遅れて重なる 第73話
第73話
「外宇宙信号」
巨大な “眼” が、 モニター越しにこちらを見ていた。
部屋の空気が凍る。
ノイズ混じりの映像。
だが、 その視線だけは異様なほど鮮明だった。
ギアが低く呟く。
「……まだ終わってなかったか」
カレンは即座に端末へ飛びつく。
キーボードを叩き、 外部ネットワークへアクセス。
だが次の瞬間、 彼女の顔色が変わった。
「違う……!」
「これ、オブザーバーじゃない!」
ギアとイリスが同時に振り向く。
モニターへ、 次々とデータが流れ始める。
《観測構造 不一致》
《既知宇宙法則 外部》
《高次位相通信》
《翻訳開始》
部屋の照明が点滅する。
《通信負荷》
世界規模の同期波が発生している。
イリスが小さく呟いた。
「……外宇宙」
ギアが眉をひそめる。
「そんなのまであんのかよ」
「あるんじゃない」
カレンが震える声で言う。
「今、“繋がった”の」
沈黙。
その意味は重かった。
観測塔崩壊。
同期檻消失。
人類が“観測不能領域”へ移行した結果——
閉じていた宇宙境界そのものが、 開いてしまった。
モニターの“眼”が揺れる。
その奥。
無数の光点。
星ではない。
巨大構造物。
文明。
艦隊。
都市。
今までの人類では想像すらできなかった、 異質な宇宙。
そして、通信音声が流れた。
最初はノイズ。
やがて、 言語へ変換される。
『——確認』
機械音ではない。
知性を持つ声。
だが人間とも違う。
『低位閉鎖宇宙より、観測遮断反応を確認』
『驚異度を再評価』
ギアが顔をしかめる。
「感じ悪ぃな」
カレンは笑わない。
彼女はデータを見続けている。
「……規模が違う」
「文明レベルが、今までの比じゃない」
イリスが静かに聞く。
「敵なの?」
誰も答えられない。
すると、モニターの “眼” が、 ゆっくり細められた。
まるで。
こちらを“観察”するように。
『質問』
声が響く。
『貴文明は、何故まだ存在している?』
部屋が静まり返る。
ギアは眉をひそめた。
「は?」
『観測檻を破壊した文明は通常、自壊する』
『だが貴文明は存続している』
『理解不能』
ギアは鼻で笑う。
「そりゃこっちの台詞だ」
その返答に。
モニターの向こう側で、 僅かな沈黙が発生した。
まるで、 想定外だったように。
カレンが小声で言う。
「……ギア」
「多分だけど」
「向こう、“対話”してる」
イリスが目を瞬く。
「侵略じゃなくて?」
「分からない」
カレンは唇を噛む。
「でも少なくとも、今すぐ攻撃はしてない」
再び声。
『照合完了』
『貴文明は、“観測外変異種”へ分類されました』
『正式接触を要求します』
その瞬間。
世界中で同期波が発生した。
窓の外。
空が揺らぐ。
青空の上に、 巨大な円環が出現する。
雲を押し退けながら、 ゆっくり開いていく “門”。
人類史上初。
外宇宙との接続。
ギアは立ち上がる。
まだ傷だらけの身体で。
カレンが睨む。
「アンタまだ安静」
「無理」
ギアは空を見る。
巨大な門。
その向こうに広がる、 未知の宇宙。
恐怖はあった。
だが、それ以上に。
「……面白くなってきた」
カレンが頭を抱える。
「最悪」
イリスは小さく笑った。
その時。
門の中心から、 一隻の黒い船が姿を現す。
細長い船体。
生物にも機械にも見える外殻。
そして船首中央には——
巨大な “眼” の紋章が刻まれていた。




