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Grim Reaper  作者: Y A


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7/7

魔女

「人を殺す覚悟があるのか?」

 レオの冷酷な問いかけにライアンは目を閉じ、一瞬考えただがすぐレオの目を見て真っ直ぐ答えた。

「……俺は、殺す事はしたくない」

「そいつのせいで沢山の人が死んでもか?」

「それは……分からない……でも最後の最後までその選択を簡単にはできない」

「なぜ?」

「その選択を何も感じず、簡単に選んでしまえたら…それはもう……俺が思う英雄にはなれない気がするから。」

「綺麗事だな」

 レオは隣で話を聞いていたマリエラを見て問いかけた。

「あんたはどう思う?」

「……私は」

 突然の問いかけに、マリエラは戸惑っていた。続く言葉が出てこない、マリエラの中で答えは決まっている。だがそれを発言するにはまだ覚悟が足りなかった。そんなマリエラの思いや葛藤など、無視するように宿の下から悲鳴が上がった。それは宿屋の女主人のアンナの悲鳴だった。ライアン達は下へと降りた。そこには泣き崩れるアンナとリードと共に行動していた兵士、そして袋に包まれてはいたが見える範囲でも分かるほど身体を魔導銃で貫かれた死体があった。それはグスタフ達を捕らえていた牢獄の番人。アンナの旦那であった。

「……何があったんだ!」

 ライアンは声を荒らげた。兵士は言う街に潜伏していたグスタフの仲間たちが現れ、アンナの旦那を撃ち殺したと。

「嘘だろ……」

「それだけじゃないんだ……あいつら爆石を使って、民家や孤児院を爆破したんだ!今リード団長が救助に向かってるけどあいつらは取り逃したみたいで……」

 兵士はあまりの惨状を思い出し、泣き崩れた。

「俺達も行こう!レオ……マリエラ?」

 ライアンはすぐ現場へ行こうとした。が、既にレオ達の姿はなかった。

 サルビアの町全体が見渡せる丘にて帝国の兵士三十人程がそこに居た。勿論、小隊長のグスタフの姿もそこにあった。一部ではあるがら自分達が逃げる際、起こした爆発の火を見ながらグスタフは無念そうに呟いた。

「苦しまず救済できなくてすまない……だがその苦しみもすぐ終わる……」

 残りの兵士に向かってグスタフは叫んだ。

「我らはこれより!体勢を整え、もう一度彼等を救いに行く!苦しみしかないこの世から彼等を救済するのだ!我らが神。サザマルナサ様の代行者レガトゥス「ヴァルセルム陛下」の名のもとに!」

「オオオ!」

 グスタフの激励で兵士達は奮い立った。グスタフの号令でもう一度、町に攻めいろうとした。が、そこに木の影より死神と帝国の姫。マリエラが現れた。

「これは……姫様ではありませんか!陛下が探しておりましたぞ。我らはこれより町を救いに行きますが、姫様も行かれますか?」

 グスタフとマリエラに面識はない。正確に言えばマリエラは兵士の顔をいちいち覚えていなかっただけで会ったこと自体は何度かある。だが言葉を交わすのはこれが初めであった。それゆえマリエラには理解できなかった。グスタフが何故、救済といいながら人々を虐殺するのか。

「何故ですか……なぜ、こんな事を!?お父様は本当にこんな事を貴方達に命じたのですか!」

「我々は世界中に住む人々を救うべく、サザマ様を復活させる神器を集めています。ただそれだけでは時間がかかりすぎます。その間人々はこの世界で苦しみ続けるのです。なので我らは先にそんな民を救うべく導いているだけです。死へと」

 信じられないとマリエラは思いたかった。だが父親が戦争を起こしているのも知っていたし、破壊の神を復活させようとしているのも分かっていた。だからこそグスタフの言葉は真実だと受け止めざるしかなかった。

「本当に……お父様は変わってしまったのですね……」

 マリエラは涙を流した、己が知る、かつての父と今の父の差があまりに大きく、感情が込み上げてくるのを抑えられずにいた。

「……これ以上話しても無駄だろ。さっさと殺るぞ。」

 レオはゼノの力を覚醒させ影から武器を取り出した。だが、マリエラはまたレオの行動を制止した。が、先程とは違いその瞳には迷いがなく、決意を感じさせた。死神と契約したあの日のように。

「レオ……お願いがあります。彼等を殺さないでください」

「あんた……まだそんな事を……」

 レオの言葉に違いますと遮りマリエラは己の決意を伝えた。

「あなたには彼等を動けなくさせて欲しいのです。彼等は……私が殺します。それが……私の覚悟です。」

「……それがあんたの選んだ道か……いいんだな?」

「はい。」

 その瞳にはもう涙は流れていなかった。マリエラの返事と共にレオは駆け出した。数多の魔物を屠ってきたレオにとって彼らより身体能力が格段に低い人間など相手にもならなかった。レオは彼らの手足を切り落とし、無力化させた。頭目のグスタフですらレオには何も出来ず、地面に切り伏せられた。抵抗をしようと銃を構えたが、それもレオにより弾き飛ばされた。その銃はマリエラの眼前へと落ちた。マリエラは銃を握り、一人の兵士に近づいた。兵士は怯えていた。マリエラに向かって命乞いをした。そんな兵士の問いかけにマリエラはある事を聞いた、

「……あなたの名前……教えてくれませんか?」

「……は!?ワ、私はボラコです!ボラコ・アルメド!騎士の家系で王の意向に逆らえなかっただけなのです!見逃してください!姫様ァ!」

「……あなたにも色々な事情があったのでしょう。でもあなたは何度もチャンスはあったはずです。でも貴方はその道を選ばなかった。そしてあなたに殺された人たちはチャンスさえも貰えなかった。そんな貴方達を助ける事はできません。……ごめんなさい。」

「そんな!……!」

 兵士は絶望した。グスタフは言っていた。死こそが救いだと彼等、帝国はそれを掲げていたが全ての兵士がそれに賛同している訳ではなかった。だがそれでもマリエラは彼等に銃を向けた。彼等は罪を犯したのだ。多くの人を殺した。この町だけではなく、別の町でもきっとそうしてきたはずだ。

「貴方の顔と名前……私は忘れません。これは私の罪です。」

「待っ!……」

 閃光が放たれた。魔導銃は精霊石をはめていて。持ち主の魔力をエネルギー弾として放つ。その光は一瞬で兵士の顔を潰した。マリエラは他の兵士の元にも近づき名前を聞いて言った。「イウリアン・マッフェイ」「アイオリア・ヴァルヨネン」「ラダリウス・ロルト」「ルシア・スココフ」「マコンフルトン・ドゥナエヴァ」「ダニアル・ポアンカレ」

「コリーザズィ・キリヤコフ」「アルヴェル・サーントー」

「テセマリア・マッカロー」「ミロスラフ・アチェレンツァ」中には名前など言わない者もいた。

「そうですか……なら貴方の顔は忘れません……」

 そう言い放ち冷酷に引き金を引くマリエラ。彼女の父親は今や世界に破滅をもたらす「魔王」と言われているが、彼女の姿もその父親のように狂気的で残虐な、まさに

「魔女だな。彼女は」

 グスタフは己の前に立ち、マリエラを見守るレオに向かってそう言い放った。いまのマリエラはそう言われても仕方なかった。

「人思いに殺せばいいものを……いたずらに苦しめ、死へと導く……まさに陛下の娘だな。」

「その理論で言うならお前らの陛下も魔王と言われるほどのクズなんじゃないか?」

 レオの返答に、血を吐きながらもグスタフは笑った。まだ生きてるとはいえ、レオに斬られているのだ、もうそう長くは無いだろう。

「我等は最初からサザマ様を信仰していた訳ではない……だが陛下も我等も悟ったのだ。お前達フォテスの民はこの世を天国といいあの世を地獄と呼ぶ。だが我等にとってはこの世こそ地獄なのだ……だからこそ陛下は魔王と呼ばれようとも人類を救うべく立ち上がったのだ。」

「……自分達が苦しいからって、それを押し付けるのは違うんじゃないか?」

「フフ……若いな、お前達はまだ知らないだけだ。生きていれば必ず絶望が訪れる。そうなる前に救うのだ……その苦しみから……いや?お前は知っているのか。なあ死神よ」

「…………」

 レオの年齢はまだ大人と呼べず少年と言われる歳だ。だがその歳で彼は死神と呼ばれるほどの力をつけ、魔物の殺してきた。その過去には深い何か、彼を死神への道へと追いやる絶望があった。

「……どうやらお迎えの時間だ」

 グスタフの目の前にはマリエラが立っていた。その後ろには部下の亡骸があった。誰一人として息はしていなかった。

「……貴方の名前も改めて……教えてください」

 銃を構える。レオはグスタフの傍を離れた。

「……フ、我が名はグスタフ・ドーラーですよ。ア……今はマリエラ様と名乗っているのでしたっけ?一度町で、そう呼ばれていましたよね。」

「……はい……」

「フフ……母親の名を偽名として使うとは……まあ私には関係ない事ですかね」

「……最後に何か言うことはありますか?」

「そうですね。先程、死神殿と語りましたからね。特に言うことはありませんが。貴方に対して一つ言うのなら……」

 グスタフはマリエラを見た。気丈に振る舞い、冷酷な魔女の様に見える、彼女でも身体は少し震えていた。人を殺す、その苦しみに耐えながらも銃を構える彼女にグスタフは言った。

「……地獄で待ってますよ。魔女殿」

 皮肉を込めてニヤリと笑った。マリエラは引き金を引いた。今日何度も引いたが、その引き金は何度引いてもとても重く感じた。命を奪う行為は彼女にとって慣れるものなどではなく、辛く恐ろしいものだった。苦痛に歪む相手の顔が、一瞬の閃光の後に消えていく。だがマリエラの脳裏から消えることは無い。彼女はグスタフを撃ったあとも暫く呆然としていた。彼女にとってはこれで終わりではない。これから先も何度も訪れる、始まりでしか無かった。マリエラの帝国との戦争は今この時より始まったのだ。

 魔女と呼ばれようとも彼女はこの地獄を生きていく。死神と共に。

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