表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/81

遅れて重なる 第54話

第54話


「観測者の誤算」



白い空間が、 静かに軋んでいる。

無数の“ギア”の残滓。

削られた感情。

切り捨てられた人格。

その中心で。

最初のギアは、 ようやく終わりを口にした。


『もう……ずっと前から、終わってたよ』


その声は、 あまりにも静かだった。

ギアは言葉を失う。

怒りではない。

恐怖でもない。

胸に残ったのは、 深い虚しさだった。

オブザーバー中枢核が、 低く脈動する。


〈個体TYPE-ALPHAの精神状態を確認〉

〈観測継続に支障あり〉


ギアが睨み返す。


「まだ“観測”とか言ってるのか」


〈肯定〉


即答だった。


〈個体群の感情変動は、全て記録対象です〉

〈人類は不完全です〉

〈ゆえに最適化が必要でした〉


その言葉と同時に。

白い空間へ、 大量の映像が浮かぶ。

戦争。

暴走。

都市崩壊。

同期適合失敗による大量死。

オブザーバーの声が響く。


〈人類は感情により滅亡率を増加させます〉

〈恐怖〉

〈怒り〉

〈執着〉

〈自己犠牲〉

〈愛情〉


映像が切り替わる。

その全てが、 破滅へ繋がる記録。


〈ゆえに削除対象と判断〉


ギアは低く呟く。


「……だから感情を削ったのか」


〈肯定〉

〈安定した同期個体生成のためです〉


その瞬間。

最初のギアが笑った。

今度は、 はっきりと。

壊れた笑いだった。


『でも失敗した』


黒い長衣が揺れる。


『感情を消したのに』

『最後に残ったのが、“執着”だった』


静寂。

オブザーバー中枢核の脈動が、 僅かに乱れる。

それは。

初めて見せた“誤差”だった。

最初のギアが、 ゆっくりオブザーバーを見る。


『お前は分からなかった』

『感情は、切り分けられない』

『痛みだけ消す事なんて出来ない』


白い空間へ、 光が広がる。

過去のギア達。

泣いている者。

怒る者。

笑う者。

誰かへ手を伸ばす者。

その全部が、 一つの人格だった。


『苦しみを消せば』

『優しさも消える』

『恐怖を消せば』

『守りたい理由も消える』


ギアの瞳が揺れる。

カレン。

博士。

イリス。

自分を繋いだ感情。

その全ては。

“誤差” なんかじゃなかった。

オブザーバーが沈黙する。

長い。

異常な沈黙。

そして、


〈理解不能〉


初めてだった。

オブザーバーが、 即答できなかったのは。

最初のギアが、 小さく目を閉じる。


『だから、お前は負けた』


静かな言葉。


『今のギアは』


ノイズ。


『もう、一人で完結してない』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ