遅れて重なる 第80話
第80話
「最初の航路」
《第一探索チーム 選定開始》
その文字列を見た瞬間。
全員が嫌な顔をした。
特にリノ。
「やだ」
即答だった。
「絶対やだ」
ユリが頷く。
「珍しく同意」
カレンは頭痛を堪える顔をしている。
「……なんでこう、問題が片付く前に次が来るの」
ギアはベッドの上で苦笑した。
「世界ってそういうもんだろ」
「アンタが言うと腹立つ」
その時。
モニター表示が切り替わる。
《同期適合者 照合中》
《候補選定》
《第一位——》
全員の視線が集まる。
《ギア=ゼロ》
「だろうな!!」
カレンが叫ぶ。
リノが机を叩く。
「却下!!」
ユリが冷静に追加する。
「まだ半壊してる患者」
ギアは片手を上げる。
「人権を要求します」
「却下」
三人同時だった。
イリスだけが少し笑っている。
だが、モニター表示は止まらない。
《第二位:イリス》
《第三位:カレン》
「は?」
カレンの顔が凍る。
リノが後退する。
「待って待って待って」
嫌な予感しかしない。
そして無情にも表示は続く。
《第四位:リノ》
《第五位:ユリ》
沈黙。
完全な沈黙。
ユリがゆっくりモニターを見る。
それから。
「帰る」
踵を返した。
リノも続く。
「賢明!!」
だが扉が開かない。
全員止まる。
モニターへ新しい文字。
《外宇宙接続開始まで残り:01:59:57》
《探索チーム強制同期プロトコル 起動》
カレンが真顔になる。
「……最悪」
ギアは笑うしかなかった。
「強制かよ」
その瞬間。
部屋全体へ同期光が走る。
五人の視界へ、 同時に情報が流れ込む。
星図。
未知文明。
外宇宙航路。
そして——
“座標”。
ユリが眉をひそめる。
「……これ」
「遭難信号?」
来訪者の黒い船が残したデータだった。
外宇宙辺境。
観測崩壊領域。
そこから、 断続的にSOSが発信されている。
イリスが静かに呟く。
「生存反応……ある」
カレンがデータを拡大する。
その瞬間、 彼女の顔色が変わった。
「待って……このコード」
「アーカイブ文明のじゃない」
ギアが聞き返す。
「じゃあ誰のだ」
沈黙。
カレンは震える指で、 表示された文字列をなぞる。
そして、信じられないものを見る顔で言った。
「……人類のコードよ」
空気が止まる。
リノが乾いた声を出す。
「はい?」
ユリの眠そうな目が、 初めて大きく開かれる。
「……外宇宙に、人類がいる?」
モニターが答えるように点滅する。
《発信元識別》
《旧観測世界コード一致》
《発信時刻——》
表示が乱れる。
ノイズ。
そして最後の一文だけが、 鮮明に浮かび上がった。
《こちらAE-01遠征隊》
《生存者あり》
ギアの背筋に、 冷たいものが走る。
AE-01。
それは、 自分達の世界番号。
だがそんな遠征隊は存在しない。
少なくとも、 “この歴史”には。
イリスが小さく呟く。
「……別の、ループ」
カレンが顔を上げる。
理解してしまった。
観測世界は終わった。
だが無数の失敗世界すべてが、 完全に消えたわけじゃない。
そのどこかに。
取り残された人類がいる。
沈黙。
そしてギアはゆっくり立ち上がった。
まだ身体は、痛むでも。
その目だけは、 もう止まっていなかった。
リノが頭を抱える。
「うわぁ……」
ユリが深く溜息をつく。
「また始まった」
カレンは額を押さえながら、 それでも小さく笑う。
イリスは静かにギアを見る。
ギアは窓の外、 朝焼けの空を見上げた。
未知の宇宙。
壊れた世界の残響。
まだ終わっていない物語。
彼は小さく呟く。
「迎えに行こうぜ」




