救済
国境の町「サルビア」
ここはヴァンディッシュ帝国とエンティ王国の国境付近に存在する町。そのため多くの旅人がやって来る。そして今一人の少年がこの町にやって来た。彼の名前は「ライアン・オーベルグ」小麦の様な髪色、瞳はまるで空のような色をしていた。そんな彼だが祖父と二人、山奥でひっそりと暮らしていたが、祖父のような英雄に憧れて町へと飛び出した。「レグルス・オーベルグ」エンティ王国に住むものならその名を知らぬものはいない。五十年前、ゼノ大戦の中、ゼノと共に魔物を退けた。英傑の一人である、その戦さぶりはまさしく鬼神のようだったと言われている。しかし祖父はライアンがいくら言っても稽古などをしてくれずライアンは村で一人燻っていた。が、一月前「大和大国」からやって来た、侍と出会い修行をつけてもらった。そして世界に出て、英雄になるため祖父の静止を聞かず山を飛び出して来た。そして今眼前に広がる街並み、人並み、目に映る全てにライアンは高揚していた。ここから自分の物語が始まるのだと確信した。
「すげ〜〜!!これが町か!人がいっぱいいる!!あ、あれなんだ?美味そーだな!」
その言動は、まさに田舎者。目に映る全てが珍しくライアンの心を掻き立てる。が、ライアンはすぐ自分が何をしに来たかを思い出し、邪念を払った。
「いけね!こんな事してる場合じゃなかった!じーちゃんの様な英雄にならなきゃな!こんなに人が居るんだし困ってる人も沢山いるよな!」
ライアンは片っ端から色んな人に声をかけて回った。老人、若い女性、元気に走り回る男の子、しかし皆、口を揃えていう。困ってる事はないとライアンは一人の気さくな中年の男性に詳しく話を聞いた。
「この町にはいまリード様が居るから、困ってる事はないなぁ……あの人、ほんと何でもやってくれるんだよね。でも明日王都に帰ってしまうみたいだけどね。」
「リード?その人って何してる人なんだ?」
「ああ王都の騎士団で隊長を任せられてるお方でな。今数人の兵士を連れて見回りをしてくれてるみたいでな。ほらここんところ帝国が戦争を起こそうとしてるみたいだからな。」
「そうだ。兄ちゃんもし興味があるならリードさんところに行ってみたらいいあの人見回りついでに新しい兵士を募集してるみたいだから試験を受けてみたらいいさ。」
「兵士かぁ……じーちゃんの様に兵士を目指してみるのもいいかもな!わかった話聞いてみるよ!ありがとうな!」
「おう!頑張れよ!」
ライアンは皆から頼りにされているリードを探してまた町を巡った。そして兵士の試験が行われているという広場にやって来た。そこには赤髪の長髪の兵士と数人の兵士が居た。どうやら候補生たちと木剣で実戦形式の試験をしていた様だ。
「よし。んじゃあこれで全員だな。じゃあこの後、簡単な面接するから一人ずつ……ん?」
試験が終わった者たちの最後尾でライアンは手を大きく振り自分の存在をアピールした。
「俺も試験!やらせてくださーい!お願いします!」
「……まあいいか。よしお前名前は?」
「ありがとうございます!えっと俺、ライアン・オーベルグです!」
周りが一瞬騒ついた。オーベルグの名に反応した様だ。赤髪の兵士も一瞬反応したがすぐ剣を構えた。
「そうか……俺はリード・ザグナル。よろしくな」
そう言い木剣をライアンに渡した。かかってこいと言わんばかりに手招きをした。ライアンも勢いよく剣を振り回した。ライアンの剣技はそこまでのものでは無いが侍によって基礎は教わっているため形にはなっていた。が、リードが注目したのはその異国の技ではなく。人並外れた身体能力だった。リードも人の中では鍛えているため身体能力は高い。だがライアンはそれを逸脱していた。力も強く、剣の振りも速く、なにより高い、高く、飛ぶ。その跳躍から振り下ろされる斬撃は隙だらけだが当たればひとたまりもないだろう。
「天斬!!」
「おっと……!!やるなお前。だけど」
ライアンの渾身の一撃をかわしリードは鋭い突きを放つ、実戦経験の少ないライアンはあっという間に地面に倒されていた。
「いてて………」
「大丈夫か?」
ライアンは差し伸べられた手を取った。周りからは一瞬だったが凄まじい戦闘だったため。歓声が上がった。
「ライアン。お前の面接は最後だ。少し待っててくれ。」
「はい!」
待たされる事。数刻。ライアンはある部屋の一室で数人の兵士とリードの前に座っていた。そこでは簡単に身の上の話をした。自分が英雄の孫である事。そして祖父の様な英雄になりたい事。
「さてライアン早速だがお前の合否について言う。」
「え、あ、はい!」
唐突の事だったので少し驚き体勢を崩したがすぐ立て直しピシッと椅子に座り直した。
「不合格だ。」
「えーー!なん……何故ですか?」
またもやあまりの事に口調が乱れたが立て直した。
「理由は幾つがあるがて……まずお前兵士になりたいわけじゃないだろ」
まあそれはそうだった。ライアンには、英雄になりたいと言う思いがあるがそれが具体的にどうすればなれるのか分からなかったからだ。だから祖父や父の辿った道を歩こうとしただけなのだ。
「そうですね……」
「兵士ってのはお前のお祖父さんにみたいに英雄として言われるのはごく一部のものだ。基本は何者にもなれないし何者にもなる必要はない。」
「……?と言うと?」
「兵士とは自分の主。王に従う事。国に従うと言う事だ、主人が望む事を叶えるのが兵士の勤め。王が言えば英雄にもなるだろうが基本は戦争の道具でしかない。勿論俺たちにも正義はあるだがそれは俺たちに取っての正義でしかない。誰かにとっては悪になると言う事だ。」
「……」
ライアンにはリードが何を言ってるか理解できなかったがリードは続ける。
「今は分からなくてもいいさ。でも、お前は俺たちよりも秀でたものがある。力がある。その力を己で考え、己が見つけた正義のもとお前が目指す英雄になって欲しいのさ。」
そう言うとリードは席を立ちライアンに近づき少し微笑みながら言った。
「レグルスさんとは知り合いでな。あの人は本当に尊敬できる人だ。兵士を目指してもお前の言う英雄になる事もできるとは思うがよく考えてみて欲しい。もしお前が考えた上で兵士になるならいつでも歓迎するさ。その時は王都に来て俺を訪ねてくれ。な!」
そう言い肩を叩く、ライアンにもそれに応え笑顔で返事をしその場を離れた。リード達は合格になった数人の町人共に町を離れ王都へと向かった。ライアンは宿に行き食事と風呂を済ませ、部屋でリードに言われた事を考えていた。これまで漠然としてしか考えてなかった英雄というものについて。
「俺が目指す……英雄か……何をするべきなんだろうな。」
考えたがすぐに答えが出る問題でもない。ライアンはそう思い、とりあえず行動あるのみだと思った。
「よし。とりあえず明日からいろんな街で困ってる人助けるか!まずはそれからだな……」
そう思い寝ようとしたが宿屋の外が少し騒がしい事に気がつき部屋を出て宿屋の女主人に声をかけた。
「なにかあったんですか?」
「ライアン!いや実はねさっきリードさん達が森でゴブリン達に襲われたみたいでね。」
「え!?リードは大丈夫だったのか?」
ライアンは一応リードなら大丈夫だとは思ったが聞いた。女主人はそれについては大丈夫だと言ったが少し困った様な顔をした。
「……どうやら怪我人が出たみたいでね、兵士さんから一人と通りすがりの少年らしいんだけどね……」
「なにかあったのか?」
「兵士さんの方は癒しの精霊術でどうにか落ち着いたみたいなんだけど少年の方がどうやらゼノらしくて癒しの精霊術が効かないみたいでね……手当てをしてるんだけど血が足りないみたいでねぇ……」
基本的に現代の治療は光の精霊を用いた癒しの精霊術で行うのが基本であるため魔物の力を使う彼らゼノにはその効果が効きにくい。そのため普通の治療になるのだが今ゼノを滅多に治療することなどないため適切な処置ができない様だ。
「俺の血使ってくれ!俺、人より怪我とか治るの早いし多分きっと良くなるからさ!」
ライアンは昔から普通の人と違っていた。それが何故なのか祖父に聞いたこともあるが祖父も何故かよくわかっていなかった。
「そうかい?助かるよ。お医者さんとこに行くからついて来てくれるかい?」
ライアンと女主人は治療所へ向かい、医者の指示の元、少年の治療行った。ライアンの血のおかげなのか状態は安定し、一度宿屋でライアンの隣の部屋で休む事にした。宿に帰るとライアンは一人の女性に呼び止められた。彼女は少年の連れで診療所でずっと心配そうに看病して女性であった。
「あの……ありがとうございました。お医者さんから聞きました。血を分けてくださったと。体調は大丈夫ですか?」
「ん?ああ!俺は元気だよ!それより俺もお礼言わせてくれ。あんた達、リード達を助けてくれたんだろ!」
「リード?ああ兵士様達の事ですね。私は何もできませんでしたが……私の連れ……レオさんがいてくれたお陰です。」
「そうか!あいつレオって言うんだな……俺、ライアン・オーベルグ。あんたは?」
「私は……マリエラ。マリエラ・フェルスティーゼです。」
「そっかマリエラかよろしくな。」
「はい。では私はこれでレオさんが心配なので……また明日改めてお礼を言わせてください。」
「おう!また明日な」
二人はそう言い部屋に戻った。そして朝まで眠りについた。ライアンは夢の中だったが、周りが騒がしい事に気付き、目が覚めた。
「んあ……?また騒がしいな。今度はなんだろ」
外に出るとそこには多くの兵士が大声をあげていた。だが兵士は王国の兵士ではなく帝国の鎧を身に着けていた。
「アンナさん!何があったんだ!?あいつらは?」
女主人をみかけライアンは声をかけた。アンナは慌てていたがライアンをみて少し落ち着きを取り戻した。
「ライアン!実は帝国の奴らが突然やって来てね。ここは国境の町だから来ることもあるんだけどなんだかいつもとは様子がおかしくてね……」
確かに兵士達は大勢いて全員武装をしている。騒ぎに集まって町民も集まり出した頃、兵士の頭目らしき男が声を上げた。
「聞け!フォテスを信仰する邪教徒どもよ。我はグスタフ・ドーラ。サザマ様を信仰するヴァンデッシュ帝国の信徒である。これよりサザマ様の代行者であるヴァルセルム様の命により……」
グスタフの言葉に続き兵士達は一斉に魔導銃を構えた。
「お前たちを救済する!」
その言葉の後、魔導銃による魔力弾により町民は倒れ、悲鳴が上がり、その場は血の惨劇となった。
「やめろーー!」
ライアンはその場に飛び出し、剣を振り回したが、無数の銃弾により、手と足を撃たれすぐその場を動けなくなった。
「ほう……勇ましいな。だが、力がなければその勇気もただの愚行よ。安心せよ、死こそ救いである。サザマ様がお前を救うだろう。」
「何言ってんだ!お前!」
「この世界はフォテスのせいで悲しみや怒りで満ち溢れている。人は生きているから苦しむのだ。死こそが救いなのだ。だから我らはサザマ様をこの世に蘇らせ世界を救うのだ。」
そう言うグスタフの目は冗談ではなく真剣そのものだった。強烈な信仰。それが彼にとっての正義。ライアンはリードの言葉を思い出した。正義とは人によって変わる、曖昧なものだと実感した。
「安心しろ。貴様も救ってやる。サザマ様は邪教徒だろうと平等に救ってくださる。」
グスタフは腰の剣を抜き、体を撃たれ、地に這いつくばってるライアン目掛けて振り下ろそうとした、が、その時、宿屋の二階の窓が割れ、そこから一人の少年が現れた。その者はライアンが救った少年だった。
「貴様は……!?死神……!!」
どうやらグスタフはレオの事を知っている様だった。帝国の住人である彼らなら知っているのも当たり前なのかもしれない。レオは容赦なくグスタフの手を切り落とし、レオに向かって魔導銃を放った兵士の弾を影の中に入りかわし、素早く短剣を影の中から取りだし、兵士に向かって投げ、鎮圧した。そして命を奪おうとした。が、ライアンはそれをみて止めた。
「待ってくれ!」
その言葉にレオは一旦手を止めた。
「そいつらを殺すのはちょっと待ってくれないか。もうすぐリード達も来ると思うし、法で裁くべきだと思う。」
「こいつらは多くの人を殺したのにか?」
確かにグスタフ達は人殺しだ。法で裁くにしても結局は処刑されるだろう。でもライアンは「それでもダメだ」と言った。
レオはライアンの後ろに自分を追って走って来たマリエラを見た。
「フェルスティーゼ。あんたはどう思う?こいつと同じ意見か?」
「え……」
マリエラはそう言われレオの目を逸らし下を見た。
「マリエラ!」
ライアンは彼女の名を叫んだ、レオを止めて欲しい、その一心だった。マリエラも少し悩みはしたが、すぐ彼女はレオの目を見て言った。
「はい……私も同意見です。」
「そうか……」
レオは剣を影にしまい。後からやって来たリード達によってその場は鎮圧された。レオ達は騒ぎに紛れ姿を消す、ライアンは声をかけようとしたが、魔導銃で撃たれた傷による出血で意識を失ってしまった。




