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遅れて重なる 第53話


第53話


「繰り返しの墓標」



白い。

どこまでも白い空間。

音も、 重力も、 境界すら曖昧だった。

ギアは静かに立っている。

その周囲へ、 無数の光が浮かんでいた。

記憶。

同期残滓。

人格記録。

過去に消えた、 全ての“ギア”。


『……ここは』


ギアの声が、 遅れて響く。

すると、背後から、 静かな声が返ってきた。


『墓場だよ』


ギアが振り向く。

そこにいた。

最初のギア。

白い髪。

黒い長衣。

だが前回のような威圧感は、 薄れていた。

代わりにあるのは。

酷く疲れた目だった。


『ここには』


最初のギアが、 周囲の光を見る。


『失敗した俺達が残ってる』


光が揺れる。

その一つ一つに、 感情の残響があった。

怒り。

恐怖。

絶望。

諦め。

そして。

“助けたかった” という願い。

ギアは静かに呟く。


「全部……俺なのか」


『ああ』


最初のギアが頷く。


『同期する度、人格は少しずつ削れた』


『死ぬ度に再接続された』


『その度に、不要部分として切り捨てられた』


ギアの背筋が冷える。

光の正体。

それは。

過去の自分の断片だった。


『怒りを捨てた』

『恐怖を捨てた』

『痛みを捨てた』

『迷いを捨てた』


最初のギアが、 静かに自分の胸へ触れる。


『最後に残ったのは』


ノイズ。


『イリスを失いたくない』


その感情だけ。

白い空間が軋む。

ギアは理解してしまう。

最初のギアは、 壊れたんじゃない。

削られ続けたのだ。

同期システムによって。

オブザーバーによって。

“最適化” の名の下に。

その時。

空間全体へ、 低い駆動音が響いた。


〈観測継続〉


オブザーバーの声。

白い空間の奥。

巨大な黒い球体が、 ゆっくり姿を現す。

オブザーバー中枢核。

無数のケーブル。

脈動する光。

まるで。

巨大な機械の心臓。


〈個体G-03へ通告〉

〈同期システムは、人類存続のため最適化されています〉


ギアは睨み返す。


「その結果がこれか」


光の墓標。

壊れた人格。

繰り返された人生。

だがオブザーバーは、 感情なく続ける。


〈感情は誤差です〉

〈個体維持より、種全体の存続を優先〉


その瞬間。

最初のギアが、 小さく笑った。

乾いた笑い。


『そうやって』

『俺達は削られた』


白い空間へ、 大量の人影が浮かぶ。

過去のギア達。

無数の失敗。

無数の死。


『誰かを助けたい』

『怖い』

『生きたい』

『逃げたい』

『苦しい』


その全部を。

オブザーバーは、 “不要” として切り捨てた。

だから。

最後に残ったのが。

“執着だけの存在”。

ギアは拳を握る。

そして。

最初のギアを見る。


「……お前は、本当は終わりたかったんだな」


静寂。

最初のギアは、 しばらく答えなかった。

やがて。

消えそうな声で呟く。


『もう』


ノイズ。


『ずっと前から、終わってたよ



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