覚悟
とある森の中。暗闇の中、焚き火の炎に照らされた二つの人影があった。一つは今より少し幼いがレオであった。そしてもう一つは黒髪で長髪の女性、帝国の軍服に黒いジャケットを羽織っていた。
「ねぇレオ。レオはさ、私と出会えて幸せ?」
唐突な女性の問いかけにレオは食べていた魚を落としそうになった。
「急に何言ってんだよ!アイラ。」
クスクスと笑いながらアイラと呼ばれた女性は言葉を続けた。
「ごめんなさい。ふとね……思ったの。もし、レオと出会えてなかったらどんな人生だったのかなって、変だよね、まだ出会って一年しか経ってないのに……」
「別に変じゃないさ……俺も同じ気持ちだよ」
アイラは焚き火の炎と同じ色になったレオの顔みて満足そうな笑みを浮かべた。が、すぐその瞳はどこか寂しげな眼をしていた。
「だからね……レオ。私はもう充分幸せだから……ううん幸せだったから……私の事は忘れてね」
「何言ってんだ……?」
いつのまにか焚き火の炎は消え、手に持っていた魚もなくなり、アイラは影の中の深淵と落ちて行く。
「まて!待ってくれ!アイラ!俺はまだお前と……」
一緒にいたいと言うレオの叫び声は虚しく闇の中へと消えていった。そして目が覚めるとそこは宿屋の一室、横にはマリエラの寝顔があった、どうやら自分は手当されて看病されていたのだとレオは悟った。そしてレオの寝言が聞こえたのかマリエラも目を覚ました。
「むにゃ……レオさん……今私の事、呼びましたか?」
「いや……あんたじゃない……」
そうですか?と言いながら不思議そうな顔でマリエラは起き上がった。
「それよりここはどこだ?あれからどうなった。」
魔物を倒したところまでは覚えているがここまでの記憶がない。
「ここはサルビアの宿屋です。あの後兵士さん達がここまで連れて来てくださったんですよ。」
「そうか……」
「そうか……じゃないですよ!レオさん危なかったんですからね!あまり無茶……しないでくださいね。」
自分の状態は確かに危なかったはずだ、ゼノであるレオは人より身体能力が高く、再生能力も高いが、レオは自分が普通のゼノではない事を知っていた。だから自分の体が思ったよりも治ってることに疑問をもった。
「傷……思ったより浅いが、どうしてだ?」
「それはある人が血を提供してくれたからですね!レオさんに癒しの精霊術が効かなかった時は少し焦りました……」
「まあゼノは半分魔物みたいなものだからな光の力を阻害することがある……それより血をくれたやつは何者だ?」
いくら血を分けられたらって身体が治るなんて聞いたことない、それこそ人間の血ではなく、異質な存在「ゼノ」でもない限り。
「えっと……ライアンさんって方です。何者かはよく知りませんが……あ、あそこにいる方がそうです。」
マリエラが窓の外に目をやると、ちょうどライアンの姿があった。だがそこには帝国の兵士達もいた。
「あれは!?」
「どうやら帝国の兵士のようだな。あんたの追手か?」
「わかりません……でもそれにしては様子が……」
周囲の状況は人探しというより騒然としていた。兵士達は完全武装していて、まさにこれから戦争が起こるかのように……そんな予感をしていた最中帝国の兵士が演説を始め、その直後ライアンを撃ったのだ。そしてその首を刎ねようとした。
「!!大変!……あ!レオさん!?」
「チッ!どいてろ!」
レオは窓ガラスを破りライアンに振り下ろされるはずの剣を受け止めた。
「これで貸し借りは無しだな」
レオは力を解き放ち、その場を制圧し、兵士達を殺そうとしたがライアンとマリエラの静止で思いとどまった。リード達が駆けつけ、辺りが騒がしくなり、撃たれた傷により意識が薄れかけライアンはレオ達を見失い、気を失った。
目が覚めた時、そこは宿屋の部屋だった。
「それにしても……あんたほんと体の治り早いわね。ゼノなのかい?」
宿屋の女主人アンナはライアン見るなりそう言った。先程撃たれたばかりの銃跡は精霊術で治療したにしても治りが早かった。
「昔から傷の治り早いんだよな……でもじーちゃんも人間だしゼノじゃ無いはずなんだけど……なんでだろ?」
ゼノは突然変異と言われているが基本は血筋による血統。ゼノの子はゼノであり。人間の子からゼノが生まれる確率はとても低い。
「さあね。私にゃわかんないよ。それよりあんたこれからどうすんだい?」
「ちょっと町、回ってくる。リード達にも会わなきゃだし、あとあいつらにも。」
「あいつら?」
「ああ俺の隣の部屋にいた、レオとマリエラ。レオにはお礼言わなきゃだし、それに少し聞きたいことあんだよな。」
彼らとはほんの少しあっただけだったがライアンは心惹かれていた。レオの活躍ぶりはまさに英雄の様だったからだ。
「そうかい……気をつけて行くんだよ。」
「ああ!また後で!」
同刻、レオとマリエラは町の入り口まで来ていた。が、マリエラはぴたりと足を止めた。
「どうした?」
「やっぱりもう少しこの町に滞在しませんか?彼らの様子が気になりますし……」
マリエラはやはり少し心残りがある様だ。己の選択に自信がないのだろう。迷いを隠せずいた。
「あんたが決めたことなら従うさ、なら一度、宿屋に戻るか。」
「はい……ありがとうございます。」
二人が宿屋に帰ると、アンナに会った。アンナはマリエラ達を見かけるなり声をかけて来た。
「おや、あんた達。ライアンには出会えたかい?」
「ライアンさんですか?いえ会っていませんが……どうかされたんですか?」
「いやなに、あの子がねさっきあんた達にお礼を言うんだって探しにいったんだが、どうやら入れ違いになった様だね。」
「ああ、そうなんですね……そう言えばレオさん……」
マリエラは何か言いたげにレオの顔を覗いた。
「なんだ?」
「ライアンさんを助けたのは何故ですか?魔物が居たわけでもないのに」
少し棘のある言い方ではあったが、まあ当たり前だろうホークの事、先程の兵士達の事をレオは助けようとはしなかったのだから。
「あんたが余計な事、教えてくれたからな。」
「余計な事?」
「命の恩人なんだろ?あいつは借りを作ったまま死なれたら寝覚めが悪いだろ。それだけだ。まあだがもう助けることはないさ。借りは返したからな。」
相変わらずのレオ節にマリエラはなるほどと納得した。
「若いのに随分とまぁ、ひねくれてる子だね」
アンナは呆れながら言った。
「それより聞きたいことがあるんだが……」
「……先程の帝国兵士さん達はどうなりましたか?」
マリエラは本題にはいった。マリエラがここに戻って来たのは帝国の彼らの情報を集めるためだったからだ。
「ああ、さっきの連中ね……今はリードさん達が連れて行ってこの街の牢獄に捕らえているはずだね。明日の朝には王都に連行するらしいよ。」
「そうですか……」
とりあえず何事も起きてない事にマリエラはほっとした。
「それにうちの旦那が看守を勤めてるから大丈夫さ!あの人かなり強い兵士だったのよ。まあ今じゃ、酒好きのオッサンだけどね!」
笑いながらアンナは言った。貶していたはいたがそこには信頼と愛情を感じた。
「よかったです……じゃあ私達も明日の朝までは滞在させてもらいます。」
「そうかい……ライアンが帰って来たら、あんた達の部屋に行くように言っとくよ。ゆっくりお休み。」
「ありがとうございます。」
マリエラ達は、部屋に戻り身体を休めた。
ライアンは町を周り、レオ達を探したが見つけられなかった。とりあえず、リード達の所へと向かった。帝国の兵士が捕らえられている牢獄へ。
「リード!」
「ん?ライアン!お前……人間か?ほんとに」
つい先刻、撃たれた筈なのに元気に動き回るライアンを見てリードもアンナと同じ反応をした。
「それ、アンナさんにも言われた。それより、リード達はこれからどうするんだ?」
「俺たちの仲間が1人、大怪我なのと。帝国の連中、連れていかなきゃだからな明日の朝には王都にもどるさ。」
「そうか……あいつらどうなるんだ?」
「まあ普通に考えたら死刑だろうな。」
「そうか……」
ライアンの落ち込む姿を見てリードは肩を叩いた。
「まああまり気にしすぎるな。お前の判断は正しかったさ。」
「ありがとう」
「お前はどうするんだ。これから」
「とりあえず俺を助けてくれた人達を探そうと思う。」
そう言えば聞いたと言わんばかりにリードは手を叩き思い出したように言った。
「ああ!ゼノが助けたくれたらしいな。あの一件があって彼等は俺達を憎んでいると思ったがな……」
かつて人間が起こした、コーネリアの悲劇。ゼノ達が暮らす街、コーネリアを脅威になるからと一方的に滅ぼしたと言われている。あの悲劇、確かにあの時の生き残りなら、人間を恨んでもおかしくない。
「じーちゃんから聞いた事ある。酷い話だよな……」
ライアンは祖父から話は聞いていた。祖父はゼノと共闘した事もあるし、もちろん悲劇が起きた時は既に前線を離れていた為、直接関与はしていないようだがその事でも祖父は深く後悔していたのをライアンはよく聞かされていた。
「とりあえず1回宿屋に帰ってみるよ。」
「そうか。兵士になる気になったらまた言えよ。」
「おう!」
ライアンはリード達に手を振り、別れた。
夕刻、宿屋に帰るなりアンナにレオ達が部屋にいると聞き、部屋を訪ね。二人に話をしに行った。
「それで……ライアンさん。話とはなんでしょうか?」
「えっと……まずはさっきは助けてくれてありがとう!」
ライアンは素直な気持ちをまず伝えた。今自分が生きているのはレオが助けたくれたお陰に他ならないからだ。
「あともうひとつ聞きたい事があったんだ。」
「聞きたいことですか?」
マリエラは首を傾げながら聞いた。
「レオはゼノなんだろ?人間が憎い筈なのになんで助けてくれたのかって。」
「別にお前を助けた訳じゃない……ただ」
「借りを返した。それだけですよね?」
「……ああ」
いつものレオ節を遮り、マリエラはライアンに告げる不器用な人なのだと。
「あと……人間を憎まない理由だったか?その理由なら簡単だ俺はゼノじゃない。それだけだ。」
「えええ!!レオさんゼノじゃないんですか!?最初に会った時、言ってませんでしたか!?」
レオの告白に驚いたのはライアンではなくマリエラだった。それもそのはずレオが扱う力はゼノの特徴と全く一致しているし本人がゼノと言っていたからだ。
「厳密に言えば違うって話さ。」
「どういうことですか?」
「俺の核は元から持って生まれたものではなくてある科学者が後から俺に植え付けたものだ。」
「そんな事が可能なのですか!?」
「まあ成功する可能性は低いらしいがな。だから俺の身体は普通のゼノとは違う。力を使う時間も制限はあるし、副作用もある。」
レオが傷を受けた時、回復能力が低かったのは純粋なゼノではく人工的に作られたゼノだった為、力を使っていない間は人間と変わらなかったからであった。
「まあそれは別の話か。とにかく俺はゼノとは違う。だからゼノの事情なんか俺には関係ないのさ。これで納得したか?」
「そうなのか。ごめんな、深く聞いちゃって……」
「別に気にするような話じゃないさ。」
「この流れで聞くのも悪いんだけどさ…なんで二人は旅をしてるんだ?」
「えっとそれは……」
「ああ!言いづらかったらいいんだ。でもマリエラ格好が普通じゃないっていうか……なにか訳があるのかなって」
そう言われてみたらマリエラはマントを羽織っているとはいえ目立つドレスを着ている。それはまあ気にならない方がおかしいだろう。
「うう……」
マリエラは少し考えた後、味方は多い方がいいと思い、ライアンを信頼し己の話をした。父の事、神器を集めるために旅をしていること。
「そうだったのか……マリエラは凄いな」
「え?」
「自分の父親でも間違ってると思ったことから、間違いを正そうとしてるんだろ。それは誰にでもできることじゃない。尊敬するよ。」
「……ありがとうございます。でも私は……」
マリエラは何かを言いたげではあったがその言葉を飲み込んだ。
「よし!決めた!俺も旅について行くよ!仲間は多い方がいいだろ。」
「え!?」
ライアンの突然の提案にマリエラは驚いた。
「俺、英雄になりたいんだ。でもどうすればいいのか分からない。だから俺が正しいと思った事をしたい。だからマリエラの話を聞いて、俺もマリエラのお父さんが戦争を起こそうとしているなら止めたいって思ったんだ。……ダメかな?」
「ダメ……ではありませんが……レオさん。どうしましょうか?」
「俺は別に構わないさ。覚悟があるならな」
「覚悟?」
ライアンの問いかけにレオはマリエラの時のように冷静に冷酷に言い放った。
「人を殺す覚悟だ。」
「別に殺さなくたっていいんじゃないか?今日みたいに止めればいいだけだろ!」
「止まればいいがな。だが止まらない人間もいる。目的の為ならば人を殺すことなんてなんとも思わない人間がな。俺もその1人だ。魔物を殺す。そのためならどんな手も使うし、人殺しが必要ならそれもするだろう。」
「ッ……」
レオの物言いはまさに残酷な命の刈り手。「死神」そのものだった。




