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第2部   第8話

  第2部     



第8話   「深階層咆哮」



 低い唸り声が、地下通路を震わせていた。

 壁の配線が明滅する。

 熱。

 振動。

 空気そのものが重い。

 ユリは微動だにせず、前方へ銃口を向けていた。


「来る」


 その直後。

 通路奥の隔壁が内側から吹き飛んだ。

 轟音。

 鉄片が飛び散る。

 現れたのは、異常な巨体だった。

 四メートル級。

 黒い外殻。

 何本もの腕。

 顔の位置には赤い発光器官だけが並んでいる。

 リノが笑う。


「うわ、気持ち悪っ」


「笑ってる場合ですか!」


 カレンが怒鳴る。

 だがその声に、わずかな震えが混じっていた。

 ギアは気づく。

 彼女は恐怖を隠している。

 巨体異型が咆哮する。


《GAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーー》


 音じゃない。

 脳へ直接響く不快音。

 瞬間。

 カレンが膝をついた。


「っ……!」


「カレン!?」


 彼女の端末が激しく警告を鳴らす。



《Mental pressure detected》

(精神圧迫を確認)


 ユリが即座に前へ出た。


「下がれ」


 重火器展開。

 肩部ユニットが開く。

 次の瞬間。

 連続射出砲火。

 爆炎。

 地下通路が白熱する。

 だが異型は止まらない。

 外骨殻が硬過ぎる。

 赤い眼がギアを見た。

 その瞬間だった。

 ギアの頭へ、知らない映像が流れ込む。

 白い部屋。

 無数の培養槽。

 そして中央に立つ、白い少女。

 長い髪。

 赤い瞳。


 イリス。


《Synchronization progressing》

(同期進行中)


 声が聞こえる。

 機械音声。

 だがどこか優しい。

 ギアの視界が揺れる。


「……っ」


「ギア!?」


 リノが振り返る。

 その隙を突き、異型が腕を振り下ろした。

 間に合わない、危ない。

 誰もがそう思った。

 だが。

 ギアの身体が勝手に動く。

 一歩。

 半回転。

 最小動作。

 異型の腕を避けながら、壁面を蹴る。

 その動きに、全員が目を見開いた。


「えっ……」


 リノが止まる。

 速い。 いや。

 “美しい”。

 機械みたいに正確なのに、人間離れした滑らかさだった。

 ギアは空中で異型の首筋へ触れる。

 ただ、それだけ。

 次の瞬間。

 異型の巨体が崩れ落ちた。

 内部神経を、一撃で断たれていた。

 沈黙。

 誰も動けない。

 ユリだけが静かに言う。


「……今の動き」


 ギア自身が、一番驚いていた。


「俺は……」


 その時。

 頭の奥で、少女の声がした。


《見つけた》


 優しい声。

 懐かしい声。

 ギアの呼吸が止まる。

 そして通路の監視モニター全てへ、同じ映像が映った。

 白い少女。

 赤い瞳。

 イリス。

 彼女は静かに微笑み、こう告げた。


《Gear》

(ギア)


《やっと、届いた》





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