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微子の憂鬱  作者: 日和見


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息子達

微子の憂鬱 第12話 姜子牙きょうしがという異民族の怪物を軍師として迎えた、歴史的な朝議。それが閉会した直後、政庁の片隅で、若き三人の男たちが新参の軍師をじっと見つめていた。 主君・姫昌きしょうの息子たち――次男の「はつ」、三男の「せん」、そして四男の「たん」である。 父である姫昌があれほど謙り、当の姜子牙は恐縮しながらも、家臣たちを鮮やかに黙らせてみせた。姜族との同盟、交易所による経済改革、そして南の大国「しょう」をも巻き込む壮大な大局観。 その圧倒的な知性に、若き発と鮮は深く魅了されていた。二人は顔を見合わせると、意を決して姜子牙の元へと歩み寄った。「姜子牙殿。少し、よろしいでしょうか」 声をかけたのは、次男の発だった。のちに周の武王となる若者は、真っ直ぐな瞳で姜子牙を見据える。「我ら兄弟も、父上と同じく、あなたの深い智慧から教えを賜りたいのです。我らをあなたの弟子として、導いてはいただけませぬか?」「どうか、よろしくお願いいたします!」 三男の鮮も、発の隣で熱心に頭を下げた。 二人の若き獅子からの真摯な願い出に、姜子牙は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの穏やかな、人当たりの良い笑みを浮かべた。「これは……恐れ多いことにございます。発殿、鮮殿。私のような者で良ければ、お互いの時間が合う時にでも、喜んで智慧を分かち合いましょう」「おお、ありがとうございます!」 嬉しそうに顔を綻ばせる発と鮮。 しかし――その微笑ましい師弟の光景を、背後から底冷えするような苦々しい眼差しで見つめている者がいた。 四男の、旦であった。(……あの男は、危険だ) 旦は拳を固く握りしめ、胸の内で鋭く歯噛みした。 確かに、父を羑里ゆうりの地獄から救い出してくれた恩人であることは認めよう。その知略が神懸かっていることも事実だ。だが、だからといって、一介の「同盟者(よそ者)」にすぎない男が、我が周の最高指導者の席に居座るなど、あってはならない。(父上も、発兄上も鮮兄上も、あの男の才に目を眩まされている。だが、このままでは周の全権が、あの姜子牙という怪物に盗み取られてしまうぞ……!) 周の血統を守り、国を真に自立させるためには、いつかあの男を排除しなければならない。旦の心に、仄暗く、しかし強固な「決意」の炎が灯った。(……もし私が十分な力をつけたならば。いつか必ず、あの男をこの周から引きずり下ろし、排除してやる) もちろん、今その思惑を少しでも悟られれば、姜子牙の知略によって逆に排除されるのは我が身だ。今はただの無垢な弟を装い、慎重に、息を潜めて牙を研がねばならない。 姜子牙の弟子となった発と鮮。 そして、その裏で姜子牙への冷徹な敵意を固める旦。  周の内部にもまた、未来の激動を予感させる小さな「亀裂」が、静かに、しかし確実に生まれつつあった。(第12話 終)

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