389.取引
買い物を済ませ、転移門でノルグイェル大陸の最初の港町へ。
「ふー。ここはまだ毒が弱いんだよな」
大きく深呼吸してシンが言う。
「シレーネから遠いほど弱いんだろうね」
ペテロ。
「あ! また出てきた!」
「お? 今度は【赤いタヌキ】レオのクランか!」
「どこが転移門解放したんだ?」
「最初に出てきたのは【烈火】だし、【烈火】か?」
「同着ってことはないよね?」
周囲がざわついている。
周りを確認すれば、先に出て話していたらしいロイたちと炎王たちと目が合った。なるほど、ほぼ同時。
『あー。炎王とロイたちも、他の町で転移門解放したのね。どうりで隠れ里見つけた報酬だけで、他がないと思った』
パーティー内にしか聞こえないパーティー会話に切り替えるお茶漬。
称号【隠伏の狩人】は、ロックオンした対象に気配察知等がされにくくなり、与えるダメージ量UP。弓などの遠距離武器を持つ時、効果が上がる。
これは隠れ里を見つけた報酬。ワールドアナウンスの、この大陸の転移門の解放報酬とは明らかに違う。
『そういえば隠れ里解放の称号だけだったな。それにしても、クラン名が【赤いタヌキ】になりそうな……』
お茶漬に倣い、私も会話形式を切り替える。
『解放したのは【烈火】と【クロノス】どっちだろうね? ――レオ、有名人だからね。暴走で』
『当初、クリアアナウンスでレオの名が流れていたし、攻略面でも有名だろう』
ペテロと言い合う。
私たちのクランで、一番有名なのはレオだ。ただし、大体笑い声しいか返さないためか、挨拶と激励(?)のヤジは多いけれど深く踏み込んでくる者は少ない。
レオが何かやっていると、祭りのノリで集団形成してたりもするが、人徳なのかさっぱりしたものである。
次に有名なのはお茶漬、クランの代表者として、というよりは、裏の人脈がすごいというか、商売が手広いというか。
こちらも表立って絡んでくる者は少なく、平和である。
「こんにちは、エルフの町を見つけたんだな」
ペテロと話しているうちに、社交的なみんなはロイたちと挨拶を交わし始めているので、私も周囲会話に切り替えて挨拶。
「そっちもな」
相変わらず一見機嫌が悪そうに見える炎王。
「おー! ちっと情報交換しねぇ? 立ち話もなんだから、宿やか飯屋で」
ロイが誘ってくる。
「ここは落ち着きませんし、聞きたくない方にネタバレしてしまいそうだしね」
ロイの隣でクラウが穏やかに。
『よし、高く買ってくれそうなパーティー2つ確保! いいよね?』
隠れ里エールフで買った物を早速売り払うつもりか、お茶漬の声が弾む。
『はいはい』
『いいでしよ』
『うん、情報も欲しいしね』
私も売ってしまいたいので同意、菊姫もペテロも異論はない模様。なお、獣人二人はギルヴァイツァと暁と話していて聞いてない。
と、いうことで個室の方がいいだろうとなって、宿屋に移動。
ファストもそうだったが、最初の町は同時期に冒険者が押しかけがちなためか、宿屋が大きい。そしておそらく、見た目より広い。
一旦それぞれの部屋にゆき、ロイたちの部屋に集まる。ロイたちのクランはメンバーが多く、部屋で打ち合わせになることもあるらしく、寝室以外に応接間というか居間のある部屋をとっていた。
「金はかかっちまうが、他に迷惑かけそうだしな。最初のこの町の宿だけだぞ?」
そう言いながらソファに腰を下ろすロイ。
さすがに3パーティー18人全員は座れないので、ロイ、クラウ、白百合が3人がけのソファに座り、3人がけの向かいの2つ並んだソファに、炎王とお茶漬が座っている。
炎王のソファの肘掛けに、行儀悪くギルヴァイツァが半分腰掛けているのが妙に絵になる。その隣に立つクルル。
いわゆる誕生席にもソファが一つあるのだが、これはフルパーティーで6になるからだろう。ここには何で俺? という顔しながらシンが座っている。
窓辺に立ってる暁、3人がけソファの左右に1人ずついるカエデ、モミジ。ハルナとコレト、大地は暁とは別の窓辺に。
なお、私、ペテロ、レオ、菊姫は私の出した猫足テーブルと椅子にいる。
「で、転移門解放したのどっちだ?」
ロイが聞く。
ということは、解放は【烈火】か。
「俺たちだ。貴様がそう聞くということは、3パーティーとも別の町で解放したか」
炎王が答える。
「この大陸にここを含めて4つ以上、転移門がある町だか村だかがあるのは確定ってことですね」
お茶漬。
「途中、村もいくつかありましたが、転移門はありませんでした。そのあたりは前の人間の大陸と一緒ですね。うちはここから川の西、【烈火】は東に道をとりました」
そう言葉を切って、お茶漬を見るクラウ。
「うちは川を真っ直ぐ。真っ直ぐ好きがいるんで」
お茶漬。
「川……。道、あったかしら?」
頬に手を当てて思案顔のギルヴァイツア。
そのようなものはないです。
「道なき道はロマン!」
笑いながらレオ。
「それでよく町にたどり着いたな……」
引き気味の炎王。
「補給はどうしてたんだ? こっちは途中の村つーか、集落によってようやくって感じだったが、道なき道に補給地点あったのか?」
「川沿いだから主にレオが魚釣って、ホムラが料理だね。野宿ですよ、野宿」
ロイの疑問にお茶漬が答えてヒラヒラと手を振る。
「焼き魚はしばらくいいでし」
うん、うんと頷く菊姫。
「毒あんじゃねぇの?」
「川の魚にはないですね」
「マジか! じゃあ【釣り】と【料理】持ちがいれば毒ダメ無視できるのか!」
「いや、戦闘で食いますね。採取して『毒消し』作るのも併用してたけど、間に合わないというか、『毒消し』がうっすら毒っていう」
私たちがクリアした場所が「隠れ里」だとは触れられないまま、お茶漬とロイを中心に現状の確認が進んでゆく。
「こちらも【ドルイド魔法】で調薬の効果を上げて、『毒消し』を作っていましたが、なかなか……」
「素材のランクが高くて大変です〜」
「なかなか評価が上がりませんー」
クラウの言葉にカエデモミジが続く。
完成品の評価が低ければ、効力も落ちる。
「いっそ生産職が一人いた方が進めるかもしれんな」
チッっと小さく舌打ちをする炎王。
【烈火】のメンバーに生産職はいない。というか、6人の戦闘パーティーがそのままクランメンバーだ。
「『器用さの指輪+6』、売ろうか?」
「え、いいのかにゃ!?」
クルルが尻尾をびっと立てて食い気味に聞いてくる。
「ああ、多少マシになるだろう。【烈火】と【クロノス】にひとつずつ譲ろう」
【烈火】の【薬士】はクルル、【クロノス】はクラウなのだな、と思いながら取引画面を開く。
器用さは生産全般――ものによっては力の方がいる生産もあるが――や弓職、密偵職に求められるステータスだ。クラウの職業には向かないが、付け替えれば済むことだ。
……【ストレージ】の中からだが、自分のパーティーで使うわけではないので、お許しいただこう。この場合、許しをこう相手は自分なわけだが。
金が増えたところで変わらんし。
「おい、多いぞ」
クルルもクラウもなかなかな金額を提示してきた。
「最安は『雑貨屋』ですが、あそこは運が良くないと買えませんし、一般はその2倍、ひどいと4倍です」
「売ってる場所に戻れない状態なら、高くなって当然にゃ。山頂価格にゃ」
クラウとクルルが言う。
「これで手を打っていただかないと、ロイが【烈火】と支払いで張り合い出しそうなのでぜひ」
にこやかにクラウが断りずらいことを言う。
「わかった。感謝する」
わざとなのだろうな、と思いつつ取引を成立させて画面を閉じる。
「そういえば、うちのやつらが後追いで薬草類大量に持ち込んでくるんだが、いるか? 明日になるが」
ロイが言う。
「いるいる、いります。ところで転移門解放したとこで、『毒緩和薬』『声毒緩和薬』を買ってきたんだけど、いる?」
流れるようにお茶漬も商談に入る。




