遅れて重なる 第49話
第49話
「置き去りの時間」
霧が静かに流れていく。
TYPE-ALPHAは、 もう攻撃してこなかった。
巨大な機体は、 その場で立ち尽くしている。
まるで。
長い長い時間、 ずっと待ち続けていたかのように。
『俺は、置いていかれた』
その言葉だけが、 重く空気へ残っていた。
ギアは静かにTYPE-ALPHAを見る。
胸が痛かった。
それは恐怖ではない。
共感に近い。
もし何か一つ違っていたら。
もし誰とも繋がれなかったら。
目の前にいる存在こそ、 “自分 ”だった。
TYPE-ALPHAのコアが、 不安定に点滅する。
『イリスを守れば』
ノイズ。
『終われると思った』
ギアの瞳が揺れる。
『でも終わらなかった』
『死ねなかった』
低い駆動音。
霧の中で、 無数の回収機が静止している。
それはまるで、 TYPE-ALPHAの孤独そのものだった。
博士が苦しそうに目を伏せる。
「……人格固定の副作用だ」
カレンが小さく呟く。
「副作用ってレベルじゃないでしょ」
博士は掠れた声で続ける。
「同期によって存在情報が保存された結果、死と分離した」
「だが精神だけが崩壊せず残り続けた」
ギアはゆっくり前へ出る。
カレンが反射的に腕を掴む。
「おい」
「大丈夫」
「全然大丈夫そうに見えない」
だがギアは止まらなかった。
TYPE-ALPHAの前へ立つ。
巨大な機体。
壊れた亡霊。
その奥にいる、 “最初のギア”へ向けて言う。
「……お前は、まだ終わりたいのか」
静寂。
TYPE-ALPHAのコアが、 ゆっくり明滅する。
『分からない』
その答えが、 あまりにも人間らしかった。
『長すぎた』
『繰り返しすぎた』
『何を待っていたのかも、もう曖昧だ』
ギアは拳を握る。
その苦しみは、 想像すらできない。
何度も壊れた。
何度も繰り返し。
時間から取り残された存在。
TYPE-ALPHAが、 ゆっくりギアを見る。
『でも』
ノイズ。
『お前を見た時、思った』
青白いコアが、 僅かに強く光る。
『まだ終わっていない “俺” がいる』
カレンが息を呑む。
TYPE-ALPHAは、 今のギアを見ている。
嫉妬でもない。
憎悪でもない。
“可能性” として。
『だから知りたい』
霧が揺れる。
『どうすれば、お前みたいになれた』
その問いに。
ギアはすぐ答えられなかった。
だが、隣へ並ぶ気配があった。
カレン。
博士。
そして掌の結晶。
ギアは静かに言う。
「……多分、一人で答えを出さなかったからだ」
TYPE-ALPHAが沈黙する。
その時だった。
突然。
全ての回収機の単眼が、 一斉に赤く点滅した。
博士の端末へ、 警告が走る。
《OBSERVER CORE 強制介入》
博士の顔色が変わる。
「まずい!」
次の瞬間。
オブザーバーの声が、 空間全体へ響き渡った。
〈TYPE-ALPHAの感情変動を確認〉
〈観測誤差拡大〉
〈修正を開始します〉
TYPE-ALPHAが苦しそうに頭を押さえる。
『……ッ!?』
青白いコアへ、 黒いノイズが侵食し始めた。
オブザーバーが。
“最初のギア”を、 再び制御しようとしていた。




