遅れて重なる 第48話
第48話
「一人ではない理由」
霧の中。
TYPE-ALPHAの青白いコアが、 静かに脈動していた。
『どうして、お前は』
ノイズ。
『まだ、“一人じゃない” んだ』
その声は、 責めているようには聞こえなかった。
むしろ。
理解したかったのだ。
何故、 自分は壊れたのに。
何故、 “今のギア” は壊れずに立っているのか。
ギアはゆっくり息を吐く。
答えは、 簡単じゃない。
でも、確かなものだった。
「……最初は、分からなかった」
TYPE-ALPHAの単眼が揺れる。
ギアは続ける。
「俺もずっと、一人で抱え込むつもりだった」
脳裏に、 過去が浮かぶ。
暴走。
戦闘。
失敗。
何度も自分だけで終わらせようとしてきた。
でも、
『死ぬなよ、バカ!』
カレンの怒鳴り声。
『お前まで失いたくない』
博士の震える声。
『今度は、一人じゃないから』
イリスの微笑み。
ギアは静かに顔を上げる。
「でも、あいつらが勝手に入ってきた」
カレンが即座に反応する。
「言い方!」
だがその声には、 少し笑いが混じっていた。
ギアも僅かに笑う。
「追い出そうとしても残った」
「だから……気づいた」
TYPE-ALPHAが、 動かず聞いている。
ギアはゆっくり言った。
「一人で守ろうとするから、壊れるんだ」
静寂。
その言葉に。
TYPE-ALPHAのコアが、 不安定に明滅した。
『……理解不能』
声が揺れる。
『誰かを巻き込めば』
ノイズ。
『失うだけだ』
その瞬間。
ギアの脳裏へ、 大量の感情が流れ込んだ。
孤独。
後悔。
恐怖。
繰り返し。
何度も失った記憶。
最初のG-03は、 誰も守れなかった。
だから。
誰も近づけなくなった。
ギアは苦しげに目を細める。
「お前……」
TYPE-ALPHAが低く呟く。
『一人なら』
『壊れるのは、自分だけで済む』
霧が揺れる。
回収機達が、 沈黙したまま周囲を囲んでいる。
まるで。
この会話そのものを、 観測しているように。
博士が小さく呟いた。
「人格が……まだ残っている」
完全な怪物ではない。
壊れながらも。
まだ、 “人” の部分が消えきっていない。
その時。
結晶の光が、 優しく瞬いた。
『違うよ』
イリスの声。
TYPE-ALPHAの動きが止まる。
『あなたも、一人じゃなかった』
静寂。
ノイズ。
TYPE-ALPHAのコアが、 激しく揺れ始める。
『……違う』
初めて、その声へ、 感情が滲んだ。
『俺は、置いていかれた』
重い言葉だった。
『何度呼んでも』
『誰も、戻ってこなかった』
霧の奥。
巨大な機体が、 僅かに震えている。
その姿は、 怪物というより。
長い時間、 独人で立ち尽くしていた亡霊のようだった。




