もしかして無機物はみんなこんな感じ?」
困惑した微妙な笑みを浮かべたまま問いかけるペテロ。
「クランハウスで呼び出した、僕の『シル』くんは普通でした。もしかしたら下がる時だけ喋るのかもしれないけど」
お茶漬が言う。
シルなのか。
「あてちの『獺祭』もでし」
日本酒なのか。
「俺の猿も〜」
猿なのか。
「……猿なのか?」
Gかかえたカジノの店員さんかと思っていたのだが。
「うちは鳥だったよ」
ペテロ。
「なんかプレイヤーとかNPCとか封印の獣とか、肖像権に引っ掛かるようなのを想像すると動物になるみたいよ? 鳥、猿、蛇、虎、狸のいずれかに、ちょっとだけ元のイメージが混じる感じ」
お茶漬が言う。
「ミニチュアGが首輪についてる猿だなあ」
「シンは猿に好かれてない?」
ちょっと遠い目をして自分の【鵺】の姿を思い出しているらしいシンにお茶漬。
たしかに孫悟空戦の時に猿に懐かれていたような? あの猿は結局シンの押しかけペットになったようだが。
「現実ではトラツグミ、妖怪では頭は猿、手足は虎、尻尾は蛇、胴体が狸か。――『獺祭』はいいのか?」
「商品についてはブランドイメージを傷つけるとか、騙って販売するとかじゃなければ平気なんじゃないかに? 商標権的に。知らにゃい」
「【鵺】は売らないでしよ」
「なるほど?」
まあ、運営的に何かのラインがあるのだろう。
うちの白を想像されて、【鵺】にされていたら微妙かもしれん。可愛いが、ちゃんと別のもふもふを幸せにしてやって欲しい。
「レオは出すもの出して、入れるもの入れて、マグロ仕舞って、仕舞って」
お茶漬がレオを急かす。
「わはは! どうすっかな。ドロップ品、売るかな」
考え始めるレオ。
仕舞いたいもの、出したいものがあって呼び出したんじゃないのか。私たちに教えるために? きっと純粋な好意というか、親切というかなのだが、横たわるマグロが素直に認めることを阻んでいる。
そんなこんなでみんなの【鵺】がどうなったのかを知った。
「そういえばホムラの【鵺】は?」
ペテロが聞いてくる。
「肖像権丸っと無視して『マーリン』少年」
ゴリラは回避。
……猿がランダムにあるということは、もしかしてゴリラもありえるのか?
「ぶっ!」
「さすがソロ討伐」
「初特典でしか?」
「人型いけるなら、猿じゃなくってねーちゃんでいいじゃん!」
「わははは! そのまんまか!」
「他の封印の獣もそのまま仲間になっているし、おそらく初討伐特典なんだとは思う」
もふもふの虎の可能性もあったのか。
白虎がいるし、黒天ももふらせてもらえるからいいが。いいが。いいが。うん、まあ、カルがマーリンとの掛け合いで微妙にいきいきしてるしいいか。
私は主にされてしまったし、ガラハドは弟子だし、おそらく対等に近い存在がマーリンなのだろう。
「ホムラと封印の獣たち。もふもふのクズノハの地位が一番高そう」
「残念ながら人型で」
尻尾と耳はあるが、もふれない。
「わはははは!」
レオが笑う。
早くマグロをなんとかしてください。マグロ待ちの会話ですよ!
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