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遅れて重なる 第2部  6話

第2部    


第6話  「管理局の女」



 旧型ドローンが停止してから、整備区画の空気は重かった。

 リノは腕を組み、壊れた機体を睨んでいる。


「……絶対おかしいって」


「声がデカい」


「だって“イリス規格を確認”とか言ったんだよ!?」


 ギアは黙ったまま、工具を片付ける。

 だが指先は少し震えていた。

 リノはそれを見逃さない。


「ギア」


「何だ」


「あんた、怖いの、何か隠してる?」

 

その言葉に、手が止まる。

 数秒の沈黙。


「……分からない」


 ギアは低く答えた。


「俺の中で、何かが動いてる」


 リノが珍しく静かになる。

 軽口を叩かない。

 その時だった。

 整備区画の自動ドアが開く。

 冷たい白光。

 細いヒール音。

 規則正しく響く足音に、リノが顔をしかめた。


「うっわ!」


 現れたのは、一人の女だった。

 黒い管理局制服。

 銀色の識別端末。

 長い黒髪を後ろで束ね、鋭い目だけが真っ直ぐ前を見ている。

 その女は迷いなくギアの前まで来ると、薄い端末を開いた。

「識別番号G-13」


 感情の薄い声。


「あなたへ、中央管理局から出頭命令が出ています」


「はぁ?」


 リノが即座に反応する。


「何でギアが呼ばれんのよ」


「ってか、G-13てなに?」

 

女はリノを見もしない。


「機密事項です」


「感じ悪っ」


「リノ」


 ギアが止める。

 女は端末へ視線を落としたまま続けた。


「昨夜、旧世代規格の異常起動が確認されました」


 ギアの目が細くなる。


「……で?」


「調査対象に、あなたが認定されました」


 空気が変わる。

 静かな圧。

 この女、有能だ。

 リノみたいな感情型とは真逆。

 必要な事しか喋らない。

 だが観察だけは鋭い。

 女はギアの指先を見る。

 次に壊れたドローン。

 最後に、モニター画面。

 一瞬だけ、その目が揺れた。


《Synchronization rate : 12 percent》

(同期率:12パーセント)


 まだ画面に残っていた表示。

 女の視線が止まる。


「……あり得ない…」


 初めて感情が漏れた。

 リノがニヤッとする。


「あ、なに、今びびった」


「違います」


 即答。

 だが女は画面へ近づく。

 指先で表示をなぞる。


「この規格は封印済みのはず……」


 その時。

 区画全体の警報が鳴り響いた。


《Warning》

(警告)


《Sector 7 gate break》

(第7区画ゲート破損)


《Unknown type invasion》

(未確認異型侵入)


 赤い警告灯が回る。

 リノの顔が一瞬で変わった。


「来た!」


 さっきまでの空気が消える。

 完全に戦闘屋の顔。

 彼女は壁から大型武具、槍を引き抜いた。


「ギア!行くよ!」

 

だがその前に。

 黒髪の女が静かに前へ出る。

 腰の端末を閉じる。


「中央管理局戦術補佐官」


 そして彼女は、わずかに頭を下げた。


「カレン・アークライトです」

 

次の瞬間。

 彼女の身体が消えた。


「え――?」


 リノが声を漏らす。

 風だけが通り抜ける。

 直後。

 区画入口へ突入してきた異型の首が、空中で切断された。

 遅れて金属音。

 細いワイヤーブレードが、赤い火花を散らして戻ってくる。

 カレンは着地すると、静かに髪を払った。


「話は、移動しながらにしましょう」


 ギアは初めて思った。

 この女。

 かなり強い。


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