遅れて重なる EPILOGUE
EPILOGUE
「未定義航路」
西暦不明。
人類が“観測文明”へ分類されてから、 七年後。
外宇宙航路――第十三仮設ゲート宙域。
巨大な恒星間港湾都市が、 静かに光を放っていた。
無数の船。
無数の文明。
機械生命体。 光子知性体。 液体種族。 重力圧縮体。
あらゆる “異星” が行き交う中。
その港の片隅に、 やたら騒がしい船が停泊していた。
艦名――
《アウローラ》
旧式。 違法改造多数。 外装ボロボロ。
だが。
“未定義存在” 人類が初めて所有した、 外宇宙探査船だった。
「だから!!」
艦内に怒声が響く。
「誰よエンジン冷却ラインにラーメン流し込んだの!!」
「リノ」
ユリが即答する。
「違うもん!!」
「私は“湯切り”したもん!!」
「そこじゃない!!」
カレンの悲鳴が艦内へ反響した。
警告灯が点滅する。
《機関部温度上昇》
《原因:油分》
「終わった……」
カレンが頭を抱える。
その横で、 イリスが静かに笑っていた。
昔より、 ずっと自然に。
彼女は窓の外を見る。
外宇宙。
星々の海。
かつて “観測の檻” に閉じ込められていた世界は、 今や無限の航路へ繋がっていた。
未知文明との接触。
失われた同期世界の探索。
観測者残骸との遭遇。
人類は今も、 毎日のように問題を増やしている。
だが誰も、 空を閉じようとは言わなかった。
その時。
艦橋後方の自動扉が開く。
ギアが入ってくる。
相変わらず無精な歩き方。
だが、 その瞳だけは昔より少し穏やかだった。
「準備できたか?」
カレンが睨む。
「できてない」
「エンジン半壊」
「食料管理崩壊」
「リノはさっき冷却管爆発させた」
「事故ですー!」
ギアは吹き出す。
ユリは椅子に座ったまま、 眠そうに窓を見ている。
その時。
艦内モニターが点灯した。
《外宇宙救難信号 受信》
全員の視線が向く。
座標不明。
発信源不明。
ただし、最後のコードだけは、 はっきりしていた。
《AE-Series》
沈黙。
そして。
リノが嫌そうな顔をする。
「……絶対ヤバいやつ」
「だな」
ギアは笑った。
イリスが彼を見る。
その瞳は、 もう孤独ではなかった。
ギアは操縦席へ座る。
窓の向こう、 無限の星海を見る。
未知。
危険。
無数の可能性。
観測者達ですら定義できなかった、 “未来”。
それが今、 目の前に広がっている。
ギアはエンジンを起動した。
《アウローラ》が、 ゆっくり宇宙港を離れていく。
星々の海へ。
未定義の航路へ。
誰も知らない、 その先へ。
そして――
人類はまだ、 未完成のままだった。
『第2部』 「完結」
読んでくださりありがとうございました。




