388.皮算用
ホムラにお祝いありがとうございます
【転移門】が解放され、エールフ村……じゃない、隠れ里エールフを後に――
「買い物!」
目を輝かせているお茶漬。
――しない。【転移門】とともに、この里の店での売買も許可が出た。今までは大半に販売制限がかかっていたのだが、それが解除された。
「めいっぱい買って、戻って売らないと!」
「お茶漬が転売する気満々でし」
「交易と言って!」
菊姫にキッパリ言い切るお茶漬。
店の中は邪魔になるので、店がある巨木の盛り上がった根に腰掛けて店の販売物をチェックしている。このゲーム、店の敷地に入っていれば、買い物メニューが出せるのである。
プレイヤー側は任意で敷地の設定が変えられるので、外で買い物ができるかはまちまちだが、住民の店は店内に入らなくても、外で買い物ができるようになっているのがほとんどだ。
異邦人の店も外で買い物ができるよう、階段一段分くらい道から建物を下げている場合がほとんどだ。
挨拶も必要なく、お互い顔見えないネットショッピング――というか、そのままゲームシステムだな。
私は対面で購入する派だが、みんなで買い物というか、アイテムの検討をするときには、この店員さんから離れたところでウインドウを出して一覧が見られるのは便利だ。
「売れそうなのあるのか?」
シンが聞く。
「『毒緩和薬』一択かな。他にも色々あるけど、効果が分かりやすいし、今現在必要だし。帝国とアイルの貴族に楽器、レベックとヴィオールが高く売れるけど、あっちに簡単に戻れないからね。まずは港にいるプレイヤーに」
悪い顔をしているお茶漬。
レベックとヴィオール、確かバイオリンの原型っぽい楽器だったか。楽器が売れるなんて情報を、どこで仕入れて来るのだろう?
「ここ委託販売使えないでしょ、今の時点で販売してるのがバレると面倒じゃない?」
「ここでロイと炎王たちですよ。先を競い合っている2人に値を決めてもらう」
ペテロの言葉に、握り拳を握って力説するお茶漬。
「高値をつけた方に売るつもりの人が」
「いや、両方に売るよ、恨まれると面倒だし。ただ、高値をつけた方に、ちょっとだけ多くね?」
とてもとても悪い顔で返される。
「ロイと炎王が、自主的に値を釣り上げていくのを期待している人が」
何かと張り合う2人、お茶漬が止める振りをして煽る未来が見えた。
「ふっふっふ」
「わははは! 皮算用してる顔だ!」
アレな笑顔のお茶漬にレオがツッこむ。
「ロイと炎王、港にいないんじゃない?」
ペテロ。
「2パーティーとも、食料と毒消しの類の補給に戻ってるよ。さっきコーヒー飲んでるときの話だから、まだ港にいるでしょ」
お茶漬が答える。
ただコーヒーを飲んでいて遅れたわけではなかったようだ。
「準備を整えるタイプかと思ったでしが、保たなかったでしか」
腕を組んで首を傾げる菊姫。
「僕らはほら、パーティー中1人はあんまり毒が効かない毒忍者で、1人は毒で回復する変態だから。毒消しの減りが3分の2なのよ」
「誰が変態」
「アナタです、アナタ」
ジト目で見ても動じないお茶漬。
「そう言うわけで、ロイと炎王。毒耐性育てながら、ちょっとずつ行動範囲伸ばしてるみたいよ?」
「あー。俺たちはガンガンに命削って【毒耐性】育てながら進んでるけど、それやるにゃ薬がないと難しいのか」
シンが言う。
「聖法が効かない毒が混じってるしね。あとは、食糧かな? うちみたいに料理と食材、めいいっぱい担いで大陸渡ってきてないでしょ」
「ああ、ここが食べるものも回復するはずのものも毒だと分かってから、食料とアイテムの用意をしたからな」
無限にアイテムを収められる【ストレージ】を使うことは、この初めての場所を楽しむために封印し、アイテムポーチに移したアイテムだけを使って進んでいる。
だが、そもそも本来は船に乗る前に準備するもの。ハッキリとした情報のない中での準備では、どうしても必要なものが不足したり、無くていいものが入っていたりと悩ましかっただろう。
「まあ、ホムラのことだから料理はたくさん持ってきたと思うけど」
「否定はできない」
お茶漬の言葉を肯定する。
「――『声毒緩和薬』というのがあるようだが、これはどう考えてもシレーネか、取り巻きらしいハーピィ対策だな」
話題を売り物に戻す私。
「うん、だね」
ウインドウを見る隣で、ペテロが笑顔だが少し難しい顔をして頷く。
この顔、絶対『声毒』とやらが手に入らないか考えてるな?
「『毒緩和薬』の10倍近いじゃん!」
ぐえっという顔をして叫ぶシン。
「そっちは高いし、まだシレーネに到達できるのは先だから。必要なのは『毒緩和薬』ですよ」
お茶漬が言う。
「「えっ!」」
獣人2人から声があがる。
「……まさか」
嫌な予感。
「もう買ったでしか?」
言い淀む私に対し、菊姫がズバッと聞く。
「買った! めいいっぱい買った! 高い方がもっと高く売れると思って!」
「荷物パンパン! 金はスッカラカン! こっちの方がレア度高そうだったから!」
レオとシン。
「冷静に考えて、他のプレイヤーもシレーネ前にこの隠れ里に到達するだろうから、『声毒緩和薬』が必要になるころはこの里で定価で買うのでは?」
軽く首を傾げて言う私。
絶対ではない。もしかしたら隠れ里らしくここが見つけられないまま、シレーネと対峙するプレイヤーも多くいるかもしれない。
「う……っ」
「ぐ……っ」
言葉に詰まる獣人2人。
「『毒緩和薬』一択だって言ったでしょう。ちゃんと聞いて!」
お茶漬が頭をかかえる。
「クーリングオフ、クーリングオフの制度はありますかあ!?」
「わはははは!」
叫ぶシンに泣き笑いするレオ。
「元気だすでし。聞いたことないアイテムの名前で、引っかかって買う人もいると思うでしよ」
菊姫が感情を乗せない声で、おざなりに言う。
2026年6月20日 12巻発売です
コミックス4巻同時発売〜
https://www.tobooks.jp/newgame/
4月10日には「転移したら山の中だった」の16巻が発売になります




