遅れて重なる 第64話
第64話
「失敗作達の行進」
空が割れていた。
赤黒い亀裂から、 無数の“ギア”が降下してくる。
音もなく。
感情もなく。
まるで、 量産された亡霊。
ギアは息を呑む。
全員、 自分の顔をしていた。
傷だらけの者。
機械化された者。
半身が崩壊している者。
中には、 完全に同期侵食された異形すらいる。
だが共通していた。
その瞳には、 希望が残っていない。
《排除開始》
ARCHIVE COREの声が、 空全体から響く。
《観測安定性維持を最優先》
《現行観測個体GEAR-58を危険因子認定》
次の瞬間。
過去のギア達が一斉に動いた。
「来るぞ!」
レイが叫ぶ。
同時に、 最前列の一体が高速接近。
ギアへ拳を叩き込む。
轟音。
ギアは咄嗟に受け止めるが、 地面が砕けた。
重い。
まるで、 自分自身と殴り合っている感覚。
いや。
実際そうだった。
「っ……!」
次々に襲い来る過去観測個体。
攻撃の癖が読まれる。
回避先を先回りされる。
全部、 “自分だから”だ。
レイが後方から撃ち抜く。
蒼白い同期弾が、 数体を吹き飛ばした。
「ボサッとしてんな!」
レイの動きは鋭い。
だがその表情には、 焦りがあった。
「数が多すぎる……!」
GEAR-00は動かない。
ただ、 空を見上げている。
その視線の先。
ARCHIVE CORE中心部。
巨大なリング内部で、 現在のイリスがゆっくり浮上していく。
白い髪。
閉じた瞳。
無数のコード。
既に、 人間の姿ではなくなり始めていた。
《同期率:99.7%》
《観測者固定処理最終段階》
ギアの顔色が変わる。
「イリス!」
その瞬間。
一体の過去のギアが、 背後から刃を振るう。
回避が間に合わない。
だが、――ガギン!!
金属音。
誰かが割り込んだ。
「……は?」
ギアの目が見開かれる。
庇ったのは。
GEAR-00だった。
黒い刃で、 過去個体の攻撃を止めている。
レイが驚愕する。
「おい…… お前が動くのかよ」
GEAR-00は答えない。
ただ静かに、 過去個体達を見渡す。
そして。
『……もう終わりにする』
空気が変わった。
次の瞬間。
GEAR-00の身体から、 黒い同期波動が解放される。
轟音。
空間全体が震えた。
過去ギア達の動きが止まる。
《警告》
《GEAR-00 行動制限解除》
《観測機構への反逆行為確認》
ARCHIVE COREが、 初めて警告音を乱した。
GEAR-00が、 ゆっくり空を見上げる。
『私は最初に失敗した』
『だから、 お前達を作った』
『繰り返し』
『やり直し』
『可能性』
黒い瞳が、 現在のギアを見る。
『だが、 もう十分だ』
その言葉には。
初めて、 “人間”の感情があった。
苦しみ。
後悔。
諦め。
そして。
僅かな希望。
レイが小さく笑う。
「……やっと認めたか」
GEAR-00は、 巨大なARCHIVE COREへ刃を向けた。
『GEAR-58』
ギアが顔を上げる。
『行け』
空間が揺れる。
GEAR-00が、 一人で過去観測個体の群れへ踏み込んだ。
圧倒的だった。
黒い刃が閃く度、 過去ギア達が消滅する。
だが数が減らない。
無限に湧いてくる。
GEAR-00の身体にも、 徐々に亀裂が走り始めた。
レイが叫ぶ。
「長くは持たねぇ!」
ギアはイリスを見る。
空中に固定された少女。
もう、 時間がない。
その時。
閉じていたイリスの瞳が、 ゆっくり開いた。
白い瞳。
だが。
ほんの僅かに。
涙だけが、 人間のままだった。
そして少女の唇が動く。
『……来て』
ギアは走った。




